NTTドコモとAtomic Fictionが語る、「AWSが必須」の理由しゃべってコンシェル、VFX制作……

Amazon Web Services(AWS)のユーザーには、AWSのサービスがなければ自分たちの事業が成り立たたないと自ら語る人たちが多い。11月第2週にAWSが米国ラスベガスで開催した「re:Invent 2013」におけるユーザーの話から、米国のVFX制作会社Atomic FictionとNTTドコモの「しゃべってコンシェル」の例を紹介する。

» 2013年11月18日 16時58分 公開
[三木 泉,@IT]

 Amazon Web Services(AWS)のユーザーには、AWSのサービスがなければ自分たちの事業が成り立たたないという人たちが多い。スタートアップ企業だけでなく、大組織でもこうした話をする人たちが増えている。ここでは、11月第2週にAWSが米国ラスベガスで開催した「re:Invent 2013」から、米国のVFX制作会社Atomic FictionとNTTドコモがそれぞれ自ら語った内容を紹介する。

クラウド活用でVFX制作に新たなやり方を持ち込むAtomic Fiction

 2011年に設立されたばかりでありながら、大作の仕事を次々にこなしているVFX制作会社Atomic Fictionにとって、AWSのサービスがなければ同社のビジネスは成立しない。共同設立者でVFXスーパーバイザのケビン・ベイリー(Kevin Bailie)氏は、「ピクサーに匹敵するような規模のレンダリングファームを即座に構築でき、不要になったらなくすことができる。処理能力に物理的な制約がなくなることで、アーティストが表現できる創造性にも限界がなくなる」と話した。

Atomic Fiction共同設立者でVFXスーパーバイザのケビン・ベイリー氏

 レンダリング作業を完全にAWS上で行うことで、資金の少ない企業でも使いたいだけの処理能力を即座に用意できる。しかも、100の仮想インスタンスを10時間使う処理を、1000の仮想インスタンスを1時間使って行っても、AWSの利用コストは変わらない。このためアーティストにとって「レンダリング待ち」が問題とならなくなる。「アーティストにとって、自分が加えた変更に関する記憶が新鮮なうちに、フィードバックが得られるということはとてもパワフルだ。結果としていい仕事ができる」。

 Atomic FictionではZYNCというソリューションを使っている。スタッフは同社のローカルサーバの作業ディレクトリにファイルを置けばいい。あとは自動的にAWSの仮想インスタンスが立ち上がってレンダリングが行われ、結果がローカルサーバに戻される。アーティストに、クラウドを使っているという意識はない。

仕事が早く、無駄なコストを料金に転嫁しない、新しいビジネスのやり方が可能になっている

 ベイリー氏は「Star Trek Into Darkness」のVFX制作の仕事を例に、これを説明した。ベイリー氏たちにとって夢であったスタートレック映画制作への参加だが、この仕事を受注した時期は遅く、時間がなかった。それでも即座に仕事に取り掛かり、短期間で成果を出すことができた。さらにプロジェクトが終わると、データをAmazon Glacierにアーカイブし、1週間のうちにAmazon EC2の利用をゼロにすることができた。

 このため、「レンダリング環境をメンテナンスし続ける必要がなくなる。また、コストを次の顧客に転嫁しなくてよくなる。顧客の使ったすべての金が価値をもたらす使われ方をしていると保証できる」。

リーンで成果を出せたのはAWSのおかげ

 NTTドコモは「しゃべってコンシェル」でAWSを使っている。re:Inventのセッションで英語による講演を行った同社執行役員で研究開発推進部長の栄藤稔氏は、大組織の中で、クラウドネイティブな開発と運営を進め、リーン・スタートアップの文化を醸成できたのは、AWSのサービスを使ったからだと話した。

NTTドコモ 執行役員で研究開発推進部長の栄藤稔氏

 一般論として、大組織には現状を守りたい人々や可用性を何よりも重視する人々がいる。こういった人たちは高価で柔軟性に欠けるインフラを使わせたがる。一方で変革を起こしたいリーダーがいて、さらに実績はなく大きな予算は与えられないものの、物事に新しいやり方を適用していきたい人がいる。しゃべってコンシェルの開発と運用を通じて、この新しいやり方を求めるチームが実績を手にすることができたと、栄藤氏は話した。

 当初NTTドコモは、音声エージェントを別の名前で2011年5月に、「ステルスプロダクト」(提供されているものの、プロモーションもされない「影の」サービス)として提供開始した。その頃はデータセンターでサーバを動かした。しかしその後、NTTドコモの経営陣がこれに目をつけ、3カ月以内に本格提供せよとの命令が下ったのだという。機能改善を加えて2012年3月に「しゃべってコンシェル」としてスタート。サービスが急速に伸びることを予測して、国内のIaaS事業者2社のデータセンターを使い、グローバルロードバランスを行う運用とした。

 トラフィックは急速に伸びた。2012年3月には50万アクセスだったものが、4月には150万アクセス、7月には250万アクセスに達した。利用増に追随して仮想サーバを増やそうとしたが、これらの事業者はNTTドコモのニーズに応えられるような仮想インスタンス数を用意できなかった。また、月額料金制のためコスト効率が悪かった。

 そこで2012年6月にしゃべってコンシェルのシステムをAWSに移行。まず北カリフォルニアのリージョンを使ったが、9月には東京リージョンに移行して現在に至っている。このように、短期間で運用場所を次々に変えることができたのも、開発チームのアジャイルへの取り組みがもたらした成果だと栄藤氏は胸を張る。

しゃべってコンシェルのシステムは短期間で「引っ越し」を繰り返してきた

 AWSへの移行に至った背景として、栄藤氏はAWSがテクノロジリーダーであること、その周辺に広大なエコシステムができあがっていること、そして何よりも世界中に革新的なユーザーが多数存在していることを指摘した。これらを含めて、AWSはスケールするプラットフォームだと話す。

 「ボイスエージェントでは、アルゴリズムはコモディティだ。データ(スピーチデータおよび語彙データの処理)が差別化につながる」(栄藤氏)。しゃべってコンシェルでは、データインテンシブなプロセスである音声認識システムとタスク認識システム、そしてログ管理システムを、複数のアベイラビリティゾーン(AZ)にまたがるアクティブ―アクティブの構成で運用している。仮想インスタンス数は2000以上に達するという。

最終的に、これは文化の問題だと栄藤氏は話した

 しゃべってコンシェルのサーバではAWSのオートスケーリング機能を使っていない。テレビコマーシャルなどためにトラフィックが急速に増加したとしても、音声認識サーバの起動には10〜30分かかるからだ。同サービスでは現在、予測に基づく仮想インスタンス制御を行っている。さらに仮想インスタンス数制御の最適化を進め、さらに機械学習を進化させるため、Elestic MapReduceとシステムの統合を進めているという。

 しゃべってコンシェルのチーム内には、まずデプロイして、問題は後から検討するという考え方が浸透してきたという。何よりもスピードが大切と考える、クラウドネイティブなチームに成長した、こうした文化を持った開発チームには、旧来の考え方ではついてこられないのだと栄藤氏は強調した。

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