本連載では、シスコシステムズ(以下シスコ)が提供するシスコ技術者認定(Cisco Career Certification)から、ネットワーク技術者を認定する資格、CCNP(Cisco Certified Network Professional)のうち、2010年12月に日本語版が改訂された新試験【642-813 SWITCH】を解説します。
企業ネットワークでは、データネットワークと音声ネットワークを統合した事例が増えています。CCNP第1回目でVLAN、トランクの定義、実装について学習しましたが、今回はVLANを音声ネットワークで使用する機能について解説します。
従来の企業は、データ転送用のネットワークと内線電話のためのネットワークを別々に構築して、管理をしていました。データ転送用のネットワークは、各拠点にLANを構築します。各拠点間はルータなどを経由してWANサービスで接続します。
音声データを転送するネットワークでは、各拠点にPBX(Private Branch eXchange)という構内交換機を設置して社内の電話回線を収容します。PBXは社内の内線通話の制御が可能です。各拠点のPBXを相互に接続することで、内線用の電話網を構築します。また、PBXから外線通話回線にも接続します。
ネットワーク技術が発展する前は、このように2種類のネットワークを別々に構築し、管理しなければなりませんでした。ネットワーク技術が発展して、コンピュータのデータと音声データを一元管理できるVoIP(Voice over IP)ネットワークが登場し、どんどん普及しています。
VoIPネットワークでは、コンピュータのデータと音声データを同じケーブルに流すことが可能です。PBXは音声対応のルータに接続し、このルータで音声をIPパケット化し、IPネットワークに転送します。これにより内線通話をIPネットワークに転送できるようになるのです。しかし、VoIPネットワークを利用するにしても、既存のPBXと電話機が必要です。2種類のネットワークを完全に結合しているわけではありません。
VoIPの考え方をさらに進めたものとして、すべての通信をIP化するIPテレフォニーが登場しました(図1)。IPテレフォニーでは既存の電話機は使いません。電話機自体で音声をIPパケットに変換して転送できるIP PhoneをLANに接続するのです。
また、PBXの代わりにIP Phoneの通話を制御するIP PBXをLANに接続します。CiscoはCisco CallManagerというIP PBXを用意しています。IP PhoneはIPアドレスをDHCPサーバから取得します。そして、MACアドレスとIP Phoneの電話番号をCall Managerで一括管理するのです。IP PhoneをLANに接続すると、自動的にIPアドレスと電話番号を取得できます。レイアウト変更があったとしても、IP PBXの設定を変更する必要はなく、IP Phoneを移動した先にあるLANに接続すれば、同じ電話番号を利用できます。
このようにデータと音声のネットワークを1つに結合することにより、音声通信コスト、PBXの保守費用やレイアウト変更時の工事費などの運用コストを削減できるのです。
なお、データネットワークに音声パケットを流すときは、QoS(Quality of Service)に注意しましょう。QoSとは、アプリケーションが必要とする通信品質の確保を可能にする機能です。
ネットワークにはさまざまなパケットが流れています。その中でも、音声はリアルタイム性が重要になるトラフィックです。ネットワークで遅延が発生すると、話者同士の会話が成り立たなくなります。そのため、音声のデータは最優先で送信しなければなりません。リアルタイムトラフィックを随時最優先して送信できるようにQoSを設定するのです。QoSの設定については次のステップでご紹介します。
IPテレフォニーの構成要素を2つ選択しなさい。
a. IP Phone
b. 電話機
c. IP PBX
d. PBX
a、c
a、cが正解です。IPテレフォニーでは既存の電話機は使いません。電話機自体で音声をIPパケットに変換して転送できるIP Phoneを使います。また、既存のPBXの代わりにIP Phoneの通話を制御するIP PBXをLANに接続します。
IP PhoneはLANに接続すると説明しました。つまり、スイッチに接続することになります。PCもスイッチに接続するので、電話もPCもスイッチに接続してしまうと、あっという間にスイッチのポートを使い切ってしまいます。
そこで、スイッチのポートを無駄にしないようにIP Phoneはイーサネットポートを2つ持っています。IP Phoneをスイッチに接続し、PCをIP Phoneのイーサネットポートに接続するのです。IP Phoneが簡易的なスイッチの機能を持っているので、ユーザーはIP Phone経由で社内ネットワークに接続できます。
そうなると、IP Phoneの音声トラフィックとPCのデータトラフィックが同じVLANに流れることになります。その結果、IP Phoneの音声トラフィックに遅延が発生する可能性があります。そこで役立つ機能が音声VLANです。VLANの基本的な考え方を正確に覚えていない方は、CCNP対策講座 SWITCH編の第1回を復習してください。
音声VLANとはCisco IOS(Cisco Internetwork Operating System)の機能です。音声VLANを利用すると、スイッチの1つのアクセスポートにPCのデータ用VLANと、IP Phoneの音声用VLANを作り、論理的にトラフィックを分離できるのです(図2)。
こうすると、音声トラフィックの識別が簡単になり、音声トラフィックを優先して送信できるので遅延を抑えることができます。
データ用VLANはネイティブVLANとして設定します。つまり、PCが送信するデータにはタグが付きません。音声トラフィックは音声VLAN用のタグを付けて送信されます。音声VLANやデータVLANの番号はスイッチで設定します。そして、CDP(Cisco Discovery Protocol)でこれらの情報を通知します。
以下の5つのVACLの設定について正しい説明を、a〜dの中から1つ選択しなさい。
a. 音声VLAN
b. VLAN
c. ISL
d. CDP
a
正解はaです。シスコCatalystスイッチは、音声VLANと呼ぶ独自の機能を提供します。音声VLAN機能は、コンピュータのデータと音声データを物理的に同じケーブルに接続してあっても、個別の論理ネットワークにセグメント化し電話を配置できます。
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