Windows Server 2008の後継となる次期サーバOS、Windows Server 2008 R2は今年中にリリースされる予定だ。Hyper-V 2.0をはじめとする、その新機能は?
2009年末までにリリースされる予定の次期Windows Server OSの名称。64bit CPUに特化し、大規模マルチプロセッサシステムに対するスケーラビリティの向上や改良された仮想化機能、Windows 7との連携機能などを特徴とする。名称の最後に付けられているR2は、Windows Server 2003 R2のように、現行のWindows Server 2008のマイナー・バージョンアップであることを表している。だがカーネル部分のコードは次期主力クライアントOSであるWindows 7と共通化されているなど、実質的にはメジャー・バージョンアップに相当するといえる。
現在のところ、Windows Server 2008 R2では以下のエディションが出荷される予定である。
エディション | 概要/用途 |
---|---|
Standard Edition | 中小規模向けサーバ |
Enterprise Edition | 大規模エンタープライズ向けサーバ |
Datacenter Edition | データセンター向けサーバ |
Web Edition | Webサーバ向け |
Foundation | OEM専用。小型サーバ向け |
Windows Server 2008 R2のエディション(予定) Windows Server 2008のエディションと同じであるが、すべて64bit版のみとなる。Foundation以外には、フルインストール版とServer Coreインストール版がある。 |
Windows Server 2008 R2はWindows Server 2008のマイナー・バージョンアップという扱いのため、クライアントのアクセス・ライセンス(CAL)は現在使用しているWindows Server 2008のものがそのまま利用できる。
以下、Windows Server 2008 R2の主な機能向上点について述べる。
Windows Server 2008 R2は64bit CPUに特化されており、従来のような32bitバージョンは用意されない。しかし64bit環境下では1プロセスあたりの仮想メモリ・サイズは最大8Tbytesまで、システムの最大サポート物理メモリ・サイズは2Tbytesまでとなり、ギガバイト・オーバーのデータベースのようなアプリケーションであっても余裕を持って対応できる。もともとHyper-Vは64bit版でしかサポートされていなかったが、Hyper-Vを使ったソリューション(後述のVDIなど)の利用などを考えると、64bit版のみでも問題ないということだろう。従来の32bitサーバOSが必要な場合は、Hyper-V上でレガシー・マイグレーションして対応すればよい。
最近のCPUでは1CPUの中に複数の物理的/論理的コアを実装しており、1CPUで4つとか8つといった論理プロセッサを実現している。このCPUをさらにマルチプロセッサ構成とすることにより、今後は数十〜数百もの論理プロセッサを持つシステムが普及することになるだろう。このようなメニー・コア・システムに対応するため、Windows Server 2008 R2では最大で256までの論理プロセッサに対応した。
NUMAのようなアーキテクチャのマルチプロセッサ・システムの場合には、NUMAのノードやグループを意識して、プロセッサやキャッシュ、ディスクなどがなるべく同じグループに属するようにプロセスを割り当てるようなっている。これによりグループをまたいだアクセス(これは同一グループ内のアクセスよりもペナルティが大きい)を避け、パフォーマンスの低下を防ぐことができる。
システムの論理プロセッサ数が増えるとシステム全体の消費電力も増大するが、処理をなるべく特定の必要最小限のコアに集約し、それ以外のコアをスリープ・モードにする、コア・パーキング機能をサポートしている。
Windows Server 2008 R2では仮想実行環境が大幅に強化されている。
Windows Server 2008で最初に導入されたHyper-VはVer.2.0になり、パフォーマンスの向上や機能の強化が図られた。利用可能な仮想マシンの最大数や論理プロセッサ数などが強化されているので、仮想サーバだけでなく、仮想デスクトップ(VDI)アプリケーションなどを多用する場合でも余裕を持って対応できる。また動的なVHDファイルの追加にも対応しているので、システムを停止することなく、データ用ディスクを追加するといったことができる。
Live Migrationは、クラスタ環境において、仮想マシンを停止することなく移動させる技術である。あるHyper-Vサーバ上で動作している仮想マシンを、その実行を止めずに、ネットワーク接続なども保ったままほかのクラスタ・ノード上のサーバへと移動させ、継続させることができる。これにより、メンテナンスなどでホストのHyper-Vサーバを停止しなければならない場合でも、仮想マシンを停止させる必要がなくなる。なおCPUの種類などによってサポートしている機能(命令セット)が少しずつ異なるが、このような場合でも対応できるように、仮想マシンごとに利用可能なCPUの機能を設定/統一することもできる。例えば一番機能の少ないCPUに合わせておけば、どのCPU間でもLive Migrationできることになる。
仮想デスクトップ・インフラストラクチャ(VDI)とは、アプリケーションをクライアント・コンピュータ上で動かすのではなく、リモートのコンピュータや仮想マシン上で動作させ、その画面やキーボード、マウスなどだけをローカルのコンピュータ上で動作させる手法である。システム利用環境の統一や内部統制(データやOSを1カ所で集中して管理できる)、管理コストの削減(クライアントPCには何もインストールしないので管理コストの大幅な削減が可能)などのために利用されるソリューションであり、一般的にはシンクライアントやリモート・デスクトップなどと組み合わせて利用される。
Windows Server 2008 R2ではこれに対応するため、新しいリモート・デスクトップ・プロトコルRDP 7.0のサポート(VistaのAeroGlassやマルチメディア/DirectXリダイレクト機能などにも対応)、RDPのパフォーマンス向上などを図っている。Windows Server 2008のTS(ターミナル・サービス)が機能強化され、Hyper-Vの仮想マシン上の仮想OSにアプリケーションをインストールして、それをVDIで呼び出せるように統合化されている。
Windows 7との連携機能もWindows Server 2008 R2の特徴の1つである。
BranchCacheとは、支社などに導入したWindows 7/Windows Server 2008 R2からWAN回線を通じて本社のWindows Server 2008 R2サーバへアクセスした場合、そのアクセス結果のファイルやデータなどをクライアント側にキャッシュし、共有する機能である。一度キャッシュした内容は支社内のコンピュータ間で共有し、遅いWAN回線を通じた本社へのアクセスを回避する。最初のユーザーはアクセスが遅いが、2人目以降のユーザーが同じデータへアクセスする場合は、ローカルのコンピュータからコピーするので高速に行える。このローカルでのキャッシュと共有はシステムが自動的に行うので、ユーザーは何もしなくてもよい。
DirectAccessは、VPNのような特別な仕組みを導入することなく、Windows Server 2008 R2とWindows 7だけでセキュアなプライベート・ネットワークへのアクセス手段を提供するための技術である。Windows Server 2008 R2で構築したDirectAccessのサーバをインターネットに配置しておくことにより、あらかじめ登録されたDirectAccessクライアントからのアクセスだけを許可する。インターネットでは標準的なプロトコル(IPv6とIPSec)だけを使うので、特別な事前設定などが不要であり、どこでも利用できる。
運用や管理に関する強化機能としては次のようなものがある。
インストールするコンポーネントを限定し、セキュアなシステムを作成するために利用されるServer Coreインストールであるが、Windows Server 2008のServer Coreインストールでは、.NET Frameworkが利用できないという問題があった。この結果、Server CoreではIISのASP.NETやPowerShellが利用できなかった。せっかくセキュアなWebサーバ・システムを作ろうとしても、これではあまり意味がない。Exchange Server 2007システムでは管理スクリプトがPowerShellで記述されているし、システム管理でもPowerShellスクリプトが重要になりつつあるのに、である。
Windows Server 2008 R2ではこれが改善され、Server Coreインストールでも.NET Framework(Ver.2.0のサブセット版。GUIを利用するような部分は含まれない)が用意され、ASP.NETやPowerShellが利用できるようになっている。なおWindows Server 2008 R2のPowerShellはVer.2.0になり、簡単ながら開発環境(Windows PowerShell Integrated Scripting Environment)も用意されている。
AppLockerとは、特定のアプリケーション(例:ゲーム)を起動しないようにしたり、特定のバージョンや署名を持つプログラム(例:Ver.3.0以上)だけを実行可能にしたりする機能である。業務に不要なプログラムや危険性の高いプログラムの実行を阻止するなどが可能になる(Windows 7の「AppLocker」の解説記事も参照)。
BitLockerは、Windows Vistaで導入された、ディスク全体を暗号化して、PCの紛失や盗難などで重要なデータが漏えいするのを防ぐ機能である。BitLocker To Goではこの機能を拡張し、リムーバブル・メディア(USBメモリやポータブル・ハードディスクなど)でも利用可能にしている。BitLocker To Goで暗号化しておくと、正しいパスワードを指定しない限り、その内容を見ることができなくなる(Windows 7の「BitLocker To Go」の解説記事も参照)。
従来のActive Directoryの管理ツールでは、一度削除したユーザーやグループなどのオブジェクトは元に戻すことはできなかった。Windows Server 2008 R2のActive Directoryではこの点が拡張され、ごみ箱が実装された。これにより、一定期間以内なら削除したオブジェクトを簡単に元に戻せるようになっている。
Windows Server 2008 R2では、仮想マシン環境で利用される仮想ディスク・ファイル(VHDファイル)からのブートやVHDファイルのマウントに対応している。Hyper-V環境だけでなく、システムの展開サービスでもこのファイル・フォーマットをサポートすることにより、システムの展開イメージの管理などが容易になる。
「用語解説」
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