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連載:コンバージェンス項目解説(4)

一般企業にも影響がある賃貸等不動産の時価開示

小寺泰史
プライスウォーターハウスクーパース株式会社
2010/1/8

2010年3月期決算から適用される賃貸等不動産の時価等の開示を取り上げる。賃貸等不動産の時価等の開示は、不動産業を営む会社のみならず一般事業会社にも影響がある。当基準の対応上のポイントを説明しよう(→記事要約<Page 3>へ)

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日本企業に与える影響

 賃貸事業を主たる事業としていない事業会社であっても、工場跡地を遊休不動産として保有する場合や再開発の目的で保有し続けている場合がある。このような場合でも、保有する賃貸等不動産に重要性があれば、時価開示の対象となる。

 賃貸等不動産の時価を開示することにより、財務諸表利用者は企業の含み損益を把握することができるようになり、企業の時価による純資産の算定することが可能となる。その結果、財務諸表利用者は企業の財務の安定性の判断など意思決定に利用することができる。また、賃貸等不動産の損益を開示することにより、賃貸等不動産の収益性が明らかにされる。

 企業が含み損を抱える賃貸等不動産や収益性の低い賃貸等不動産を保有する場合には、これらを開示することにより、財務諸表利用者から厳しい批判にさらされる可能性もでてくる。各企業は、賃貸等不動産を保有する目的を明確にし、適切な収益管理を行うなど管理会計の充実も併せて取り組むべきであろう。

IFRSとの違い

 最後にIFRSとの違いを確認しておこう。当会計基準は、IFRSとの同等性評価に関連してコンバージェンスの短期プロジェクトの一項目として開発されたものである。

 IFRSでは、国際会計基準(IAS)40号「投資不動産」において、棚卸資産や企業が自ら使用するものを除く、賃貸収益またはキャピタル・ゲインを目的として保有する投資不動産は、時価評価と原価評価の選択適用であり、原価評価する場合には、時価等を注記することが求められている。

 日本では、「賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準」の適用が開始されることにより、IFRSの原価評価に時価等の注記による方法が強制される。これにより、従来の日本基準の考え方である原価評価を前提にして、開示を充実することにより、IFRSと実質的に差異がなくなることになる。

筆者プロフィール

小寺 泰史(こでら たいし)
プライスウォーターハウスクーパース株式会社
ファイナンス&アカウンティング マネージャー
システム開発会社を経てベリングポイント(現プライスウォーターハウスクーパース)に入社。企業組織再編、シェアードサービス導入、内部統制などのコンサルティングに従事。IFRS推進支援室のメンバーとして、IFRS導入コンサルティングサービスの開発に従事

要約

 2010年3月期決算から「賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準」及び「賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準の適用指針」が適用される。これらの賃貸等不動産の時価等の開示は、不動産業を営む会社のみならず一般事業会社にも影響がある。企業の保有する不動産が賃貸等不動産に該当する場合、時価等の開示が求められる会計基準であり、まだ対応方針が確定していない場合には、早急な対応が必要となる。

 対応方針を検討する際には対象不動産が賃貸等不動産に該当するかどうかを判断する。賃貸等不動産とは、棚卸資産に分類されている不動産以外のものであって、賃貸収益またはキャピタル・ゲインの獲得を目的として保有されている不動産をいう。従って物品の製造や販売、サービスの提供、経営管理に使用されている場合は賃貸等不動産には含まれない。

 賃貸事業を主たる事業としていない事業会社であっても、工場跡地を遊休不動産として保有する場合や再開発の目的で保有し続けている場合がある。このような場合でも、保有する賃貸等不動産に重要性があれば、時価開示の対象となる。

 企業が含み損を抱える賃貸等不動産や収益性の低い賃貸等不動産を保有する場合には、これらを開示することにより、財務諸表利用者から厳しい批判にさらされる可能性もでてくる。各企業は、賃貸等不動産を保有する目的を明確にし、適切な収益管理を行うなど管理会計の充実も併せて取り組むべきであろう。

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