BtoB実用の最先端:RosettaNetとは?
── その仕組みと仕様を探る ──

PIPなど4種類の標準規約の中身は?

■共通の用語を定義するDictionary

 取引をグローバルに広げると、偶然にも同じ名前の会社が存在したり、同じ製品名や部品名の品物が存在する可能性がある。正確な取引のためには、こうしたものすべてをユニークな名前にしなければならない。

 また、大企業と下請けなどの硬直化した企業間取引では、ある1つの部品が、企業Aに納めるときには企業Aの定めた部品名に、企業Bに納めるときには企業Bの定めた部品名になって納品される、といったことが発生している。しかし、グローバルな取引の中で部品を流通させようとしたら、部品名XとYとZが、実はどれも同じ1つの部品だったというのでは、情報が混乱しやすく在庫管理も煩雑になるなど、効率が悪い。

 そこで、RosettaNetでは企業名や部品名、そのほか取引に使う用語をBusiness DictionaryとTechnical Dictionariesとして一元的に管理している。

 例えば企業に関しては、ダン&ブラッドストリートが定めるD-U-N-S NumberをグローバルビジネスID番号として利用し、各企業のID番号にしている。製品のID番号としては、EAN/UCCのGTINを採用している。さらに、IT業界やEC業界など業界固有の用語については、RosettaNetが独自にそれぞれの業界向けの辞書を作っている。

 RosettaNetに参加するすべての企業が、Dictionaryに基づいた語で情報を記述することで、正確かつ効率の良い情報交換が実現する。

■ビジネスプロセスを表現するPIP

 PIPは、RosettaNetの最も重要な核心ともいえる。サプライチェーン内の2つの企業間での情報のやりとりの規定であり、2社間でのビジネスプロセスを表現している。具体的には、どのような手順で情報をやりとりするのか、そして、その情報の書式はどうするのか、というものが規定されているわけだ。

 当然、2社間では取引のためのさまざまなやりとりが発生する。そのため、PIPも場面ごとにさまざまな種類が定義されており、それぞれ番号が付いている。例えば、「2A1」という番号のPIPは、新しい製品情報を相手に配信するためのPIPであり、「1A3」は取引先信用情報の参照要求、「2A5」は技術情報の問い合わせ、「3A2」は価格と在庫状況の問い合わせ、といった具合だ。

 個々のPIPを見ていくと、XMLの文書型定義を利用して、その情報交換に必要な書式の定義が行われている。当然、製品情報の問い合わせと、価格と在庫情報の問い合わせでは、そこに含まれる問い合わせ内容も、返答される情報もまったく異なるため、PIPごとに文書型定義が行われる。と同時に、問い合わせを受けた相手は、どのような返事をいつまでにしなければならないか、といった細かいやりとりの内容も定められている。

主なPIPの種類
1B1 「Catalog Subscription」
製品情報電子購買の管理
2A1 「Distribute New Product Info」
新しい製品情報の配信
2A2 「Request New Product Info」
製品情報問い合わせ
2A5 「Request Technical Info」
技術情報問い合わせ
2A8 「Create Product SKU」
製品在庫保管ユニット(SKU)の配信
3A2 「Query Price & Availability」
価格と在庫状況問合わせ
3A3 「Transfer Shopping Cart」
ショッピング・カート転送
3A4 「Manage Purchase Order」
購入オーダーの管理
3A5 「Query Order Status」
オーダー状況問い合わせ

 RosettaNetでは、企業間のやりとりを大きく7つの分野に分類している。別の言葉でいえば、企業間のビジネスプロセスを7つに大別しており、その1つ1つを「クラスタ」と呼ぶ。クラスタには次の7つがある。

  1. 取引先/製品/サービス管理
  2. 製品情報
  3. 受発注管理
  4. 在庫管理
  5. マーケティング情報管理
  6. サービスとサポート
  7. 製造管理

 前述したPIPの番号の最初の1ケタは、このクラスタ番号にあたる。個々のPIPはこのクラスタのいずれかに属することになる。現在のところ、すべてのPIPがそろっているわけではなく、BtoBを実現するのに重要なものが先に定義されており、徐々にその数が増えていく。2001年2月の時点で、合計102種類のPIPが定義されている。

 PIPは企業間のビジネスプロセスを規定するものであるため、そのクオリティには十分に注意が払われる。非効率なビジネスプロセスでは、RosettaNetによるサプライチェーン構築そのものの存在理由が問われてしまうからだ。そこで、PIPの開発と実装には次のようなステップが踏まれる。

1 既存のビジネスプロセスを入念に調査する
2 その中で、無駄な部分や、オンライン化によって削減できる部分を洗い出す
3 その結果、どれくらいのコスト削減になるのかをシミュレーションし、参加企業に訴える
4 各プロセスの中で、やるべき価値の高い順に、各企業でワーキンググループをつくって開発作業を進める
5 RosettaNetの概念を使うと、そのビジネスプロセスがどうなるかをUMLで表現してみる
6 概要として、ブループリントと呼ばれる仮仕様書を作成する
7 その仕様書が本当に使えるものなのか、各社の投票で決定する
8 ビジネスプロセスやデータの呼称などが含まれた完成版の仕様書が完成する

■インターオペラビリティのためのRNIF

 PIPによって、やりとりする情報の手順と書式が定められたら、実際にそれを実行するソフトウェアを実装しなければならない。その実装のフレームワークを定めたのが、RNIFだ。RosettaNetではインターネットを利用した情報交換を行うわけだが、RNIFに従うことでそのインターオペラビリティを保証している。

 具体的には、通信プロトコルにはSSLとHTTPやHTTPSが使われ、メッセージ本体はMIME形式で転送される。CADの設計図面ファイルなどを添付したり、HTTPのヘッダ情報、電子署名などについてもRNIFで定義されている。また、情報の転送途中で文字化けを起こしたり、転送が中断してしまったときなど、低レベルで発生したエラーハンドリングについても、RNIFにてどう対応すべきかが決められている。

■実証パイロットのEConcert

 さて、こうした標準のもとでRosettaNetは2000年10月10日に、実際に定めた仕様を利用してBtoBを開始した。これは実証パイロットであり、実際にRosettaNetの標準を利用してその標準が確実に動作するかどうかを検証しつつ、BtoBを実現している。このEConcertまで含めたものが、RosettaNetの標準の策定プロセスだといえるだろう。

 前述したとおり、RosettaNetへはさまざまな企業がそれぞれのソフトウェアを利用して参加しているが、どの企業でも、RosettaNetに参加するには、社内システムの情報をRNIFやPIPといったRosettaNetに変換する仕組みを必要としている(そもそもPIPやRNIFはERPなどを採用している社内システムは現在のところないだろう)。多くの企業では、図に示したような仕組みでRosettaNetとの接続を実現している。

図 社内システムとRosettaNetとの接続
社内システム部分とRosettaNetでは、プロトコルやフォーマットが異なるため、トランスレータが必要となる

 このトランスレータの場所に、BizTalk Serverなどの、いわゆるBtoBサーバが利用されるわけだ。今後もRosettaNetに対応したさまざまなBtoBサーバが登場し、利用されていくことだろう。

 RosettaNetは、PCやそのソフトウェア、電子部品や半導体業界のBtoBの標準としての確固たる地位を築きつつある。今後は、これらの業界に隣接する業界、つまり通信業界や自動車業界へもRosettaNetの適用範囲を広げていく予定だという。

協力:ロゼッタネット・ジャパン運営委員会 岡部惠造氏


Index
BtoBの最先端:RosettaNetとは?
  なぜBtoBでRosettaNetなのか
  IT業界と電子機器業界が興したRosettaNet 
4種類の標準規約
PIPなど4種類の標準規約の中身は?
共通の用語を定義するDictionary
ビジネスプロセスを表現するPIP
インターオペラビリティのためのRNIF
実証パイロットのEConcert


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