
第2回 Windows Embeddedを使ったFAシステムをどう守る?
菅原 継顕
フォーティネットジャパン株式会社
シニアリージョナルマーケティングマネージャー
2008/9/16
工場でのウイルス被害はオフィスよりも大きい
工場で、セキュリティ上の問題が発生した場合には、どのような被害が考えられるでしょうか。以下に工場でセキュリティ上の問題が発生した場合の被害例を挙げます。
●感染したFAシステムの検査、原因調査、復旧までにコストを要する
大きめのメーカー系の工場では、通常1つの工場に数百台のFAシステムがあります。仮に1台のFAシステムがウイルス感染していることが判明した場合、感染によるそのマシン自体の症状を確認し、ウイルスが混入してしまった原因を調査する必要があります。原因が特定できなかったり、ネットワーク内のほかのコンピュータを攻撃するタイプのウイルスだった場合、工場内の全FAシステムを検査する必要があります。感染FAシステムが特定できれば、そのFAシステムの復旧を行います。
●復旧までの間、生産ラインが停止することによる損失
工場は生産し続けることによって利益を生み出すため、稼働率は生産性の大きなファクターです。特に飛ぶように売れているものならなおさらです。いまなら、地上デジタル放送への移行に伴い、液晶テレビが売れています。ディスプレイパネルおよびその制御チップの生産が数日止まってしまうと、その日数分の生産量、人件費が被害コストとなります。
●システムの誤作動による、不具合製品の製造による多大な損失
工場を止めてしまうよりも、ダメージが大きいのがこちらです。不具合製品を多く出荷してしまった場合、リコールにかかるコストはもちろんリコールを呼び掛けるための巨額な宣伝広告費が必要になる場合があります。問題を起こしたばかりの企業の製品は、企業イメージの低下により、しばらく買い控えされることが多く、売り上げが下がります。売り上げが下がるだけならまだしも、医療機器、車、エレベーターなどのチップの場合、人命への影響すら出る可能性があります。
ここまでで以下のポイントをご説明させていただきました。
- 工場には、数百台のFAシステムがある
- Windows Embeddedが使用されている場合が多く、セキュリティに工夫が必要
- 工場でのウイルス被害の影響は大きい
UTMで工場セキュリティを向上させる
大手メーカーの工場では、セキュリティソフトをインストールできないFAシステムのセキュリティを外部から補完するためにUTMが活用されています。FAシステム1台につき小型のUTMを1台置いて、ファイアウォールとIPSを有効にします。これにより、内部ネットワークからの攻撃を防ぐことができるだけではなく、万が一感染したFAシステムがあっても、そのFAシステムに接続されたUTMが攻撃を止めるため、ほかのFAシステムまで攻撃が及びません。FAシステムのセキュリティパッチが当てられず、やむを得ず脆弱(ぜいじゃく)性を残したままで運用せざるを得ない状態でも、IPSがあれば攻撃を防ぐことが可能です。
簡易的なIPS製品ではシグネチャ数が限られています。しかし、UTMであれば基本的にハイエンドモデルと同じシグネチャ数を持っていますのでメジャーな攻撃には対応可能です。こうして小型UTMをFAシステムの前に配置することにより、FAシステム自体の安全性を確保できるのです。
先ほど、大きな工場には数百台のFAシステムがあると説明しました。すべてのFAシステムに対し、小型とはいえ、1台のUTMを導入することが現実的なのかと、疑問を持たれた方もいらっしゃると思います。1台のFAシステムは数千万円するのに対し、小型のUTMは実売で10万円を切っています。つまりシステム価格に対し1%以下の投資となります。とはいえ、数百台となると機器のコストだけでも数千万円となり、コスト意識の高い製造業にとっては安いものではありません。ですが、セキュリティの問題が出て生産ラインを止めたり、不具合品を作ってしまったりする危険性を考えると、決して非現実的な選択肢ではありません。現に多くのメーカーの工場で小型のUTMが使われています。
実際の導入はUTMを透過型モードで導入してしまえば、ネットワークの設定を変えることなく導入が可能です。UTMが故障してしまった場合でも、予備機を用意しておき入れ替えることにより簡単に復旧できます。
次回も引き続き製造業で使われるUTMを解説します。FAシステムのセキュリティをもっとコストダウンする方法と、製造業が抱える悩みとその解決方法をお伝えしたいと思います。
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Index | |
Windows Embeddedを使ったFAシステムをどう守る? | |
Page1 クリーンルームにはクリーンなコンピュータを FAシステムってどんなシステム? |
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Page2 FAシステムセキュリティのポイント 悩み1:セキュリティパッチの適用、OSのサポート期間の問題 悩み2:FAシステムにセキュリティソフトをインストールできない |
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Page3 工場でのウイルス被害はオフィスよりも大きい UTMで工場セキュリティを向上させる |
Profile |
菅原 継顕(すがわら つぐのり) フォーティネットジャパン株式会社 シニアリージョナルマーケティングマネージャー 2005年から日本市場の市場分析、マーケティングの企画と実行を担当。2007年から韓国のマーケティングも兼任。2008年からは、APACマーケティングのリーダーとしてアジア全体のマーケティングを統括。 |
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