月刊IFRSフォーラム(3)
2月:独立役員とは何者?/記事ランキング
垣内郁栄
IFRS 国際会計基準フォーラム
2010/2/25
東証などが企業に設置を求める「独立役員」とは何者か? 企業のコーポレート・ガバナンスを巡る最新情報と、2月のよく読まれた記事やニュースのランキングを紹介します。
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先月の月刊IFRSフォーラムも公開会社法に関する内容をお伝えしましたが、今月もコーポレート・ガバナンスにかかわるテーマから始めたいと思います。投資家保護、企業の社会的責任などコーポレート・ガバナンスについての議論が進み、企業が果たすべき責任も増してきているように思います。企業とは何なのかを考える機会が増えています。
「独立役員」の届け出が必要に
1つは東京証券取引所などの取引所が上場企業に義務付ける「独立役員」の規定です。独立役員は東証が「上場制度整備の実行計画2009(速やかに実施する事項)」(リンク)で公表した規定で、東証は具体的に独立役員を義務付ける「業務規定等の一部改正」(PDF)を2009年12月22日に公表し、12月30日に施行しました。大阪証券取引所も同様に独立役員の設置を上場企業に義務付けました。
では、独立役員とは何者でしょうか。東証の説明では、独立役員は「一般株主と利益相反が生じる恐れのない社外取締役または社外監査役」です。上場企業は1人以上を確保し、3月31日までに東証に「独立役員届出書」を提出する必要があるとしています。コーポレート・ガバナンス報告書でも独立役員の状況を開示します。独立役員を義務付ける背景には現在の社外取締役や監査役では企業の監督が不十分ではないかとの考えがあります。会社法ではその会社や子会社の関係者(従業員、代表取締役など、過去・現在含む)は社外取締役になれないことになっていますが、実際は当該企業の株主企業や取引先などの親密な関係者が就くことも多いようです。
独立役員については具体的な要件はありません。ただ、東証では関連して「独立役員になれない人」の要件を挙げています。
a.当該会社の親会社または兄弟会社の業務執行者等(業務執行者または過去に業務執行者であった者をいう。以下同じ) |
この要件に触れる者を独立役員とする場合は東証に事前相談し、コーポレート・ガバナンス報告書に「それを踏まえてもなお独立役員として指定する理由」を記す必要があります。実際は、この要件に触れる者を独立役員として選ぶのは難しいでしょう。同様の規定を設けた大証は独立役員についてのQ&Aや独立役員届出書のフォーマットを公開しています(リンク)。ただ、この要件に当たらない人を選ぶのは難しいとの指摘もあり、企業によっては独立役員探しに苦労するかもしれません。
「重要な欠陥」を適時開示
上場制度整備の実行計画2009では、適時開示制度の見直しも決められました。企業は「内部統制に重要な欠陥がある」または「内部統制の評価結果を表明できない」と記載する内部統制報告書を提出することを決めたら、その内容を直ちに開示することが求められます。
また、IFRSについても規定が追加され、上場企業は財務会計基準機構/企業会計基準委員会へ加入し、IFRSについての体制整備を行うよう努めることが企業行動規範の「望まれる事項」で規定されます。また、企業は財務会計基準機構への加入状況を開示することが求められます。
1億円以上の役員報酬を個別開示
もう1つのコーポレート・ガバナンスに関する規制強化は役員報酬についてです。金融庁は2月12日、「企業内容等の開示に関する内閣府令(案)」を公表しました(リンク)。その中で、1億円以上の報酬を得ている役員の報酬の種類別(金銭報酬、ストックオプション、賞与、退職慰労金など)の金額を開示することを求めています。これまでの有価証券報告書では役員報酬の開示は任意で、開示している企業でも役員報酬の総額などにとどめているケースが大半でした。しかし、金融庁の今回の案は1億円以上の報酬を得ている役員ごとに開示する必要があり、開示内容はより細かくなります。金融庁はこの案について3月15日までコメントを受け付けています。仮にこのまま施行された場合、企業は3月31日以降に開示する有価証券報告書で役員ごとの役員報酬を開示する必要があります。
役員報酬については金融庁の金融審議会が2009年6月に「上場会社等のコーポレート・ガバナンスの強化に向けて」(リンク)とする報告書を公表しました。その中では、役員報酬が「経営者のインセンティブ構造等の観点から株主や投資者にとって重要な情報」と指摘し、「非常に高額な報酬やストックオプションが経営者の経営姿勢を過度に短期的なものとするおそれなどの指摘もあり、役員報酬の決定に係る説明責任の強化を図っていくことが重要な課題」と説明しています。
ただ、この役員報酬の開示については批判が多く寄せられています。代表的なのは東証の代表執行役社長である斉藤惇氏の指摘です。斉藤氏は会見(PDF)で「情報開示を拡充しようという意図、趣旨には大いに賛成」したいとしながらも、「役員報酬を開示する目的は何なのか、これは非常に大事な点で、これをはっきり説明しないと、社会的なコンフリクトを醸成するといいますか、単に金額を見て、社会的な批判や後向きのアクションが起こるとすれば、それはあまり好ましいことではありません」と指摘しています。役員報酬の個別開示によって、金額だけが一人歩きすることを憂慮しています。
また、日本では一般社員と役員との報酬の差が欧米などと比べて小さいことや、個人情報保護の観点などから、「個別の報酬まで開示させるのは、やや矛盾があるように思います」と話しました。コーポレート・ガバナンスの目的を投資家保護や企業の社会的責任などとした場合、その目的を否定する人はほとんどいないでしょう。しかし、そのための手段にはさまざまな批判が寄せられることが多いようです。関係者のコンセンサスを取ることの難しさを実感します。
この月刊IFRSフォーラムの1月号でお伝えした「公開会社法」については2月24日に法務省で会社法制の見直しが諮問されました。4月以降に具体的な議論が始まる見通しです。