「ITはなぜ文房具のように使えないのか。Software Definedとは、それを克服するための動きではないか」──こうした観点から、2014年9月18日に開催された@IT編集部主催セミナー「SDx Conference 2014」をリポートする。
「ITはなぜ文房具のように使えないのか。Software Definedとは、それを克服するための動きではないか」──@IT編集部は、こうした観点から、一般企業にとってのSDx SDx(Software Defined x)の要件や製品ベンダーの取り組みの最前線を紹介するカンファレンス「SDx Conference 2014」を9月18日に開催した。パネルディスカッションと特別講演を含め計6セッションに及んだカンファレンスの模様をリポートする。
SDx Conference 2014は、ユーザー、ベンダー、リサーチ会社が一堂に会したパネルディスカションで幕を開けた。パネリストは総勢6名で、SDxの動きを知る上でのキープレーヤーと言っていい顔ぶれとなった。
まず、リサーチ会社の立場から、Software Defined Infrastructure(SDI)についてユーザー企業の意識調査を行ったIDC Japanシニアマーケットアナリストの入谷光浩氏が登壇。ユーザーの立場からは、SDxによるITインフラ変革を進める富士フイルムコンピューターシステムのシステム事業部 ITインフラ部長の柴田英樹氏が参加した。
また、ベンダーの立場からは、インフラ基盤の分野で、Software Defined Storage(SDS)を展開するEMCジャパンのシステムズ・エンジニアリング本部プロダクト・ソリューション統括部 アドバイザリー・システムズ・エンジニアの平原一雄氏が、サーバー仮想化とネットワーク仮想化を中心にSoftware Defined Datacenter(SDDC)を推進するヴイエムウェアからネットワーク&セキュリティ事業部 テクニカルリーダーの進藤資訓氏が参加した。
さらに、ネットワーク・アプライアンスやアプリケーションの分野から、ブロケードコミュニケーションズシステムズ SDN/NFVビジネス開発本部 執行役員の尾方一成氏、SDNテストソリューションを提供するイクシアコミュニケーションズのシステムエンジニアリング部 シニアシステムエンジニアの野田清志氏が参加した。
モデレーターを務めたのはアイティメディア エグゼクティブエディターの三木泉。三木はまず、「Software Definedとは、利用者がやりたいことを最短距離で実現できるようにするためのITの利用方法であり、言い換えれば、ITが文房具のように使えることを目指す動きだ」と、ディスカッションの大きなテーマを説明。そのうえで「Software Defined製品は、ビジネス目的の達成につながりやすいこと、ユーザーにとって使いやすいこと、自動的自律的に提供されること、機能や性能を確実に果たせることなどが要件になるだろう」と指摘した。
実際、ユーザー調査を行った入谷氏によると、「SDIを実現していきたい」という回答が14.6%を占める一方で、「概念には共感できるが、実現できるかどうかはまだ分からない」が28.5%、「概念には共感できるが、実現は非常に難しいと思う」が26.6%と、現在のところ「懐疑的な見方をするユーザーが多い」(入谷氏)のが現状だ。SDIへの期待としては、「インフラコスト削減」が49.6%で最も多く、運用管理者の削減、多様なアプリケーションの稼働、クラウドとの連携と続く。実現するために必要な取り組みとしては「中長期的なIT戦略の立案」が44.6%と最多数を占める結果になった。
それらの指摘を受けて、富士フイルムの柴田氏は「ユーザーとしてはやはり、コスト削減と運用の効率化の2つに大きなメリットがある。これまではサーバー仮想化が中心だったが、それがネットワークやストレージにまで広がり、物理資源をまとめて抽象化できるようになる。ビジネスへの柔軟な対応、柔軟なリソース管理、障害時の業務への影響の最小化、ロックインからの解放が期待できる」とSDxの可能性を述べた。
これに対し、EMCジャパンの平原氏は「現在は、多様なワークロードに対応するために複数の製品を使い分ける必要があり、管理が複雑になっている状況だ。また、ソーシャルやクラウド、モバイルといった第3のプラットフォームに対応していくために管理をどう効率化するかが問われている」と現状のインフラ管理に課題があることを解説した。また、ヴイエムウェアの進藤氏も「ITはまだ、誰でも使えるような文房具にはなり得ていない」と課題が多いことを認めながら「IT部門の本来的な役割はインフラを触ることではなく、企業をどう支援していくかだと思う。もう少しビジネスロジックに近い方に注力できるよう手助けをしたい」と話した。
ブロケードの尾方氏は、「SDxの世界に近づくという意味で、当社は無宗教であり、他のアプリケーションなどと組み合わせながら横のつながりをつくっていき、水道や電気のようなユーティリティーに近づくことが大切だと考えている」と話した。また、イクシアの野田氏は「SDNテストというSDxを利用する上での指標を提供している。大切なのはユーザーの視点に立つことで、どのソリューションがどのくらいのパフォーマンスや安定性、相互運用性があるかを評価できる」と、アプリケーションのレベルでも連携した取り組みが必要である現状を指摘した。
ディスカッションはその他、「向いているゴールは同じだが、ゴール自体はまだまだ遠くに見える。既存資産の活用と、情報の可視化が大事」(柴田氏)、「ストレージについては、(EMCのSDS製品「ViPR」のように)既存資産をうまく生かしながら、一元的に管理できるアプローチが有効」(平原氏)、「(「VMware NSX」のような)ネットワーク仮想化では、ネットワーク機器のリプレースが必要という誤解も多いが、そうしたことはない。ツールが充実すれば仮想化に対する不安もなくなっていくだろう」(進藤氏)、「SDxを使って何をしたいかユーザーはきっちりと整理する必要があるだろう。最終的には利用企業のビジネスにつなげることが必要で、それによって売上、利益を出していくことが目的だ」(入谷氏)といった意見が出た。
最後に、三木が「機器や製品の宣伝に振り回されずに、ユーザー自身がビジネスの目線でコントロールできるようになることが大事だ」と議論を締めくくった。
ベンダーセッションでは、パネルに参加したそれぞれのベンダーから具体的な製品の紹介や取り組みが披露された。
EMCジャパンの平原氏のセッションでは「第3のプラットフォーム時代に導くEMC Software-Defined Storage戦略」と題し、既存のストレージ基盤を第3のプラットフォームにスムーズに移行するためのSoftware-Defined戦略を解説した。
「トランザクションやファイルといった第2のプラットフォームと、ソーシャルやモバイル、ビッグデータが中心の第3のプラットフォームでは、ワークロードが異なる。ストレージの適材適所の配置と最適管理が必要だ。この2つのプラットフォームを橋渡しするのがSDSの大きな戦略だ」(平原氏)
EMCのこの戦略で中核的な役割を果たす製品が「EMC ViPR」や「ScaleIO」だ。ViPRは、既存のストレージを仮想的に統合してストレージプールを作成し、一元的に管理できるようするソフトウェア製品。EMC製品だけでなく、OpenStackと連携できるため、IBM、HP、Oracleのストレージ製品も統合できる。また、ScaleIOは、コモディティサーバーを使ってSANストレージを実現するソフトウェア製品。1000ノードを超える大規模なスケールアウト構成が可能で、専用SANストレージ、SANスイッチなどは不要だ。さらに、ViPRとScaleIO、コモディティサーバーをアプライアンス化した「ECSアプライアンス」を提供する。
ヴイエムウェアのセッションでは、進藤氏が「VMware NSXによるネットワークの仮想化と次世代ネットワークセキュリティ」と題して講演。NSXを利用することで、これまで実現が困難だった「マイクロセグメンテーション」が可能になり、強固なセキュリティを持った新しいデータセンターが構築できることを解説した。
マイクロセグメンテーションとは、セグメント設定を極小化することで、脅威の拡散を最小限にしようというセキュリティのアプローチだ。「これまでのネットワークセキュリティでは、ファイアウォールによる境界型防御が中心だったため、侵入した脅威への対応などに課題があった。また、ネットワークスイッチによるアクセスコントロールやセキュリティゾーンごとのポリシー設定が煩雑といった課題があった」(進藤氏)という。
そこで、仮想マシンごとにファイアウォールを実装し、セグメント設定を極小化。さらに、仮想マシンが移動しても各種セキュリティ設定が自動的に追随できるようにした。これにより、侵入した脅威を仮想マシン単位で封じ込めることができる。具体的なソリューションの例としては、NSXに備わるファイアウォールとパロアルトネットワークスの次世代ファイアウォールを連携させるソリューションを提供。管理ツールのvCenterで統合管理でき、仮想マシンの移動や変更についても、ポリシーベースで自動運用が可能になっている。
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