第1回 RFIDシステム用プログラム開発の心得


西村 泰洋
富士通株式会社
ビジネスインキュベーション本部
開発部
担当課長
2007年7月11日
RFIDシステムに必要なプログラムの実装方法はベンダによってクセがある。本連載はRFIDシステムに必要とされるプログラミングスキルを伝授するバイブルである(編集部)

 これまで「RFIDシステム導入バイブル」でRFIDシステムの導入と構築の基本について解説しました。その後の「RFIDプロフェショナル育成バイブル」では、RFIDシステムのプロフェショナルとなるための方法論やスキルを解説しました。しかしながら、プログラミングのレベルまでいかないと本当の意味でのシステム構築になりません。

 そこで、今回から始まる「RFIDシステムプログラミングバイブル」では、代表的なメーカーの機器を取り上げながら、どのようにプログラミングしたらよいのかを考えてみます。これにより、RFIDシステム導入・構築にかかわる基本的かつ重要なファクターが完結できるでしょう。

 内容はどうしても細かくなってしまいますが、筆者を含めた業界の関係者全員が強く望んでいる早急なRFIDシステムの市場拡大のためには、このような連載が不可欠であると考えています。RFID中心の展開となりますが、最新テクノロジーの実装状況やトレンドも併せて取り上げていこうと思います。

 メーカーごとにプログラミングのクセがある

 初めに申し上げておきたいのは、RFIDシステムのプログラミングを考える場合、メーカーごとにその手法が異なるということを押さえておいてください。「RFIDシステム導入バイブル」の第3回では以下のように解説しています。

 ここでシステムエンジニアが気を付けるべき点は、ドライバ層にISO、EPCglobalなどのエア・インターフェイス(規格)が存在して、実際にシステムエンジニアが接するAPI層は各メーカーが独自のAPIコマンドを提供しているということです。従って、エア・インターフェイス、例えばISO 18000-6 TypeB、EPCglobal Class 1 Generation2(Gen2)などが同一であってもメーカーが異なれば、APIコマンドの名称と機能は異なるということになります。

 このようにメーカーが提供する機器ごとの特徴をとらえながら、プログラミングを進めていくことになります。面倒くさいと思われる方も多いかもしれませんが、RFIDシステム開発の現状はこのとおりなのです。

 IPネットワークやデータベースの世界などでは、特定のベンダがその分野での覇権を握ってしまえば、それがデファクトとなるわけです。ところが、RFIDシステムの世界では、そのようになるまでに数年はかかるでしょう。

 しかしながら、RFIDシステムの導入は進みつつあります。また、学習や経験をしたいという思いが強い読者も多いと思います。あるいは、現実に提案案件を抱えている読者もいらっしゃるでしょう。

 本連載を通じて複数のメーカーの機器の特徴などを理解していただければ、それぞれのRFIDシステムのリーダ/ライタが目指しているところが見えてくるでしょう。また、その違いそのものも興味深く思えるようになるかもしれません。さらに、現時点でのRFIDシステムが最先端の実装技術のプロトタイプのような存在であるということもご理解いただけるでしょう。

 なお、本連載ではメーカーの設計思想や戦略をできるだけ理解していただくために、それぞれの用語、呼称に準じて解説をします。今回は、産業界で主流になりつつある周波数帯であるUHF帯のシステムを取り上げます。今後、2.45GHzや13.56MHzといった周波数帯のシステムも取り上げる予定です。

 UHF帯RFIDシステムの雄「モトローラ」

 今回は米国での導入台数が多く、世界的にも数多くの事例で採用されているモトローラのUHF帯のリーダ/ライタを取り上げます。米ウォルマート、国防省、ラスベガス空港など米国の大型導入事例で採用されており、グローバル市場でのUHF帯リーダ/ライタのシェアの3割はモトローラともいわれています。

 モトローラ機器のイメージを車に例えれば、米国の大型スポーツカーです。送受信用にそれぞれ1枚ずつ、計2枚のアンテナが1セットになっているハイパフォーマンス・エリア・アンテナ「SANT700」は717ミリ×317ミリと非常に大きく、アルミダイキャスト製のリーダ/ライタ「XR480-JP(日本仕様)」に接続すると、どこまでも通信距離が伸びそうな印象です。

 ルーツはMatrics(マトリックス)という会社にあって、その後、Symbol Technologies(シンボル・テクノロジー)、モトローラとM&Aの中で名前を変えてきました。このリーダ/ライタは4代目のモデルになりますが、根本にある技術を継承しつつ、組み込み技術にも適応するなど最新トレンドを取り入れています。

 XR480-JPの基本情報

 SANT700は、送受信各1枚計2枚のアンテナで構成されており、同軸ケーブルを使って1台のXR480-JPに対して最大4台を接続できます。XR480-JPは、ホストコンピュータ(サーバ/PC)にイーサケーブル、USBケーブル、RS-232Cで接続可能です。

XR480-JP(左)とSANT700

 ユーティリティソフトとして、「Administrator Console」が提供されます。これを使って「Read Point」(リーダ/ライタを設置する場所)ごとにXR480-JPの各種設定、RFIDタグの読み取り、通信状態の確認などができます。

 ホストコンピュータとXR480-JPは、

  • XML文書交換(XML over HTTP)
  • バイトストリーム(Byte Stream protocol)

で通信をします。XR480-JPにはWindows CE 4.2が組み込まれており、HTTPサーバとして機能しますので、ホストコンピュータ側のOSや開発言語に依存しません。また、XR480-JP上にミドルウェアやアプリケーションプログラムの実装ができます。これは、PCを必要としないRFIDシステムの構築も可能になることを意味しています。

 モトローラは、API(Application Programming Interface)として上記2つのプロトコルを提供していますが、これをいわゆるWindowsのAPIライブラリと同様にとらえてはいけません。

 XML文書交換にはCGIプログラム群が提供され、バイトストリームには専用のパケットフォーマットとバイトストリームコマンドが用意されています。バイトストリームは、ビットストリーム暗号などを思い浮かべていただくとイメージを持ちやすいかもしれません。

 エア・インターフェイス(Air Protocol)には、EPCglobal Class 1 Generation2(Gen2)、Class 1、Class 0の3種類が選択できます。

 
1/2

Index
RFIDシステム用プログラム開発の心得
Page1
メーカーごとにプログラミングのクセがある
UHF帯RFIDシステムの雄「モトローラ」
XR480-JPの基本情報
  Page2
モトローラ機器のプログラミング
モトローラ機器のモードとアクセスメソッド
連載に共通なサンプルプログラムの仕様


RFIDシステムプログラミングバイブル 連載インデックス


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