WWDC常連のドリキンが、エンジニア視点で書き綴る。OS X Mavericksのタブ化されたFinder、タグ、マルチディスプレイから核心のアドバンスドテクノロジーまで。
サンフランシスコで現地時間6月10日の朝10時から開催された、Apple World Wide Developers Conference(通称WWDC)の基調講演の感想をドリキン視点でお届けします。
年に1回、サンフランシスコのMosconeセンターで開催されるアップルデベロッパのお祭り的イベント、The Apple World Wide Developers Conference 2013(通称WWDC 2013)が現地時間6月10日朝10時から今年も開催されました。
2007年にスティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)氏により初代iPhoneが発表されて以降、毎年新製品や新OS・ソフトウェアの発表が定番となり、イベントのチケットは日本円で約16万円という高額にもかかわらず毎年即日完売。開発者だけでなく、非開発者もこぞって参加してキーノートを楽しむモンスターイベントとなっています。
去年からは、ジョブズ氏に変わり、現アップルCEOのティム・クック(Tim Cook)氏がメインプレゼンテータとなりましたが、人気や注目度は衰えることなく今年も5000枚近いチケットが2分以内に売り切れ話題となりました。
僕自身、このイベントには2000年からほぼ毎年参加しているのですが、残念ながら去年と今年は実際にイベントに参加することはできませんでした。
幸い、今年も注目のキーノートは全世界にストリーミング配信され、会場の外からでもリアルタイムにその内容を知ることができたので、今回はキーノートの速報というより、イベント常連、エンジニア視点で、発表で気になった内容をドリキン視点で書き綴ってみたいと思います。
前回のenchantMOONの解説記事から、ここ@ITで記事を書かせていただくことになったサンフランシスコ在住ソフトウェアエンジニアのドリキンです。
ちょっとマニアックかつ偏った解説で誤解を生じないかなと内心ドキドキしてたのですが、おかげさまで、enchantMOON解説記事が好評だったため、今回またこちらで記事を書く機会をいただきました。
僕自身、WWDCには2000年から10回以上参加している常連です。一部ではAppleマニアとして知られているアップルウォッチャーなので、そんな僕なりの視点で、今回の発表で気になった内容について、自分なりの感想を書かせていただこうと思っています。
ちなみにWWDCでは、キーノート以外の内容はNDAで公開することが禁止されています。この記事の内容についても、あくまでもキーノートのストリーミングを見て知り得た情報の範囲でのコメントとなっています。情報の不正確さや勘違いなどもあると思いますがご了承ください。
現アップルCEOティム・クック(Tim Cook)氏の登場から始まった2013年のキーノートですが、クック氏のプレゼンもかなり慣れてきたのか、特に大きな違和感もなく開催。
クック氏自身、ジョブズのプレゼンを良く勉強しつつも、モノマネではなく、無理なく自分なりにプレゼンするスタイルを確立してきた気がします。
そんな中、最初に気になった内容は、「Mavericks」と名付けられた新しいOS X。10番目のアップデートとなるOS X Mavericks(以下Mavericks)です。
Mavericksという名前は北カリフォルニアにあるサーフィンで有名な海岸の名前から付けられたそうです。今後10年のOS Xの進化を見越した命名ルールは、OS Xを生み出しているカリフォルニアの地名から名付けていく方針にしたと、プレゼンテーションを行った、ソフトウェアエンジニアリング担当SVPのクレイグ・フェデリギ(Craig Federighi)氏がいってました。
ネコ科シリーズはネタがなくなってきたので、次はシーライオン(アシカ)にしようとといったギャグもあったのですが、地名シリーズになれば当面名前に困ることはなさそうです。
Mavericks最初の機能説明はタブ化された「Finder」から。
まぁ、ここら辺は軽いジャブって感じで、正常進化というか、そんなに自慢することじゃないだろうという感じではあるのですが、お約束ですね。
以前から、Finderでタブやフルスクリーン機能を実現するサードパーティー製ユーティリティはいくつかあって、筆者も一時期使っていたことはあるのですが、結局あまり馴染まずに、素のFinderに戻して使ってました。
Finderって単体で使うアプリというより、デスクトップやほかのアプリケーションと連携して使うものなので、フルスクリーン化もあまり恩恵を受けない感じではあるのですが、フルスクリーンアプリを推奨をしているからには、これはできても当たり前。
FinderはOSの最も根幹をなす基本機能であり、OS X以前の旧Mac OSから存在するアプリケーションであるので、技術的にはCarbonというOS X以前の技術と、CocoaというOS Xの前身であるOS NeXTSTEPから引き継がれ、OS X移行の基盤となっている技術の狭間で長年苦労して開発されてきました。
Appleは7番目のOS XであるOS X 10.6 Snow Leopardで、ようやくFinderをCocoa技術を使って一から完全に書き直すことができました。
そのときは、スクラッチから作り直されたため、旧Finderに比べて機能が減っていたり、不満もありました。が、その後バージョンアップを重ねるたびに地味に改善され、ようやく現在のOS X 10.8 Mountain Lionでは、旧Finderに匹敵するレベルまで完成度が高まったので、そろそろ新しいファイルの管理方法を提案するような、画期的な進化を期待していました。そういう意味では、MavericksのFinderの進化はまだまだ正常進化の範囲にとどまっているという感じです。
さらには、ドキュメントにファイル名だけではなくタグを付けられる機能も紹介。しかし、タグ付けなんて、Web 2.0がもてはやされた時代の産物で、廃れてこそいないけど、決してこれがベストな管理方法ではないと思っています。2013年に発表された未来のOSで、タグ付けを誇らしげに発表されても、タブ化に続いての、がっかり感の上塗り感は否めませんでした。
特に、OS X 10.4 Tiger移行で搭載されたSpotlightは、タグなんてなくても、ファイル名だけでなく、ファイルの中身を解析して、キーワードから必要な書類を素早く見つけられるという画期的な機能だったのに、ファイルを管理する人間側の手間を増やすソリューションは、退化とまではいいませんが、もうちょっと未来を見せて欲しかったなぁという気がしました。
次にアピールされた新機能はマルチディスプレイ機能。
もちろん従来のOS Xもマルチディスプレイには対応していましたが、OS X 10.7 Lionにて、一押し機能として導入されたフルスクリーン機能は、マルチモニタではうまく機能せず、メインディスプレイ以外が死んでしまうというひどい仕様だったので、時代はシングルモニタ、大画面・高解像度化というのがアップルのメッセージかなと受け止めてたんですが、Mavericksでは一転してのマルチディスプレイ推しとなりました。
フルスクリーンアプリと、ウインドウアプリが混在してマルチディスプレイ間で独立してコントロールできるだけでなく、メニューバーやDockもそれぞれのディスプレイで操作できるようになったので、確実にマルチディスプレイでの生産性は上がるのは喜ばしいのですが、ここまでくると新機能というより、バグフィックスだろうというツッコミをせざる得ない感じではありました(笑)。
僕も、Lionがリリースされた当初は、アップルの推す(?)、シングルモニター・フルスクリーン方針を信じて、アプリは基本的にフルスクリーン化して使ったりしてましたが、結局気付いてみると従来のウインドウベースなアプリケーションの利用に戻ってました。
しかも、最近では、やっぱりマルチディスプレイの方が効率良いなと思って、自宅や職場もマルチディスプレイ環境を構築したりしてた矢先なので、Apple自らマルチディスプレイにおける問題に気付いて、改善に取り組んでくれたことは、作業効率の改善に大きな進歩をもたらせてくれることは間違いなく、歓迎すべきことではあります。
極め付きは、AirPlayを活用するとAppleTVを経由して大画面のテレビモニターが第3のディスプレイになるというデモもあり、いろいろ夢が広がってきます。
プレゼンを聞きながら、Mavericksが発売されれば、リビングにはMacBook Air11インチを1台用意しておいて、テレビにはAppleTVを接続しておけば、ちょっとしたブラウジング作業から、大画面での動画鑑賞まですべてをMac一台済ませることができ、テレビ周辺に乱立するメディアプレイヤやコンソールを一掃できてしまうかもしれないという夢を抱いてしまいました。
言いたい放題言ってますが、これらの機能は、結果的には確実に生産性を向上させる機能なので大歓迎。アップル的にもMavericksのつかみはオッケーという感じでした。
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