企業が抱くCRMへの大きな誤解

2002/11/9

 普及が進むCRMだが、導入するだけでは十分な効果がない。そこにはCRMに対して企業が持っている大きな誤解があるという。早稲田大学商学部教授 大学院IT戦略コース責任者 根来龍之氏は、企業がCRMを導入するうえで最低限認識しておきたいことを紹介した。

早稲田大学商学部教授 大学院IT戦略コース責任者 根来龍之氏

 根来氏はNTTコミュニケーションズが11月8日に開いたプライベートイベント「NTT Communications Conference 2002」で講演した。根来氏はシステム方法論、情報システム論、戦略経営論の統合分野が専門で、CRM協議会副理事長を務める。

 根来氏はまずCRMを「顧客情報の一元管理と共有を基礎にして、望ましい顧客関係を作り出し、維持する活動」と定義。「基本的には売り上げよりも利益率向上をもたらすシステムだ」と述べ、「市場シェアよりも、継続的に使ってもらうことで個客シェアを向上させる」と説明した。

 そのうえで根来氏は「企業の中にCRMについての誤解がある」として、2つの誤解について説明した。第1の誤解は「CRMは低成長時代の万人の経営手法である」ということ。企業が提供できるサービス内容として根来氏は、製品を提供するバリュー型と、ブランド製品など製品+アルファを提供するエモーション型、アフターケアなど顧客に継続的な関係からくる利便性を提供するリレーションシップ型があると説明。「CRMに適しているのはリレーションシップ型の企業だ」として、「すべての企業にCRMが同じように効果があるとは限らない。業界特性や企業方針の違いに沿ったCRMが必要だ」と訴えた。

 根来氏が説明したもう1つの誤解は「CRMは“囲い込み”の経営手法の1つである」ということ。根来氏は“囲い込み”のほかに“ロックイン”をCRMを説明するうえでよく語られるキーワードとして紹介。しかし、“囲い込み”や“ロックイン”には、CRMで「注意を引き付ける→買わせる→逃げられないようにするという視点がある」と指摘。それに対して「顧客の視点を重視して、興味を持ってもらう→買って満足してもらう→また買ってもらい満足してもらう」という循環型のスキームを提案し、「脱囲い込みのCRMが重要」と述べた。根来氏は「顧客から見た場合、脱囲い込みのCRMが理想的な顧客関係だ」としてCRM戦略を転換する必要性を訴えた。

 CRM導入で大きな投資をする企業は、本来CRMが担当しないような部分にまで効果を求めがち。しかし、どういう層をターゲットに、どういう手法でビジネスをしたいのかをCRM導入前に明らかにすることが重要といえそうだ。

(垣内郁栄)

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NTTコミュニケーションズ
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