Rails関連のスクリーンキャストといえば、なんといっても「Railscasts」がイチオシです。2007年4月に開始したRyan Batesさんの個人的な取り組みです。初期には週に3本というハイペースで、今でも毎週1本の更新ペースを崩すことなく、どんどんコンテンツを公開しています。毎回1つのトピックに絞って、プラグインの導入方法や使い方、ティップスを10分ほどのクリップにまとめたもので、実用的なネタが詰まっています。最近のものだと、例えば、
などという感じです。テンポ良く、エディタ画面とブラウザを行き来しながら、手際よく機能を実装していきます。スクリーンキャストの動画は、一連の操作を短い動画として記録し、それをつなげる形で編集しているそうで、心地良いスピード感があります。それにしても、あまりに手際が良いので、「きっとあの強力な補完機能のあるエディタのパワーに違いない!」と誤解(理解)した視聴者の中には、Ryanさんがバリバリと使いこなしているTextMateというテキストエディタを購入した人が多いのではないかと言われているほどです。
Railscastsは公開が月曜日で、1度も更新が途切れたことがありません。「風邪気味なので、今回はサラッと終わらせます」などということを言いながらも、本当に毎週毎週の更新で頭が下がります。このことについて、ご本人はインタビューの中で、コンテンツ公開を期待してくれてる人がいることや、フィードバックがあることが励みとなっている、と言っています。
RailscastsのRyanさんは早口で、英語を聞き取るのが不安という方もいるかもしれません。あるいは職場でイヤホンやヘッドフォンはちょっと……、という方も多いでしょう。そういう場合は、Railscastsをテキスト化したASCIIcastsがお勧めです。いま改めて見ましたら、直近のエピソードではNaomi Fujimotoさんのクレジットで日本語訳も登場していました。
Rails3で何が新しくなったのか? という問いにストレートに応えてくれるのが、Gregg Pollackさんの「Dive into Rails3」です。これは公式サイトに含まれているので、準公式コンテンツといって良いものだと思います。
掲載されている動画は、以下のとおりです。
実際の動画をちょっとでもご覧いただければ分かると思いますが、これまた個人的に作ったなんて信じられないクオリティの高さです。
Gregg Pollackさんは、自分のパッションはソフトウェア開発と動画製作にあるとインタビューで答えていて、それもなるほどなと思えます。Greggさんは、「Scaling Rails」という一連のスクリーンキャストでも知られています。2009年1月にポッドキャストとしてリリースされたもので、約20個のエピソードは、Webアプリの応答性改善のためのキャッシングやDBのクラスタリングの基本テクニックを解説したものです。Rails固有の話ばかりでなく、Webアプリ高速化の一般論も含まれています。この一連のポッドキャストはWebアプリの運用監視サービスを提供するNew Relicがスポンサーとなっています。
同じGregg Pollackさんが2010年11月にリリースした「ゾンビ」をフィーチャーした学習コンテンツ「Rails for Zombies」は、スクリーンキャストに飽き足りないGreggさんの新たな取り組みです。競って分かりやすいスクリーンキャストを作る文化が盛んなだけでもRailsコミュニティは新しい物好きだな、と私なんかは思ってしまうのですが、「スクリーンキャストなんて、退屈だ!」と言って、「動画+オンライン体験学習コンテンツ」を作り込んだのがRails for Zombiesです。
なぜか動画にもゾンビが登場して、いろいろとRailsの基礎を学ぶのですが、続いて、よくテキストにある章末演習のような例題を、ブラウザ上で動くREPL環境で解くことができるようになっています。しかも、サンプルとしてモデル化している対象がゾンビで、ゾンビ名だの住所がナントカ墓地だのとネタが続きます。内容はきちんとした入門コンテンツなのですが、ネタなのか、なんなのか……。
いえ、真面目なんだと思います。イントロ動画の冒頭で「書籍だのスクリーンキャストだのあるけど、こちとらファミコン世代なんだ。さっさとコントローラを寄越しやがれ!」と言っています。確かに、まず書籍を見ながらざっと概要を眺め、それからRails実行環境を用意して……、えーっとなんだっけ? というのはまだるっこしいですよね。
参加者全員がゾンビの格好をする好事家(?)のイベント「Zombie walk」というのが北米にあるらしいですが、このRails for Zombieは、それからヒントを得ているそうです。こうした、ちょっとイカれたコンテンツ(しかも、やたらと洗練されている)が飛び出してくるのがRailsコミュニティの質の一面を象徴しているのかもしれません。
Greggさんはゾンビでは止まりません(あるいは止まったかもしれませんが)。2010年12月29日には、美しくカラーでフォーマットされた「Rails 3 Cheat Sheets」を公開しています。Routing API、Bundler、ActiveRelation、XSS Protection……、などとテーマ別に6枚のシートにまとめられています。今後サポート打ち切り(deprecated)のAPIも、その旨記載されているので、Rails2からRails3への移行を考えている人には、もしかするといちばん手っ取り早いAPI早見表となるかもしれません。
「Ruby on Rails Tutorial: Learn Rails by Example」は、オンラインで読める無償のチュートリアル書籍です。チュートリアルといっても500ページもあります。内容は非常にプラクティカルかつ具体的なアドバイスに満ちています。
面白いのは、開発環境のためのエディタやIDE、ブラウザの選択などでは、もし特に好みがなければ、こうするべきだということを自分の経験に基づいてズバッと言ってくれたりすることです。普通、こうした好みが分かれたり10年に渡る宗教論争が勃発しそうな選択においては、それぞれの良い面、悪い面を併記して「読者自身で試して決めるのが良い」とお茶を濁すものですが、そうではないのです。例えば、Rails用IDEは枚挙にいとまがないがないが、自分がやりたいことのすべてを叶えてくれるIDEには1つも出会ったことがないし、きちんと動きすらしなかったプロジェクトもいくつかある、などと書いてあります。これは、opinionatedな(強い意見を持った)人やプロダクトが溢れているRailsコミュニティらしい感じです。ソースコード管理もGitとGitHubで決め打ち、デプロイ先は何とHerokuです。最初から当たり前のようにRSpecを使い、TDDの考え方と実践方法が示されています。こうしたスタンスは、実は初心者にはむしろ良いのかもしれません。経験豊かな人がベストだとするコンベンションやレールに乗ったほうが良いという発想です。著者のMichael Hartlさんはカリフォルニア工科大学で物理学で博士号を取り、その後、シリコンバレーのWeb系スタートアップの間では知られたベンチャーキャピタル、Y Combinatorのプログラムに起業家として参加していたこともある、といいますから、まあ信用しても良さそうだというのもポイントです。
Railstutoial.orgの書籍はRails2.3系と3系の2種類ありますが、どちらも無償です。ただ、PDF版は有償(26ドル)です(DRMフリー)。また、アマゾンでは製本された通常の書籍として26ドルで販売されています。Webブラウザで読むのは確かにツラいものがあるので、iPadなどに入れて持ち歩くために買う人、紙媒体で買う人が一定の割合でいるということでしょうか。新しい電子書籍販売のプロモーション形態なのかもしれません(DRMとセットでなければコンテンツを出さないという日本の出版社には、こうした試みに注目してほしいところです)。60日の返品も受け付けています。
もう1つ、Railstutorial.orgで特筆すべきは、約15時間に及ぶチュートリアル動画です。前出のRyan Batesさんのものに比べると、丁寧にステップ・バイ・ステップで示す、まさにチュートリアルという感じのコンテンツです。こちらは85ドルです。書籍(26ドル)と足して111ドルのところ、95ドルとセット販売もあります。
さて、だいぶ長くなってきましたので、今回はここで終わりにして、次回の後編では、Rails関連ブログや注目のRuby/Rails専門メディア、最近、にわかに活気づいてきた感もある電子書籍販売サイトなどもご紹介したいと思います。
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