次世代SPARCプロセッサ搭載機がいよいよ市場に投入される。旧資産の集約と高速なデータ処理を実現するための「ソフトウェアとハードウェアの融合」、DWH的な情報分析向けの機能強化がポイントだ。
富士通は2013年1月18日、ミッションクリティカル用途向けUNIXサーバ製品のラインアップを刷新し、新たに「SPARC M10」製品群の提供を開始した。
SPARC64チップ搭載UNIXマシンには、高スループットを特徴とするTシリーズとミッションクリティカル系システム向けの信頼性を特徴とするMシリーズがある。今回発表になったM10は、このMシリーズの最新ラインアップとなる。
M10の「10」は64ビットSPARCチップの10世代目に相当する「SPARC64 X(コードネームAthena)」に由来する。Athenaは、2012年のOracle OpenWorldで富士通 システムプロダクトビジネス部門長 執行役員常務 豊木則行氏が言及していたものだ(関連記事)。
最大の特徴は「ソフトウェア・オン・チップ」にある。文字通り、従来ソフトウェアで実施していた処理の一部をプロセッサ側で実行する。これにより、SPARC64 Xでは、10進数の演算や暗号処理など、データベースで汎用的に使われる処理群を非常に高速に実行できるようになる。ソフトウェア側がこのプロセッサに最適化されていれば、パフォーマンス向上を狙える。富士通では、Oracle Database、Symfowareの2つのデータベース製品で、SPARC64 Xの機能への対応を予定している。旧サン・マイクロシステムズの資産やミドルウェア製品を複数持つオラクルとの協業をベースに、よりOSやミドルウェアのパフォーマンスを意識した開発が進められたという。
「特にソフトウェアとの融合については革新的な製品」(豊木氏)
SPARC64 Xでは、CPU内にメモリコントローラやシステムコントローラに相当する回路を持っており、この部分の処理をCPU単体で受け持つことができる。
ECCなどを使った信頼性向上は従来のSPARCでも実装済みだが、M10では新たに浮動小数点レジスタの保護機構をパリティではなくECCに強化している。また、演算器には「パリティプレディクト」という機構も実装しており、より信頼性の高いチップになっているという。プロセッサの全回路にエラー検出機構、エラー修復を行うリカバリ機構を装備している。
高速な処理を目指してDIMM16枚を各CPUに直結、基板上の距離も物理的に最短になるよう設計している。基板レイアウトが高密度となることから、通常の空冷に加え、「自立型循環液冷システム(Liquid Loop Cooling)」も採用している。
動作周波数は3GHzだが、「動作周波数をやみくもに上げることで信頼性を下げるよりも、動作周波数以外の領域で処理の高速化を狙った開発を進めている」(豊木氏)という。発表資料では、Standard Performance Evaluation(SPEC)が提供するベンチマークツールSPEC CPU2006による整数演算性能のベンチマークにおいて、従来の同スペックのプロセッサとの比較してコア性能で約2倍、CPU性能で約8倍と、性能の高さを示している。
SPARC M10のラインアップは、1CPU(16コア、512GBメモリ)を搭載する1UのM10-1、4CPU(64コア、2TBメモリ)を搭載する4UのM10-4、M10-4を最大16筺体増設可能なM10-4S(最大1024コア、32TBメモリ)の3種。M10-1、M10-4は出荷を開始しており、M10-4Sは2013年1月末から出荷開始予定だ。価格は下記の通り。
製品名 | 価格 |
---|---|
SPARC M10-1 | 220万円〜 |
SPARC M10-4 | 570万1000円〜 |
SPARC M10-4S | 1516万3000円〜 |
OSはSolaris 11を前提としている。Solarisが持つ仮想化機構である「Solaris Zones」を使えるため、旧来のSolarisの資産統合が可能になる。また、同じくSolaris側の機能としてグリッド構成のシステム全体をSMP構成と同様に管理できる利点がある。
また、CPUコアアクティベーション機能によって、サーバを稼働させたままの状態で、段階的にCPUコアをアクティブ/非アクティブに設定できる(2コア単位)。システム集約に際しては移行した後でパフォーマンスを勘案しながら、CPUリソースを動的に割り当てられる。
物理パーティションのほか、Oracle VMを使った論理パーティショニングや、Solaris Zonesによる仮想化も可能なため、用途によって物理層からソフトウェア層までの多段階での仮想化が可能だ。
「ハードウェア的なサーバ集約と、OSのバージョンアップやソフトウェア改修を分離して考えることができるようになる」(富士通 エンタープライズサーバ事業本部長 執行役員 野田敬人氏)
仮想環境の活用によって既存サーバ資産の集約が可能になるほか、データ処理の高速化を狙ったCPU設計およびソフトウェアの改善によってDWH的なデータ活用にも可能性が広がる。
富士通 総合商品戦略本部 本部長代理 佐々木一名氏は、従来のUNIXサーバ機が受け持つ基幹系システム領域だけでなく、情報系システムの領域でのシェア拡大も目指していると語った。
同製品のベータ版評価で、トヨタ自動車は「グローバルな生産・物流関連をサポートするシステムに用いて、リソースの有効活用や性能、そして安定性の評価・検証を実施し、期待に応える結果を得ております」とコメントしている。このことからも分かるように、グローバルサプライチェーン情報の集約や、集約したデータの予測・分析への活用といった展開にも対応する内容となっているようだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.