DevOpsムーブメントに関連して注目される、米Opscodeのオープンソース・サーバ構成管理自動化ツールChefが「日本上陸」した。クリエーションラインとの提携による日本市場への参入発表のため来日したOpscode CEO、ミッチ・ヒル(Mitch Hill)氏に、Chefに関して単独インタビューで聞いた。
従来型のサーバ運用管理製品と、Chefの違いについて、ヒル氏は次のように説明する。
「従来の運用管理ソフトは、どのようにインフラが構築されるべきかをあらかじめ規定した上で、階層構造や自律システムを作り上げていた。製品のフレームワークに合わない使い方をしようとすると、機能しない。IBMやHP、BMCの(運用管理)製品を買っても使わなくなってしまった人がいるのは、(ユーザー組織における運用担当者の直面する)問題がもっと有機的で動的だからだ。インフラがはるかに複雑化してきたいま、インフラの「オペレータ」や「アドミニストレータ」と呼ばれてきた人たちは、今後苦しくなるだろう。第1に、彼らはスキルアップを図らなければならないし、第2にこれまでとは違うツールを使うべきだといえる。ボタンを1つ押せば、運用管理システムがすべてを解決してくれるような世界は、もうあり得ないからだ。固定化された管理システムでなく、プログラミング言語に近いChefのようなツールが必要だ」
Chefは、Rubyで記述したサーバ構成作業内容のファイルをChefサーバに配置し、これに対して管理対象サーバがアクセスして、その内容を自分自身に反映する仕組み。作業内容は構成手順書的な役割を果たすCookbooksと、これに含まれる実際の設定内容であるRecipeで構成される。
「Chefは、インフラ運用担当者が信頼して使える『パターン』を、CookbooksやRecipeとして提供できる。さらにこれらを、コミュニティで共有できる。あなたがSSHプロキシを構築したいと思ったら、コミュニティサイトに行けばコードはそこにある。それを使えばいいだけだ。ポストされても人気の出ないCookbookもあるが、爆発的な人気が出るものもある。あなたはコミュニティ上で、『このCookbookをダウンロードしたが、この部分の記述についてどう思う?』などと聞くこともできる」
Chefは、サーバ(あるいはアプリケーション)のプロビジョニングを中心とした、定型作業の自動化は得意だが、例外的なアドホック処理については不得意だともいわれる。これをどう考えているのだろうか。
「Chefを活用している人のほとんどは、これを『スタイル・オブ・ワーキング』(仕事のやり方)だと表現するだろう。重要なのは、あなたの環境でも何らかの変更作業が多数発生しているだろうということだ。こうした変更は一貫したスタイルで実行する必要がある。だれも、対象となる環境を直接いじってはいけない。あなたは設計図を変更する。すると、代わってChefが環境に対する変更を実行する。これはスタイル・オブ・ワーキングであり、新しい仕事のやり方だ。有機的な環境では、(直接変更を行うと)、すべてを壊してしまう可能性がある。そうではなく、あなたはポリシーに変更を加え、これをテストしてから、実際の環境への適用はシステムに行わせるべきだ」
「Chefでも『ad hoc change』『push change』と呼ぶメッセージを提供している。さらにpush機能について改善を進めているところだ。ただし、この改善においても、インフラを直接操作するのでなく、(担当者は)CookbooksやRecipeに対して変更を加えるというChefのスタイルを適用する」
ChefはAmazon Web Sevices(AWS)をはじめ、CloudStack、Rackspace、VMware vCloud、Windows Azureなど、クラウドAPIを幅広くサポートしている。
「このため、Recipe上でデプロイ先を簡単に切り替えることができる。MySQLをCentOS上で動かしたい、最初はAWSにデプロイしようと思ったが、やはりAzureにしたい、となったら、コードを1行変更するだけで実現できる。世界は、こうしたやり方に向かっている。当社の顧客でもあるFidelity Investmentsなどでは、金融サービスをパブリッククラウドに移行することはおそらくないだろう。しかし、社内のデータセンターでも、クラウドAPIを使うことにより、開発者がインフラを制御できる」
一方、ChefはRightScaleやEnstratus、Engine Yardなど多数のネットサービスでも、運用自動化の役割を担っている。
「オープンソースをルーツとしたエコシステムでは、すべてのことを自分でやる必要はない。Chefは、特定分野の困難な問題を解決することに秀でている。だから多くの人々が使ってくれている。われわれの技術のDNAは、『われわれの顧客は開発者だ、開発者はAPIを理解する、だからわれわれはSDKを真っ先につくり上げる』というものだ。だからこそ、RightScaleやEnstratusはChefを、閉じたシステムとしてではなく、彼らのサービスの土台として使える。これは非常に強力で柔軟だ」
Chefは無償版のほかに、サポート対象となる有償版があり、さらにサービスの「Hosted Chef」が存在する。ヒル氏によると、Hosted Chefは、Opscodeの売り上げの約30%を占めているという。
「毎月、数千のユーザーあるいは組織がHosted Chefを活用している。そのうち70〜80%は若い企業で、ポータブルPC以外は何も持っていないような人たちだ。彼らは(クラウドサービスを使い)、社内にChefサーバを置きたくないため、サービスを使っている。こうした企業が大きくなり、いまや1000台以上のサーバをHosted Chefで管理しているケースも複数ある。(Hosted Chefの成功が)素晴らしいのは、これによって大企業と中堅・中小企業の双方を対象としたビジネスモデルを構築できたことだ」
今後の機能強化について、ヒル氏は次のように説明する。
「Chefは多くの情報を集めているが、これまではあまり活用せず、『実行』に力を入れてきた。そこで情報を中央に集めて活用することに取り組んでいる。もう1つは可視化だ。SDKを提供するだけでは、ある種の人々にとって見えにくい。そこで新しい管理コンソールおよびイベント管理レポートのツールに取り組んでいるチームがいる。並行して、多数の人々が注目しているCI(Continuous Integration)についても取り組んでいる」
ヒル氏は日本のIT市場が世界2位あるいは3位という規模であることを、以前から知っていた。しかし今回、具体的な日本市場参入の動きにつながったきっかけは、コミュニティにおける日本人の活動だったという。「毎晩、コミュニティサイトに日本からたくさんの人たちが来る。これを見て、(日本市場進出の)話を進めることにした」
クリエーションラインも、CloudStack、Enstratus、Opscode Chefという3つのコンポーネントの相互連携を生かしたクラウド導入・運用支援を進めていきたいと考えており、日本手市場におけるChef関連サービスの提供で話がまとまったという。
具体的には、有償版Chefの販売と保守、導入支援コンサルティング/トレーニング、導入インテグレーションサービスを行っていく。また、Hosted Chefの利用料金請求代行も行う。Opscodeは現在Chefのドキュメントの全面的な書き換えを進めており、その日本語訳も、クリエーションラインが担当する。
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