EEPROM搭載タグとFRAM搭載タグを比較する
長井 英一
富士通株式会社
電子デバイス事業本部
システムマイクロ事業部
カスタムマイコン設計部
プロジェクト課長
2007年4月17日
EEPROMとFRAMを比較する
ICの消費電力を小さくするためには、ICを構成する要素回路の低消費電力化、ICパワーオン時、コマンド受信時、データ送信時のパワーマネジメントが技術開発の鍵となる。ICの消費電力が通信距離を決定する例として、ICの要素回路の1つである不揮発性メモリの消費電力と通信距離の関係について説明する。
ICの不揮発性メモリとしては、EEPROMとFRAMがあるが、原理は前者が電荷注入、後者は分極によるデータ書き込みとなっており、書き込み時のパフォーマンスが大きく変わってくる。
EEPROM | FRAM | ||
---|---|---|---|
原理 | 電荷注入 |
分極 |
|
リード | CLKスピード |
25μ秒 |
|
消費電力 | 12.5μW |
13.0μW |
|
ライト | CLKスピード | 3ミリ秒 |
25μ秒 |
電圧 | 16V |
3.0V |
|
消費電力 | 35.0μW |
15.7μW |
リード時のメモリ消費電力はEEPROMとFRAMでほぼ同じであるが、ライト動作の場合、EEPROMセルは16V程度の高電圧を必要とし、内部で高電圧を生成するため、消費電力はリード時に比べ約20μW大きくなる。
一方のFRAMは、リード時とライト時で同等の消費電力となっている。このとき、前述の式に従い通信距離を計算すると、リード時にEEPROM搭載品とFRAM搭載品の通信距離が等しく5メートルである場合、ライト時はEEPROM搭載品4メートル、FRAM搭載品5メートルとなり、1メートルの差となることが分かる。
ここでは、ライト時のIC消費電力が大きいと通信距離のパフォーマンスの差となって表れることを示したが、それ以外にも、EEPROMにおいて採用される高電圧生成のための昇圧回路は、チップ面積増加の要因となり、チップコスト面からも不利となってくる。
RFIDタグの高速コマンド処理性能に関しても、ICに搭載された不揮発性メモリの特性差が影響を与える。リード時はEEPROM搭載品、FRAM搭載品ともに3.6ミリ秒でオペレーション可能であるが、ライト時はEEPROM搭載品19.4ミリ秒に対しFRAM搭載品は4.2ミリ秒となり、リード/ライトの一連の操作を行ったとき、EEPROMは44タグ/秒、FRAMは129タグ/秒というスループットの性能差となって表れる。
FRAMはライト時のスピードが速いため、RFIDタグのスループット向上と高速で移動する「モノ」のトレーサビリティを可能としていることが分かる。また、大容量メモリであるほど、ライト時の通信時間の差が大きくなるほか、RFIDタグを大量に発行する際の時間短縮が可能となり、コストダウンに大きく貢献する。
以上、データの書き込みが頻繁に行われるアプリケーションにおいて、FRAMを不揮発性メモリとして採用したRFIDタグは、通信距離でパフォーマンスが高く、スピード、チップコストの面において有利であることが分かる。
また、EEPROMは10万回の書き込みで製品寿命を終了するのに対し、FRAMは書き込み回数100億回を保証し、書き換え耐性も向上しているので、FRAM搭載品の場合、ユーザーはタグを取り換える頻度が減り、長期にわたって使用できるメリットを得る。
さらに、分極を利用したFRAMセルは、フローティングゲートに電荷を蓄積する構造のEEPROMに比べて物理的セキュリティ性が高く、ICカード用チップとして採用されている。また、γ線や中性子線といった放射線にも強いメモリとして注目されており、RFIDとしてさまざまな用途での採用が始まっている。
RFID用IC開発、今後の展望
RFID市場の高い成長予測が出て久しい。RFID市場形成のため、現在までに実に数多くのプレイヤーがそれぞれのプランに従ってリソースを投入し続けてきた。ようやく実験室レベルの特性確認を終え、実証実験などのパイロット試験が始まり、今後、数多くのRFIDシステムが稼働しているのを目にすることになるであろう。
また、RFIDシステムを稼働させ、その普及のスピードを上げるためには、前述のハードウェアとソフトウェアの協業、クロスファンクショナルな連携がますます重要となってくるであろう。
RFID全体のプレイヤー数から見ると、ICメーカーは数少ないが、それぞれが明確なゴールを持って、特徴のある分野での商品化を目指している。
RFIDコンポーネントのリーディングカンパニーであるNXPは製品をフルラインアップする戦略を敷いている。スイスのEM Microelectronicは独自仕様の規格に特徴があり、低消費電力な商品展開を図っている。ファブレスメーカーのImpinjiは、EPC C1G2仕様のICをUHF帯RFIDタグメーカーに供給している。
日本では、日立がμ-chipとして2.45GHz帯の安価なICを提供し、富士通は不揮発性メモリとしてFRAMを採用した大容量メモリ品を市場投入している。
今後もRFIDタグ用ICは、通信距離の改善と低コスト化に向けての技術開発が中心に進んでいくと考えられる。一方で大容量メモリ搭載品やセンサー対応型といったハイブリッド型の技術開発が始まっており、セキュリティ用途、γ線を利用した医療用滅菌など、RFIDタグのすそ野を広げる動きも活発化していくと考えられる。
EEPROMがもたらすRFIDはバーコード置き換え用途が強く意識され、市場の広がりは限定的であったが、今後、FRAMなどの新技術が可能とするアプリケーションの実現により、関連する市場は飛躍的に伸びていくであろう。
2/2 |
Index | |
EEPROM搭載タグとFRAM搭載タグを比較する | |
Page1 RFIDシステムで使われるハードウェア RFIDタグの性能・機能とIC特性の関係 |
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Page2 EEPROMとFRAMを比較する RFID用IC開発、今後の展望 |
Profile |
長井 英一(ながい えいいち) 富士通株式会社 電子デバイス事業本部 システムマイクロ事業部 カスタムマイコン設計部 プロジェクト課長 CCDの開発、SDRAMの開発を経て、1998年よりFRAMの開発、2003年からRFIDの商品企画・開発に従事。 |
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