第6回
RFIDの本質的価値:
「コンテクスト・アウェアネス」の実現へ
河西 謙治
株式会社NTTデータ
ビジネスイノベーション本部
ビジネス推進部
課長
2006年11月25日
RFIDの本質とは?
それでは、RFIDの本質的価値とはどのようなものだろうか。それを本稿では、「オペレーショナル・エクセレンス(オペレーション効率化による付加価値)」と「ビジビリティ・エクセレンス(状態把握高度化による付加価値)」の2つの価値の実現と、そのさらに先に位置付けられる「アウェアネス・エクセレンス(情報把握から高度活用へ)」に整理してみた。
1. オペレーショナル・エクセレンス
オペレーショナル・エクセレンスとは、経営学的には多様な定義があるが、ここでは「RFIDを活用することによりオペレーション能力(業務遂行能力)の持続的な競争優位性を確立する」という意味合いで使っている。
可視化に基づいたオペレーションの高度化という関係性を持つことも多々あるため、可視化との厳密な分類は難しい面もあるが、例えば、
- 検品処理の自動化:納品時における検品処理の記録漏れや間違いの防止、時間短縮
- 航空手荷物管理:荷物紛失や誤配送の防止、処理時間短縮による結果としての乗り継ぎ時間の短縮
- 生産指示:作業指示の自動表示、取り付け部品誤りの防止
- 医薬品投与の適正化:誤投与防止、飲み合わせ可否の確認
といったものが挙げられる。
これらを整理すると、RFIDによるオペレーショナル・エクセレンスとは、業務遂行時においてRFIDにより作業などが自動化されることによって、誤り(不適切な作業)防止や処理時間の短縮、精度の向上といった、作業現場における競争優位の創出という位置付けとなる。
2. ビジビリティ・エクセレンス
ビジビリティ・エクセレンスは英語的に正しいか怪しい筆者の造語だが、広くRFIDのメリットとして提言されている「可視化」(可視性の向上)、すなわち、モノ(リアル)と情報(バーチャル)の不一致の解消であるとか、これまでリアルタイムには取得できなかった所在や状態の情報の取得が可能になるというものである。
資産管理、通い容器やパレット管理、子供の安心安全管理、配送中の温度管理、生産管理などにおいては、
- 個品管理ができていないため、正確な所在地が把握できなかったり、使用履歴が確認できなかったりする
- 現時点での保有者が把握できず、行方不明になる
- 自分の手を離れてから、目的地に届くまでの間の状態が結果系でしか把握できない
といったように、プロセスや状態がブラックボックス化するという課題があり、これを解決する手段としてRFIDの導入が先導的に行われている領域である。
モノにひも付くメタ情報は多様だが、結果系しか見えないというケースが多い現状をRFIDにより可視化するものであり、いずれはセンサー付きRFIDやセンサーネットワークと融合したネットワーキングによる可視化として、広範囲なトレーシング、トラッキング、センシングを可能にするという付加価値を提供するものである。
アウェアネス・エクセレンスへ
では、オペレーショナル・エクセレンスとビジビリティ・エクセレンスが実現されたその先にあるRFID2.0における革新とはいかなるものなのか。それが、これもすでに各所で語られているキーワードではあるが、コンテクスト・アウェアネスの実現による「アウェアネス・エクセレンス(可視化した情報の高度な活用)」に進化することではないか、と考えている(これも英語として正しい造語ではないかもしれないがお許しいただきたい)。
可視化技術の向上により、ヒトやモノの「状況や状態のトラッキングやセンシング」が、より高度な形で可能になってくる。すなわち、ヒトやモノのプレゼンスの把握が高度化、精緻化するということである。そうすると、RFIDやセンサーで収集した状況や変化の情報に加え、ロケーションやタイムスタンプなど、外部環境情報を総合的に判断して、何がどのような状況に変化しようとしているのかを導き出す「コンテクスト・アウェアネス(状況の認識・分析)」が可能になってくる。
さらにその先には、この把握した状況に対して、コンピューティング環境がどうかかわれるか、どのように動作させるか、足りないものは何か、といったことを「判断」し、判断した結果を「ヒトやモノへのアクション(アクチュエート/サポート)としてフィードバック」を行う。そしてそのアクションによるヒトやモノのプレゼンスの変化を再度トラッキングやセンシング機能により把握するという循環が形成される。
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Index | |
RFIDの本質的価値:「コンテクスト・アウェアネス」の実現へ | |
Page1 ユビキタスコンピューティングとRFIDの関係 |
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Page2 RFIDの本質とは? アウェアネス・エクセレンスへ |
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Page3 アウェアネス・エクセレンスの先鞭(せんべん)をつける RFID2.0へ向けた取り組みが普及を後押しする |
RFID2.0時代に備えるRFID入門 連載インデックス |
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