8月の初めに、この欄で 「情シスがユーティリティ・コンピューティングを提供する日」と題し、クラウド・コンピューティングを目指すサービスが今後続々登場することが、企業の情報システム部門や情報システム子会社も、クラウド/ユーティリティ・コンピューティング的なサービスを社内あるいは親会社に提供していかなければならないというプレッシャーになる、という趣旨のことを書いた。
今回は改めて、逆の表現をしてみたい。企業の情報システム部や情報システム子会社はユーティリティ・コンピューティング的なサービスを提供してこそ、将来の展望が開ける。
コスト削減や、親会社以外の顧客の開拓を迫られている情報システム子会社のなかには、ITILに呼応するISO 20000認定の取得に取り組んでいる企業がある。それはそれで素晴らしいことだ。ITILは、IT運用という仕事にシステム的な考え方を持ち込み、これを合理化するのに役立つ参考書のような存在だ。しかし、ITIL自体は顧客に対しての強力な売り文句にはならない。ISO 20000を取得したとしても、ISO 9000に似た意味合いしか持たない。顧客が自社を積極的に選んでくれるきっかけにはなり得ない。
情報システム子会社のコアコンピテンスはシステムの構築や運用にある。そのコアコンピテンスを「商品化」するため、運用業務をサービス商品として定義し直すべきだ。サーバ・ハードウェアからOSまでの運用を「ユーティリティ・コンピューティング・サービス」、その上で動くアプリケーション/業務システムの運用を「アプリケーション・マネジメント・サービス」と分けたほうがいい。こう定義し直すと、新たに見えてくるものがある。
このサービスの仕入れコストには、ITシステムを構成するハードウェアやソフトウェアの取得コストがあるし、サーバを設置するスペースや電力料金も、もちろん含まれる。一方で、顧客である親会社に対して販売する商品は、CPUパワーこれこれ、ディスクスペースこれこれのサーバインフラサービス(業者が展開しているVPSサービスにイメージが近いが、それなりのサービス品質を加えたもの)、サーバ仮想化を生かした開発環境支援サービス、アプリケーション早期展開サービス、そして従来型のファイルサーバ運用サービスや電子メールシステム運用サービス、個別業務アプリケーション運用サービスなどだ。
ITILは、「IT運用管理とはサービスである」と宣言しているが、IT運用管理を(単なる比ゆではなく)実際にサービス商品として販売するからこそ、コストをコントロールできる十分な余地が生まれる。そしてコストをコントロールできるからこそ、ITIL的なシステマチックな運用管理手法が輝きを増す。
こういうことを言うのは簡単だが、現実にはいろいろなしがらみがあって…… というのが情報システム子会社の方々の一般的な反応だろう。たしかに、企業のITインフラがすべてこのような形態になると言える人はいないだろう。しかし一方で、統合化することによって顧客である親会社にとっての運用コストを下げられるようなITシステムも、数多く見出せるだろう。特定の業務システムに外部の運用業者が入ってしまっている場合には、その業者との提携も考えられるはずだ。
情報システム子会社には、これまで培ってきた個別アプリケーションやITシステムの運用ノウハウがある。さらに、上記のようなサービスを親会社に対して提供することを通じ、サーバ仮想化技術や、拡張性のある運用管理手法に関するノウハウを蓄積できる。バラ色かどうかは別として、今後親会社以外に対してビジネスを広げていく道筋も見えてくるのではないだろうか。
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