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@IT > SPSS事例探求 第6回 アサツーディ・ケイ編 |
企画、制作:@IT営業企画局 掲載内容有効期限2002年12月末日 |
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現在、広告業界大手の株式会社アサツーディ・ケイは、企業のブランド構築を支援する「EX-Branding」というブランディング・メソッドを展開している。今回は、その「EX-Branding」を支援するツールの1つである画像データベースについてご紹介しよう。 このシステムに組み込まれた「画像イメージ予測モデル」は、「伝統的な」「自然な」のような主観的・感覚的なイメージワードとそれに合致すると予測される画像をマッチングさせて検索することを可能にしている。このモデルの画期的な点は、画像に対して付与されるイメージワードが、それ自体は人それぞれ受け取り方が違う主観的・感覚的なものであり、“数値化できないデータ”であるにもかかわらず、88%以上という高精度で人々がその画像に対して付与するであろうイメージワードに合致するという点にある。このモデルの構築にあたっては、“Clementine”の「ニューラルネットワーク分析」が技術的なブレークスルーの役割を果たしたという。
同社が独自に開発した新しいブランディング・メソッド「EX-Branding」は、ブランドのコアベネフィットを、生活者の「ブランド体験領域(感覚的体験、情緒的体験など)」に置き換え、適切な「ブランド接点(ネーミングやロゴ、パッケージデザイン、広告など)」を通して、生活者に豊かな「ブランド体験」を提供するという手法である。 同社では、この「EX-Branding」を推進するため多様なツール群を開発してきた。そのツールの1つである画像データベースは、2000年末ごろから企画が進められ、開発にあたって以下の5つの要件が求められた。
この画像データベースは、2001年11月から、これらの要件をすべて満たした形で稼動を開始し、実績を上げつつある。現在の画像データベースには、約2万5000枚の画像が収録されており、次のような多様な検索が可能となっている。
5つの検索方法のうち、難関は3)イメージワード検索であった。冒頭にも書いたが、画像に対して人々が付与するイメージワードは多種多様であり、また同じ画像であっても、人によって異なるイメージワードが付与される。前提として、DB内に保有することになる数万枚の画像1つ1つに対し、予想されるイメージワードを手作業で付与していくのは、時間的・コスト的な面から、実質不可能に近く、ここになんらかの技術的ブレークスルーが必要だった。
そこで、SPSSのコンサルタントとも相談し、さまざまな可能性を模索した結果、採用されたのが、「ニューラルネットワーク分析」であった。すなわち、人間の視覚情報処理プロセスに基づいた、画像に対するイメージ評価の理論と知見を利用し、ニューラルネットワークによるイメージ評価を学習したモデル(画像イメージ予測モデル)を構築したうえで、画像イメージ評価の予測を行うという仕組みが企画されたという。
予測モデルの構築は、まず、適当な枚数の画像サンプルを抽出し、それらのイメージスコア(*1)の測定、画像特徴量(*2)の算出、カテゴリー(意味)情報(*3)の付与を実施して学習データを用意し、画像特徴量とカテゴリー(意味)情報からイメージスコアを導き出す、つまり予測するというモデルを構築していくというプロセスで行われた。
次に、以下の3つのモデルを“Clementine”のニューラルネットワーク分析にかけた結果、3)画像特徴量+カテゴリー(意味)情報のモデルの成績が良かったので、これを基本モデルとして採用したそうだ。
さらに、予測精度を高めるため、「画像特徴量+カテゴリー(意味)情報量モデル」を基本モデルとして、変数の異なるモデルを複数作成、パフォーマンスの比較検証を行うことで、モデルの調整を行った。その結果、客観的な画像特徴量とカテゴリー(意味)情報のデータから、88%を超える高い精度で主観的なイメージを予測したイメージスコアを生成することが可能な、画期的「画像イメージ予測モデル」を実装した画像データベースの開発に成功したのである。 益田、田口両氏によれば、その成果は期待以上のものだったという。システムリリースから、まだ1年も経過していないが、すでに同社では、500名以上の社員がこのシステムを利用しているという。そして、利用回数は今年だけでも1200回近い(2002年8月末現在)というのだから、繰り返し使われているシステムだといえよう。プランニング部門の社員による利用が多いらしく、田口氏は、社内の利用状況について以下のように語っている。
「当初予想していなかったのですが、クリエイティブ部門の社員もよく利用しています。プレゼンテーション資料に載せる画像イメージを作成する場合によく参考にしているようです」
同社は、現在の研究開発局の前身であるマーケティングサイエンスルームの設立時である1999年に早くも“Clementine”を採用している。同社を担当するSPSSの多川氏によると、広告業界では同社が“Clementine”のファーストユーザーだそうだ。多川氏は導入の経緯を振り返り、以下のように語った。
「当時、“Clementine”は日本語版が発売されたばかりで、国内初のお披露目の場となった『消費者行動研究学会コンファレンス』に参加されていた田口さんから、SPSSあてに連絡が入ったのがきっかけでした。早速デモにお伺いしたところ、会議室いっぱいに社員の方々が集まっておられ、熱心に説明を聴いていただきました。導入の決定はそのすぐあとでした」 益田氏によれば、同局の役割は次の通りである。
「『研究開発局』は、所属スタッフ約20名ほどで、マーケティング関連の最先端の情報収集や各種消費者調査分析などのほかにも、年間70本以上の開発プロジェクトを手がけています。ビジネスに直結するアウトプットとしては、弊社の武器となるような、さまざまなマーケティング・メソッドやツールの開発が求められています」 田口氏は「弊社としても独自技術を開発するために、他社に先駆けて高度な分析ツールを導入したのだと思います」と語るが、今後、ほかの業界同様、広告業界においても、データの分析・活用がますます重要視されることを見込んだ上で、導入が決定されたようだ。現在では、サーバ版が導入され、同局スタッフ全員のPCから、SPSS製品が利用できる環境が構築されている。 当然のことながら、“Clementine”だけでなく、他社製品についても導入の検討を行ったということだが、「SPSSが提供するほかのさまざまな分析ツール製品を連携させて、データを活用できること、またGUIがユーザーフレンドリーで使いやすいという点が導入の決め手でした」と益田氏。実際、“Clementine”のセールスポイントである、ビジュアルに分析ストリームを組むことが可能なGUIが、今回の「画像イメージ予測モデル」構築において大いに貢献していることは明らかである。
画像データベースは、同社の「EX-Branding」のツールとして、今後さらなるバージョンアップ、機能拡張が計画されている。まずは、収録された画像データを5万枚まで増やすこと、同時に格納している画像自体のクオリティを上げていくことも求められているという。いうまでもなく、予測精度をさらに高めていくことは重要な課題である。「今回のモデルをベースにすれば、画像などの視覚領域だけでなく、“音”などの聴覚領域や“味”などの味覚領域でも同様の予測システムが開発できるのではないかと考えています」と田口氏は展望を語ってくれた。 今回紹介した広告業界に限らず、主観的・感覚的なデータを扱う領域では、総じて分析などを行うためのシステム化が遅れがちである。しかし、そうした数値に置き換えられないデータを分析し、そこで得られる情報を活用できれば、他社に先行して、企業としての競争力が強化できるのではないだろうか。その意味で、「画像イメージ予測モデル」で確立した、データマイニングツールを利用して、一定の予測モデルを構築し、主観的・感覚的なイメージを数値データ化するという手法には新たな可能性を感じる。今後の発展を期待したい。
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