Weekly Top 10

スポルスキー氏の講演記事に反響

2008/02/18

 先週の@IT NewsInsightのアクセスランキングは第1位は「すばらしいソフトを作るには、カリスマが講演」だった。翔泳社が主催した開発者向けイベント「デベロッパーズ・サミット2008」で、ソフトウェア開発のエキスパート、ジョエル・スポルスキー氏が行った講演をまとめた記事で、予想外に大きな反響があった。

NewsInsight Weekly Top 10
(2008年2月10日〜2月16日)
1位 すばらしいソフトを作るには、カリスマが講演
2位 早稲田大学がヤフーのWebメールを採用
3位 はてな、京都に上ル 4月に本社を移転
4位 NEC、アルカテル・ルーセントとLTEで協業へ
5位 スカイコム、NinjaPDF日本語版をSalesforce上で提供開始
6位 OpenIDに欠けている「評判情報」
7位 ITインフラ仮想化ではストレージが焦点に、ネットアップ
8位 eラーニングで「OpenOffice.org入門」、アシストが発売
9位 Presentation Serverは消える? シトリックスの新戦略
10位 家庭向けフィルタリングで書き込みブロック、デジタルアーツ

 講演は終始聴衆の笑いが絶えない楽しいものだった。スピード感とメリハリのあるプレゼン手法として、一部の技術者の間で使われている「高橋メソッド」に通じるものを感じた。高橋メソッドでは、画面いっぱいに映し出す文字とときに数百枚にもなるスライドで、スピーディーにメッセージを伝えつつ笑いを取るが、スポルスキー氏の手法は写真やグラフなどを次々に切り替えるというものだった。

サービス精神を欠いたソフトウェア

 スポルスキー氏の話ではないが、週末に私が経験した、人をあまり幸せにしないソフトウェアの話をしたい。

 日曜の午後、高校時代のクラス会で幹事を引き受けた妻が往復はがきを購入して憤っていた。メールではなく、はがきを使わないと連絡が付かない人がいるという事実を嘆いていたということもあるが、それ以上に彼女をイライラさせたのは1000円でダウンロード購入した、とある有名な宛名印字ソフトだった。郵便番号の枠に、どうしても数字が収まらないというのだ。

 ワードやエクセルでも、がんばれば宛名印刷できることは薄々知っている。しかし、ヘルプファイルとの格闘や、試行錯誤で、ひょっとしたら1時間や2時間が必要かも知れない。そう考えると、専用ソフトで楽ができるなら1000円ぐらい安いもの。そう考えた妻は、週末の2時間の余裕を確実にするために1000円を出した。それなのに、結局2時間ほど試行錯誤をしてやっと宛名印字が完了した次第だった。

 宛名印字ソフト、あるいは年賀状ソフトは長い歴史を持つ。だからかもしれないが、そのユーザーインターフェイスには、2008年のいま新規に設計するとしたら「あり得ない」ような、非Windows的なものが残っている。例えば、選択リスト中のテキストをドラッグ&ドロップしてレイアウトウィンドウ上にテキストボックスを作成するというUI。これには驚いた。

 それはまだ構わない。

 問題は、住所録から「郵便番号」フィールドを選択して、レイアウトウィンドウにドロップした数字が、郵便番号の枠に収まらなかったことだ。フォントや書体、サイズを変えても無駄で、どうしてもうまく枠に数字がすべて収まらない。何かがおかしい。

 ここで何度も試行錯誤を重ねた妻は、ついにしびれを切らせてパソコンオタクの私を呼んだ。私は直感的に、プロパティの中にしか解決はあり得ないと思ったので、テキストボックスのダイアログにあったタブを何度かクリックして、目を凝らしてみた。すると、タブのうち1つの隅のほうに「〒枠書体」というようなチェックボックスがあった。

 ここまで読んだ読者は、それで解決だと思うかも知れない。しかし、まだ解決しない。

 「〒枠書体」をチェックしても、何も変わらないのだ。ここで私の妻は、パソコンオタクの私と結婚したことに感謝するべきだと思うのだが、私はすぐに直感した。その属性はレイアウトウィンドウにドロップする前にオンにしないと駄目ではないか。きわめて理不尽な話だが、それは、いかにもありそうなことだ。なぜなら、郵便番号枠のような特殊なレイアウト処理が行われるのは、テキストボックスの作成時。後からチェックボックスをオンにしても、何かトリガーがないと有効にならないということではないか。ひょっとすると、テキストボックスのリサイズがトリガーになるのかと思ったが、そうではなかった。

 結局いちばん確実そうな方法にした。つまり、いったん郵便番号のテキストボックスを消去し、改めて「〒枠書体」にチェックを入れ、その後にレイアウトウィンドウに住所録から郵便番号フィールドをドロップしてみた。やはり、それが正解だった。

 こんなひどい話があるだろうか。確かに専用ソフトだけあって、住所録の各エントリーには、年賀状や暑中見舞いの授受の記録をチェックしておくフィールドがあるなど、ユーザーニーズをくみ取った機能がいろいろと備わっている。詳しくは見ていないが、長年積み重ねてきた機能追加で、機能は豊富なのだろう。

 しかし、郵便番号が枠に入らないのはいただけない。「郵便番号」フィールドからドロップしているのだから、なぜ最初から「〒枠書体」を自動適用としないのか、まったく理解できない。あまりにサービス精神に欠けるのではないか。

 これは実に簡単な機能で、ほんの1クリックの作業にすぎない。だが、これこそスポルスキー氏がいう「ユーザーを幸せにする」かどうかを分ける「表層的な機能」ではないかと思うのだ。これはソフトウェアの機能そのものではなく、どちらかといえばUIの問題だ。

 たとえユーザーから明示的な指示がなくても、テキストをパーズすれば、数字と記号の組み合わせから郵便番号だとほぼ確実に推定できる。なおかつ、レイアウトウィンドウ上では、はがきの郵便番号枠の上にテキストボックスがあるのだから、自動的に「〒枠書体」の属性を与えるべきだろう。少なくとも、「郵便番号の枠に数字を収めますか?」という提案をユーザーにするべきではないか。いくら郵便番号枠に収める「機能を実装している」からといって、これではあまりにサービス精神に欠けていると思うのだ。

 毎年、新機能の開発をする前に、こうした基本機能を改善してほしいと思う。こうしたことは、パッケージやチラシに「新機能」として書き連ねられるスペックではないかもしれない。しかし、ソフトウェアを1000円で購入する層は、新機能競争など期待していない。自分がやると2時間かかる仕事を1000円で肩代わりしてくれる「サービス」を期待しているのだ。近年、ソースネクストが「いきなり」というネーミングと低価格のソフトウェアパッケージで成功しているのは、まさにそこに市場があったからだろう。別に高度なことがやりたいわけではなく、さっさと目的を達したいという層は多い。

 アプリケーションが1本何万円もして、その活用のために書籍やマニュアルを購入してユーザーが操作法に「習熟」するような時代は、一部のプロフェッショナル用ツールをのぞけば、とっくに終わっている。

 どんどん機能を搭載して高機能化してきたソフトウェアから、単純に機能を削っただけの廉価版パッケージというものは、安いからというだけで市場のニーズに応えていることにはならないと思うのだ。

(@IT 西村賢)

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