UHF帯を現場同様の環境で検証「HP RFID Noisyラボ・ジャパン」


柏木 恵子
2007年8月10日
工場や物流センターへのRFID導入において難しいのが電波の制御だ。実環境に極めて近い状況を用意して検証テストが可能な「HP RFID Noisyラボ・ジャパン」を取材した(編集部)

 2005年4月の電波法改正により、UHF帯がRFID向けに解放された。ご存じのとおり、UHF帯の特徴は電波の到達距離が長いことだ。また、複数タグの一括読み取りができるなど物流業界での利用に適している。

 ところが、電波の広がりが大きいために制御が難しいというジレンマが生じることがある。つまり、いわゆる電波暗室のような場所での試験では、実際の運用のために有効なデータを取ることができないのである。

 そこで、トーヨーカネツソリューションズアイデックコントロールズWLソリューションズ日本ヒューレット・パッカード(HP)の4社が共同で設立したのが「HP RFID Noisyラボ・ジャパン」だ。実際の工場や物流センターの倉庫と同様の環境でテストが可能なRFID導入の事前検証施設である。

 制御の難しいUHF帯を実環境に近い状態で事前検証

 HP RFID Noisyラボ・ジャパンは千葉県木更津市のトーヨーカネツソリューションズの工場の敷地内に2005年12月に開設された。親会社のトーヨーカネツが原油・ガス貯蔵用など大型タンクの製造を行っていたこともあり、現地はまさに港湾に面した工場である。

 Noisyラボが入っているのは、トーヨーカネツソリューションズの研究開発部門が使っている棟の一角であり、実際に見学に訪れたときには大型のコンテナ自動仕分けシステムのテストが行われていた。実際の工場や倉庫に近い環境というのは、こういうことである。ちなみにNoisyの由来は、「電波的ノイズが多く発生する環境」から来ている。

 RFIDを利用した物流システムの検証施設はいろいろとあるが、このラボが4社によるアライアンスで設立されたのは、物流分野でのRFID利用には多岐にわたる技術が必要となることが理由だ。ヨドバシカメラのRFIDシステム導入の事前検証でも活用されたという。

 各参加企業は、それぞれの技術について経験や実績を持つ企業がそのノウハウを持ち寄り、以下のような役割を担っている。

日本ヒューレット・パッカード 自社サプライチェーンにおけるグローバルなRFID実装経験とITインテグレーションのノウハウの提供
トーヨーカネツ
ソリューションズ
マテリアルハンドリング設備の実装および、WMS(物流管理センターシステム)を含む庫内輸送システム構築経験によるノウハウの提供
WLソリューションズ RFIDを活用した物流倉庫内業務コンサルティング実績によるノウハウの提供
アイデック
コントロールズ
RFIDタグの実装および読み取り装置のインプリメンテーション経験によるノウハウの提供

 4社の分担を見ても分かるように、RFIDタグやリーダ/ライタの製造専業ベンダは入っていない。利用するRFIDタグやアンテナについてはオープンな状態にしており、あえて特定のベンダの製品を使わないようにしているのが特徴だ。

 Noisyラボには、入出庫作業における一括検品用ゲート、高速認識テスト用コンベア、自動仕分けテスト用コンベア、パレタイジングとRFIDによる検品を同時に行う回転式仕分け台などが設置されている。

 RFIDゲートには、幅や高さを自由に変更できるものも用意されている。また、高速認識テスト用コンベアは、次世代空港システム技術研究組合(ASTREC)の「e-Airport」実証実験で使われていたものを再利用している。ちなみに、コンベアのモーター部分がアルミ膜で覆われているのは、ASTRECの実験における“コンベアが発生するノイズ対策”の名残だそうだ。

左)高速認識テスト用コンベア
右)モーターのノイズ対策はASTRECの実験の名残

 2006年1月から定例の見学会(毎月2回)を開始し、2007年4月現在の累計来場者数が1600名に達するなど、かなりの盛況である。また、2006年11月には、英国貿易産業省の調査団も訪れている。

 見学会では、約1時間の座学と同じく1時間程度のラボ見学で構成されている。座学では、RFIDの基礎知識やHPの導入事例が紹介される。後半のラボ見学で、事例で紹介されたRFIDゲートやコンベア、回転式仕分け台などの実機を見ることで、机上で得た知識を広げられる。

 ツールを使ってタグの最適な張り付け位置を見つける

 RFIDタグ利用で最も問題となるのが読み取り精度だが、これは、RFIDタグとアンテナの角度や張り付ける製品の材質に左右される。つまり、RFIDタグをどこに張るかによって、読み取り精度には大きな違いが出てくるのである。

 高速認識テスト用コンベアを使った実験では、RFIDリーダ/ライタの出力を全開にした場合と、意識的に落とした(チューニングした)場合の読み取り率の違いが紹介された。出力を全開にした場合、電波が飛び過ぎてしまって想定している読み取り範囲外のRFIDタグを読んでしまうのだ。

 また、RFIDタグを張った箱(中身はHP製のプリンタ)の向きを変更し、RFIDリーダ/ライタに対してアンテナが直交する場合と平行になる場合の比較も行われた。RFIDリーダ/ライタから見て、アンテナの面積が広くなる方が読み取り率は高い。

左)コンベアの速度やアンテナの出力を変えて読み取りを検証

 水の入ったペットボトルと氷の入ったペットボトルの2種類を用意し、読み取り率の変化を比べるといった変わったデモも行われた。水が入ったペットボトルに張り付けたRFIDタグは読めなくなるが、氷が入ったペットボトルに張り付けたRFIDタグは読み取れる。これは、水の分子の運動が電波に干渉するためであり、分子が動かない氷では電波の干渉が少なくなるためだ。

 このような読み取りに関するチューニングは、何度もテストして「パターンAよりもパターンBの方がいい」といった具合に最適解を見つけることが多かった。ところが、Noisyラボには読み取り結果を数値化するツールが用意されている。このツールを使うことで感覚的ではないRFIDタグの張り付け方法の検証が可能になるという。

左)角度を変えながらRFIDタグの適切な張り付け位置を探る
右)電波の強度などを変えつつ、読み取り率を数値で表示

 コンベアやフォークリフトの速さを変えたり、アンテナに対するRFIDタグの角度を変えたりといった一連の検証テストは、実際に起こりそうな事態を想定してさまざまに試してみることができる。また、自社の製品を持ち込んでの検証も可能だ。実際に体験することで、活用のイメージも膨らむことだろう。

フォークリフトを使ったゲート型RFIDリーダの読み取りを検証

 
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UHF帯を現場同様の環境で検証「HP RFID Noisyラボ・ジャパン」
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制御の難しいUHF帯を実環境に近い状態で事前検証
ツールを使ってタグの最適な張り付け位置を見つける
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標準化されたばかりのEPCISを使ったSCMデモ
モノと情報をひも付けて、信頼性を高めるRFID


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