AndroidやiOSなど多様なプラットフォームで大ヒットしているゲームについて世界中で愛される理由やFacebook版のことを聞いた。
モバイルゲームやソーシャルゲームにかかわる技術者で「Angry Birds」の名前を知らない人はほとんどいないだろう。Rovio Entertainment(旧名:Rovio Mobile、以下「Rovio」)によって開発された「Angry Birds」は、iOS(iPhone/iPad/iPod touch)やAndroidをはじめとするさまざまなモバイルプラットフォーム向けに提供されてきた大ヒットゲームだ。
2012年2月14日にはFacebook版がリリースされたことも話題になった。また、3月には日本をモチーフにした「Angry Birds Seasons」の新ストーリーや、宇宙空間をモチーフにした新ゲーム「Angry Birds Space」などもリリースしている。
最初にAngry Birdsが登場したのは2010年のことである。初めはiOS版がリリースされ、後にAndroid版、Maemo版と続き、2011年にはPC、Mac、PSP、Roku、MeeGo、Windows Phone 7、HTML5といった各プラットフォーム向けのバージョンが次々と公開されている。RovioのBusiness Development日本代表を務めるAntti Sonninen氏は、2月28日に開催された「ADC MEETUP 04 Social Gaming」の講演で次のように語っている。
「私たちはAngry Birdsをあらゆるプラットフォーム向けにリリースしたいと考えています。もし自動販売機に十分な性能のCPUとディスプレイが付いていたとしたら、きっとRovioの社長は、その上でもAngry Birdsを動かせるようにすると言い出すはずです」
2月リリースのFacebook版も、同様に「より多くの人に楽しんでもらいたい」という想いで開発したという。Facebook版では、2つの新しい要素が加えられている。1つはソーシャルを活用した機能で、友達同士のランキングや、アバターの作成、アイテムのプレゼントなどができる。
もう1つはパワーアップ機能で、回数制限付きで鳥やスリングをパワーアップできるというもの。パワーアップの内容としては現在以下の4つが用意されている。
今後もステージの追加や機能拡張など頻繁なアップデートを行っていくとのことである。
Facebook版のAngry Birdsで注目すべき点は、その開発プラットフォームとしてFlashを採用している点である。Sonninen氏は、Angry BirdsにとってのFlashの魅力として次の項目を挙げている。
実は、Rovioでは2011年の春にすでにFlash Player 10版のAngry Birdsを試作していたという。しかし、その時点では目標としていた60FPSには及ばない30FPSまでしか達成できなかったため、本格的な移植は時期を待つことになったとのこと。その後、APIによるGPUサポートなどといった機能が追加されたFlash Player 11がリリースされたことから、再度プロトタイプの開発が行われた。その結果、次のような点で要件を満たせたため、Facebook版での採用に至ったとのことである。
なお、Flashでの開発そのものは、それほど難しいものではなかったという。Flashプラットフォーム自身がもともと高いパフォーマンスを備えているほか、洗練されたさまざまなAPIによるサポートがあるからだ。Flashで作られたAngry Birdsは、Facebook版のほかに、「Angry Birds Vuela Tazos」でも公開されている。
ADC MEETUP 04による講演の後、Sonninen氏から個別にインタビューする機会があった。そこで、Facebook版の開発エピソードや、Angry Birdsの今後の展開などについて伺った。
──Facebook版の開発に当たって、Flashが候補に挙がった理由は何でしょうか。
Sonninen氏 私たちは常にファンにとって一番ふさわしいプラットフォームは何かということを考えています。Angry Birdsは、もともとスマートフォン向けに開発されたゲームですが、いかにスマートフォンの普及率が高いとはいっても、現時点ではまだPCにはおよびません。Facebook版を開発するに当たっての一番の目標は、普段PCを使っている人たちにも、もっとAngry Birdsを楽しんでもらうということでした。とはいえ、PCにもさまざまなプラットフォームが存在します。より多くのユーザーに楽しんでもらうためには、クロスプラットフォーム性が高いうえに、広く普及しているFlashが最適だと考えました。
最初にFlash Player 10向けにプロトタイプを作ったときは、残念ながら目標としていた30FPSを達成できませんでした。しかし、この問題は近い将来には改善されるという見込みがありました。Rovioの開発者やデザイナは常に新しい技術を試しており、社内で集まって情報交換をしたり、新しい技術で遊ぶ時間が設けられています。Flash Player 10版の開発も、その一環として行われたものです。
──複数のプラットフォームや、複数の国の市場向けにゲームをリリースするうえで、特に気を付けているポイントなどはありますか?
Sonninen氏 まず、そもそもの話ですが、ファンがいなければAngry Birdsのいまの姿はありません。ですから、私たちはファンの方々を最も大事にしています。では、実際にAngry Birdsのファンはどんな方々なのかというと、男女比はほぼ同じくらいで、年齢もお子さまから年配の方まで非常に幅広く遊んでいただいています。地理的にも、世界中の多くの国で遊ばれています。Angry Birdsが幅広いプラットフォームに対応してきたのは、ファンの層がこれだけ幅広いものだったからです。
気を付けているポイントとしては、言葉による説明を極力避けて、絵などの見た目で遊び方やストーリーが理解できるようにしていることが挙げられます。ほとんど最小限の言葉しか使っていないので、少し英語を勉強していれば読めると思いますし、説明は絵だけで出すようにしているので、文章を読めなくても問題ないようになっています。これだと、ローカライゼーションが簡単というメリットもあります。
実は、Angry Birdsの初期のバージョンではスリングショットがなくて、指で直接操作して鳥を飛ばすようになっていました。しかし、当時はタッチパネルに慣れていない人も多く、「鳥の飛ばし方が一目見ただけでは分からない」という指摘がありました。そこで、世界中の人が使い方を知っているスリングショットの形を取り入れたのです。ちなみに、Facebook版ではマウス操作で同じユーザー経験ができるように工夫しています。
──Facebook版の主な目的はPCで楽しんでもらうことだったというお話ですが、特にFacebookで展開することについては、どのような魅力を感じていたのでしょうか。
Sonninen氏 大きな理由としては、すでにFacebookにはAngry Birdsのファンがいて、グループなどで活発なコミュニケーションを行っていたことが挙げられます。Rovioのスタッフは普段からTwitterやFacebookなどのソーシャルメディアを利用してファンとのやりとりを楽しんでいます。モノを売るためではなく、楽しいことを提供するチャンネルとして利用しているんです。そういうチャンネルから、楽しくして付加価値のあるものを提供できればいいと考えました。
もちろん、ソーシャルネットワーク特有のソーシャルな機能は重視しています。ソーシャルな要素を取り入れることで、皆でゲームを楽しめるようになりますから。ファンとのコミュニケーションの中で、良いアイデアがないかを常に模索しています。
──ユーザー同士のリアルタイムなコミュニケーションを取り入れるようなアイデアはありますか?
Sonninen氏 リアルタイムとは少し違いますが、現実世界のつながりをゲームを面白くする要素にできないかという試みはあります。例えば、NFCを利用して、2台の端末をタッチさせると新しいステージが登場するような仕掛けです。この機能は、実際にノキアの端末に搭載してリリースしました。
Barnes & Noble(米国の大手出版社)のタブレット端末「Nook」用のAngry Birdsでは、位置情報を利用して書店の中で実行したときだけ「Mighty Eagle」という特別な鳥を使えるようになっています。Mighty EagleはiOS版などでは有料で購入できるアイテムですが、書店内にいるときだけは無料で利用できるわけです。
そのほか、公式グッズのぬいぐるみにNFCを付けておき、Angry Birdsをインストールした端末にタッチしたらMighty Eagleのような特別な機能を使えるようにするというアイデアもあります。Angry Birdsのグッズは偽物もたくさん出回っていますが、それを作った業者を訴えるのではなく、「本物には付加価値を付け加えることでファンの方々に楽しさを提供できるようにしていきたい」というのが私たちの考え方です。このようなアイデアで、デジタルな世界と現実世界との交差点にビジネスを作っていきたいと思っています。
──現実の商品との融合というのは非常に興味深いですね。日本でも、そのようなグッズ展開を進めていく予定はあるでしょうか。
Sonninen氏 はい、具体的な時期はまだ決まっていませんが、ぜひやっていきたいと思っています。日本で購入できるグッズのラインアップはまだ多くないので、今後もっと強化していく予定です。イベントなども積極的にやっていきたいです。そのために、日本でも一緒にやれるパートナーを募集していますし、具体的に進んでいる話もあります(※3月8日に、フジテレビと日本国内におけるパートナーシップを締結したという発表があった)。
もともと、Rovioのビジネス哲学はゲームというよりも“エンターテインメント”をやりたいというものでした。ゲームの経験が豊富だったので、それを切り口にしてエンターテイメントの世界に入っていこうと考えたわけです。その経緯もあって、Angry Birdsでは最初から「面白いキャラクターを作りたい」という想いが強くありました。いまは、さまざまなグッズなイベントなどの企画がありますが、それこそが望んでいた展開といえます。
──最後に、日本のユーザーやFlash開発者にメッセージをお願いします。
Sonninen氏 Facebook版Angry Birdsの開発は、それほど難しくはありませんでした。それはFlashプラットフォーム自体のポテンシャルが非常に高いからです。Flashの場合、クロスプラットフォーム性は非常に良いですし、ソーシャルの機能も利用しやすくなっています。何より、現時点でFlashの経験を持った開発者はすでに大勢いて、その経験を最大限に生かせるというメリットがあります。皆さんも、ぜひFlashの経験を生かして、面白いゲームやサービスを作ってください。
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