RFIDタグ用ICチップの展望

EEPROM搭載タグとFRAM搭載タグを比較する


長井 英一
富士通株式会社
電子デバイス事業本部
システムマイクロ事業部
カスタムマイコン設計部
プロジェクト課長
2007年4月17日
新しいタイプのメモリがRFIDタグに使われるようになってきた。これまで一般的だったEEPROMを搭載したRFIDタグと何が違うのか。また、チップベンダの戦略を追う(編集部)

 RFIDとは、無線通信を利用し、遠距離にある「モノ」を、非接触で認識させる技術である。RFIDは、データを蓄積するICにアンテナが接続されたRFIDタグとリーダ/ライタとの間で無線通信し、データ交信を行う。通信距離は、周囲の環境、RFIDタグやリーダ/ライタの特徴・性能によるところが大きい。

 従来のバーコードと異なる点は、RFIDタグが外から見えなくても交信が可能であること、蓄積される情報は大量かつ電気的に書き換え・追記可能であることが挙げられる。さらに、複数個認識、盗難防止機能を備えており、バーコードとは違ったユーザーメリットを提供する。

 本稿では、RFIDシステムで利用されるRFIDタグのICに焦点を当てる。

 RFIDシステムで使われるハードウェア

 RFIDシステムは、基本的に2つのハードウェア、RFIDタグとリーダ/ライタで構成される。RFIDは単なるバーコード機能の置き換えではなく、数々のメリットを持ち合わせているため、技術は複雑かつ難易度の高いものとなってくる。

 RFIDタグは「モノ」に取り付けられるため、「モノ」に合った形状やサイズとなり、機能や性能もさまざまとなる。UID(Unique ID)のみが付与されたRFIDタグはネットワーク型と呼ばれ、個体識別機能を利用する。RFIDタグ自体は安価となるが、システム全体は複雑になりやすい。

 一方、ICのメモリ容量が大きいRFIDタグはデータキャリア型と呼ばれる。RFIDタグ自体にセンサーからの温度情報や加速度情報を蓄え、履歴、マニュアルをデータとして保持することができるようになる。機能としてはハイブリッドとなるが、価格は高くなる場合が多い。

 RFIDタグは、記憶情報量、メモリアクセス方式、伝送媒体方式、電源方式、通信距離、形状などの項目で分類され、用途および価格帯により、最適なRFIDタグが採用されている。図1にRFIDタグの種類をまとめた。

図1 RFIDタグの種類

 もう1つのハードウェアとなるリーダ/ライタは、RFIDタグと無線通信を行うことにより、個々のタグの識別を行い、データのやり取りを行う機能を持つ。ここでRFIDタグがバーコードと違う点は、RFIDタグはリーダ/ライタからは可視である必要がないこと、ライタ機能を使って、その内容を変更できる点にあり、そのための課題も多くなり、バーコードリーダ以上の技術が必要とされている。

 また、RFIDシステムは、範囲の限られた工程管理から広範囲な流通まで、1つのシステムとして管理する必要がある。ハードウェアを動かすためのソフトウェアについても、複雑で達成困難なものとなってくる。

 EPCタグのように、グローバルな展開を想定したRFIDシステムでは、Open-loopとClosed-loopの性格が混在するため、それを両立させるために開発するソフトウェア構築は困難になる場合が多い。

 RFIDシステムの性能や機能を最大限に発揮するためには、相互の整合性が重要となる。ただし、一般的にRFIDタグの性能および機能は、ICの性能によるところが大きい。次項以降で、RFIDシステムの構成要素の1つであるRFIDタグ用ICの技術について報告する。

 RFIDタグの性能・機能とIC特性の関係

 市場から要求される理想的なRFIDタグとは、通信距離が大きく、大容量メモリを搭載し、高速複数固体認識や高速コマンド処理を可能とした、低価格なものであろう。

 アクティブ型RFIDタグは、通信距離が30メートルに達するものもあるが、電池を内蔵するために高価かつ形状も大きくなってしまう。一方、内部に電池を持たないパッシブ型RFIDは、リーダ/ライタから放射された電磁波をタグアンテナが受信してIC動作に必要な電源に変換し、RFIDタグの情報をリーダ/ライタに返信する。アクティブ型に比べ安価で、形状も小さくなるため、市場では主流となり、RFIDタグの技術の根幹はパッシブ型RFIDにあるといえる。

 図2にパッシブ型UHF帯RFIDタグ用ICのブロックダイヤグラムを示す。

図2 パッシブ型UHF帯RFIDタグ用ICのブロックダイヤグラム

 IC設計の観点からいえば、通信距離を決定する要因としては、タグアンテナとICの整合性、整流効率、ICの消費電力が挙げられる。

 タグアンテナとICの整合性は、タグアンテナのインダクタンスとICの入力キャパシタンスのマッチングにより確保され、整流器の寄生キャパシタンス低減が有効である。

 整流効率を改善するためには、ICの整流器に使われる素子のVTロスを小さくすることが必要で、ショットキーダイオードなど低VT素子の採用、電圧ダブラ(Voltage Doubler)などの回路的工夫により、ロスを低減化している。また、全波整流回路なども整流効率を上げるために有効な手段である。

 ICの消費電力は通信距離性能を決める最も大きな要素の1つである。862‐954MHzや2.45GHzのUHF帯は電波通信となり、電界のパワーは距離の2乗で減衰することが知られており、RFIDタグに到達するパワーPRECは下記の式で示される。

PREC = PEIRP × GR × η × λ2 / (4πd)2 × L

(PEIRP:リーダ/ライタ放射出力、GR:RFIDタグアンテナ利得、η:ICの整流効率、d:RFIDタグとリーダ/ライタの距離、L:システムのロスファクター)

 ここでPEIRP=4W、周波数953MHz、GR=1、L=1とすると、リーダ/ライタからの距離5メートルの地点にあるRFIDタグに到達するパワーは、約100μW(−10dBm)となる。このとき、ICの整流効率を35%とすると、ICの消費電力が約35μW以下ならば通信可能であることが分かる。

 
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Index
EEPROM搭載タグとFRAM搭載タグを比較する
Page1
RFIDシステムで使われるハードウェア
RFIDタグの性能・機能とIC特性の関係
  Page2
EEPROMとFRAMを比較する
RFID用IC開発、今後の展望

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