TRONSHOW2008 レポート

場所にucodeを付与する「空間コード」が描く社会


岡田 大助
@IT編集部
2007年1月17日


 すでに空間コードの利用が始まっている

 実際に、空間コードを使った取り組みが始まっている。国土交通省の協力を得て全国8カ所で実施した実証実験「自律移動支援プロジェクト」およびそこから実用化した「ユビキタス場所情報システム」が代表的なものだ。

 2007年9月からは、「東海道五十三次ユビキタス計画」が始まっており、第一弾として「品川宿」の史跡の案内や商店街のイベント情報配信などを行って、まちづくりを支援している。品川宿では、約2キロメートルの道沿いの街路灯120基にRFIDを使ったucodeタグとucodeQRを組み合わせた「ucodeプレート」を配置した。

品川宿に設置されたucodeプレート

 また、東京ミッドタウンの敷地内に展示されている美術品のガイダンスサービスや上野動物園の案内サービスなどのほかにも、東京大学内にある点字ブロックにRFIDを使ったucodeタグを埋め込んだ誘導支援実験なども始まっている。

 点字ブロックへの適用は、静岡や熊本などで実施された自律移動支援プロジェクトでも検証されていたが、視覚障害者のための音声支援を発展させて、車椅子利用者のための情報提供なども同じインフラ上で行っているという。視覚障害者の場合と異なり、車椅子利用者にとっては階段や小さな段差は大きな障害物となる。同じ目的地へのナビゲーションにしても、移動が困難になるような属性を持った空間コードを避けたルーティングが求められるのだ。

ユビキタスコミュニケータが接続された車椅子

 一方、端末側のucodeへの対応も進んでいるようだ。NECがNTTドコモ向け携帯電話端末として市場に投入した「N905i」は、ucodeマーカーと呼ばれる赤外線マーカーとの通信が可能となる「IrSimple/IrSS」を搭載した。

 以前よりYRPユビキタス・ネットワーキング研究所所長の坂村健氏は、「広く普及した携帯電話にユビキタスコミュニケータの機能が搭載されるには時間がかかるかもしれないが、時期が来れば一気に広がる可能性がある」と予測しており、フルスペックではないもののucodeへの対応が始まったといえるだろう。今後は、NEC以外の携帯電話メーカーの対応も考えられる。

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 ユビキタス空間基盤の経済効果は年間3000億円

 ユビキタス空間基盤が実現しそうな分野はどのあたりだろうか。ユビキタス空間基盤推進協議会事務局の木村淳氏は、「物流の高度化、トレーサビリティの高度化、生産現場などでの自律作業支援、店舗やオフィス、資源などの資産管理、買い物支援や安心安全サービスなどの生活者支援などが考えられ、年間3000億円程度の効果が得られるのではないか」と予測する。

 有望な適用分野は大きく「u-配送」「製品トレーサビリティ」「作業記録」「資産管理」「移動支援」「作業指示」「広告」の7ジャンルに分類でき、それらを実現するために、1億個の空間コードが必要になるという。

 空間コードによって創出が想定される事業機会は、業務開発、アプリケーション開発・運用、インフラ運用の3つだ。特に、インフラ事業として「空間情報プロバイダサービス」が新たな事業として必要とされる。

 空間情報プロバイダサービスは、空間コードの割り当てや空間コード解決データベースの構築、空間コードにひも付けられる「属性データ」のメンテナンス、タグの物理的な管理など、ユビキタス空間基盤を支える重要な役割を担うことになる。

 木村氏は、「既存のコード体系を駆逐することはまったく考えていない」という。すでに利用されているコード体系をできる限り内包する形で採用し、それぞれを相互運用することで新たな空間情報基盤を構築することが狙いだからだ。「利用できる現行コード体系を相互運用することを前提としているが、必要があれば新たなコード体系を作ることも考えている」と語った。

 神戸市でu-配送の実現可能性を検討する実験へ

 ユビキタス空間基盤において、有望とされるされる用途のトップに挙げられるu-配送の実現可能性を検証するため、2008年1〜2月にかけて神戸市で実証実験が行われる。u-配送とは、宅配業務などにおいて届け先、日時を現在のシステムよりも詳細に指定でき、匿名でも配達確認を自動的に取得できる高付加価値型物流サービスだ。

 u-配送システムWGの岡本尊氏は「現在の宅配業務では配送先は家単位だが、個人を特定して、その人の都合に応じて配送先を柔軟に変更することができる」という。現行システムでは、個人を指定していても家族が受け取ることがあるほか、表札を出していない家が多くなっていることから誤配送の可能性が残されている。

 これに対して、u-配送システムでは、伝票レス化を進め、個人情報や内容物がコード化されることで確実な個人への配送および高いプライバシーを実現する。また、受取人が事前に、宅配時に受取人が不在だった場合の対応をしていすることも可能になるという。例えば、「配送予定が午後3時ごろだった場合、その時間は庭で作業をしていることが分かっていれば、玄関ではなく庭の方に宅配物を持ってきてもらうといった指定ができる」という。

 あるいは、さまざまな場所に張り巡らされた空間コードを利用することで、受取人が言葉で説明しなければならなかった場所を特定することが可能になり、屋外などでの宅配物の受領が可能になるという。 

 筆者も学生時代に花見会場にピザのデリバリーを頼んだことがあったが、当時はまだ携帯電話ではなくポケベル時代でもあり、「大学の入り口から8本目の桜の木の下」にピザを届けてもらうのが非常にたいへんだった記憶がある(ピザ屋さんには迷惑を掛けたと反省している)。もし、公園の桜の木に空間コードが付与されていれば、8本目の桜の木の下だろうが、9本目の桜の木の下だろうが、必要な時間帯に任意の場所を簡単に指定することができただろう。

 話はそれてしまったが、神戸市中央区での実証実験には、荷主としてカウネット、配送業者として日本通運、システム開発ベンダとしてソフトバンクテレコム、実験の取りまとめ担当としてMTIが参加する。参加モニターは法人を中心に100名程度を予定しているといい、持ち戻り率や誤配率の低減、プライバシーや秘匿性への効果、空間コードの活用可能性の検証を行う予定だ。

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Index
場所にucodeを付与する「空間コード」が描く社会
  Page1
ユビキタス空間基盤は夢物語か?
物理的な「位置」と社会的な「場所」の違い
Page2
すでに空間コードの利用が始まっている
ユビキタス空間基盤の経済効果は年間3000億円
神戸市でu-配送の実現可能性を検討する実験へ

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