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@IT > SPSS事例探求 第4回 ギャガ・コミュニケーションズ編 |
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映画作品の配給を手がける株式会社ギャガ・コミュニケーションズは、ビジネスインテリジェンス、すなわちデータを戦略的にビジネスに活用しているという点においての先進企業の1つであり、5年ほど前から、さまざまなアプローチによりデータの分析やモデリングに取り組んできた。 例えば、KISS(作品買い付け支援データベース)、LINDA(映画作品情報データベース)、ADAM(宣伝浸透度調査システム)といった各種データベースが整備され、さらにこれらのデータを用いて、映画作品の興行収入を予測するためのモデルづくりなどが行われてきた(詳細は、『マーケターのためのデータマイニング講座 第4章』を参照)。 同社では、これまでのデータ活用のノウハウを活かして、ユーザー心理をより深く洞察して複数の「エモーショナル・クラスタ」を抽出し、それらに基づいた「映画のレコメンデーション・エンジン(推奨システム)」の開発に成功した。 今回は、この開発プロジェクトの主要メンバーである、プロジェクト・リーダーの太田幸利氏(株式会社ギャガ・コミュニケーションズITグループ グループマネージャー)、分析ロジックの作成者である荒木長照氏(大阪府立大学経済学部 経営科学講座教授)、そして、分析システムの提供者であるSPSSの木暮大輔氏(ビジネスインテリジェンス事業部プロフェッショナルサービスグループ シニアコンサルタント)の3氏にお話を伺った。
太田氏は、かねてより映画という特殊な消費財を消費者に「推奨」する際に、従来の推奨システムを適用することにはいくつかの問題意識を持っていたという。
問題意識その1 問題意識その2 問題意識その3 これらの問題意識が発端となって、今回のレコメンデーション・エンジン開発に際しては、ユーザーの属性や視聴履歴などではなく、映画に対するエモーショナルな要素(感性やライフスタイル的なもの)を洗い出したのちにグループ化(クラスタリング)し、それぞれのグループ(クラスタ)にふさわしい映画を推奨する、という“マーケット・アウト型(*注)”の分析アプローチを採用したとのことである。 * 注
このレコメンデーション・エンジンの開発には約1年を費やしたそうだが、その開発工程を簡単にご紹介しよう。
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まず、(A)軸だし調査から得られた39の設問を基に、大規模ユーザーを対象とする本調査でユーザーの分布を把握、その後、クラスタ分析をかけることにより、4つのクラスタ因子(軸)が発見された。それは、「関与因子」「情緒因子」「無関心因子」「ミーハー因子」である。そして、この4つの因子(軸)から、次の5つのユーザー・クラスタ(ユーザー類型)を抽出している。
さらにSPSSのAMOSによる共分散構造分析を行い、39の設問を最終的には12の設問にまで絞込んだ「共分散構造モデル」を生成した。このモデルには、クラスタ分析で得られた4つの因子(軸)に加えて、それらの因子のさらに深いところにある要素として、「映画力」(ユーザーが、実際どれだけ映画を視聴するかを表す因子)が設定されている。 一方、分析ロジックを担当した荒木氏は、「分析ロジックの作成で最も苦労したのは<共分散構造モデル>を作成する部分でした。考えあぐねた挙げ句、“夢の中”でアイデアが浮かんだこともありました」と、開発当時を振り返る。
最後に、上記ユーザー・クラスタに対して、それぞれ異なるタイプのユーザーのエモーショナルな特性に合致していると考えられる映画作品を推奨する仕組みである。ここで、どのユーザー・クラスタに、どんな映画作品がフィットするかという、レコメンデーションの核となるロジック部分には、長年映画配給に取り組んできた同社のプロとしての知見が組み込まれているそうだ。
苦労の末に完成した、このレコメンデーション・エンジンには、さまざまな可能性を秘めたシステムとして、並々ならぬ期待をかけていることが太田氏の言葉の端々から感じられた。このシステムでは、映画作品の「推奨」を行うと同時に、映画ユーザーに関する膨大なマーケティング・データを収集することができる。
と、太田氏は情熱的に語る。 さらに続けて、「エモーショナル・クラスタに基づくレコメンデーション・エンジンをASP的に提供していきたいと考えています。映画業界で広く採用されれば、このエンジンで蓄積したデータを共有し、それらを分析して得られた知見をオープンにしていくこともできますし、ひいてはそれが映画業界全体の発展つながるのではないかと思うわけです。もちろん、そこで終わりではなく、映画を見るという経験消費にまつわる業界、例えば飲食やショッピングなど、そうした業界との連携も視野に入れています」と語っている。 映画という特殊な消費財をテーマに開発されたこのレコメンデーション・エンジンが、今後どのような成果を発揮し、進展していくのか……非常に興味深いところである。
今回のプロジェクトは、リーダーである太田氏に「大成功でした!」と言わしめているわけだが、実は、このプロジェクトを仕掛けた張本人はSPSSであったという。 SPSSが参加するある学会で荒木氏のユニークな研究発表(経験消費財としての映画を分析するというテーマ)に目をつけ、今回のプロジェクトへの参画を働きかけたのが始まりであった。太田氏の言葉をそのまま引用すれば、SPSSはまさに映画ビジネスのプロと映画研究のプロとを結びつけた「仲人」である。 もともとSPSSでは、前述したKISS、LINDA、といった既存のデータベースなどの「CRISP-DM手法」に基づくコンサルティングを提供していた(詳細は『マーケターのためのデータマイニング講座 第3章』を参照)」。このプロジェクトの担当コンサルタントである木暮氏が、レコメンデーション・エンジン開発にあたってもSPSS製品の活用を支援することで、今回の「産学連携プロジェクト」を成功に導いた。
今回のプロジェクトにおいては、コンサルタントである木暮氏自身はプロジェクトを丸抱えするような役割は果たしていなかったそうだ。それよりも主にデータマイニングを行う際に、SPSS製品の活用についてアドバイスをしたり、プロジェクト自体を円滑に進めるための潤滑油的な立場をとったりしたらしい。 というのも、そもそもSPSSの目指す“コンサルティング”は、単なるアウトソーシング的なシステム構築・運用を請け負うものではなく、最終的にクライアント自身でSPSS製品を使いこなせるようにと、“スキル・トランスファー(SPSSが持つデータマイニングにおけるスキルをクライアントに移植すること)”を信条としているからだ。本来であれば、システムを提供する側というのは、継続的なコンサルティング契約によって安定収益を確保することに主眼を置きがちだが、SPSSの場合はあえて“クライアントの自立”を促している。 前回の「慶應SFC編」でレポートしたような取り組みや今回のプロジェクトからもお分かりのように、SPSSが単なるデータマイニング・ツールを提供するベンダという立場をとっているわけではない。データマイニングの普及や産学連携の橋渡し的な活動に対して積極的な取り組みを行っている。今回のプロジェクトにおける木暮氏の果たした役割も、もちろんこうしたSPSS流のコンサルティングを行った結果ということなのだ。
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