ONTAPはオンプレミス環境だけのストレージOSではない。パブリッククラウドもプライベートクラウドもONTAPを利用し、プロバイダーはユーザードリブンで決定できる環境を用意する。
米ネットアップは2014年10月28〜29日(現地時間)、同社パートナー向けの年次イベント「Insight 2014」を開催する。この前日である10月27日には、プレス向けの発表会が行われた。
プレス発表では、同社のスケールアウト型ストレージOSである「Clusterd Data ONTAP 8.3」の他、パブリッククラウドサービス事業者と連携した「Cloud ONTAP」、新しいエンタープライズ向けのデータ管理サービス「OnCommand Cloud Manager」などを披露。ハイブリッドクラウドのデータ管理を一手に担う「Data Fablic」として、エンタープライズユーザーがクラウドストレージを利用してもネットアップのストレージOSの特性を生かしたデータ管理を可能にする製品ラインアップを示した。
まず、Clusterd Data ONTAP 8.3では、OSそのものの改良が行われた他、遠距離データセンター間のデータの安全な同期を実現する「Metro Cluster」を正式にサポートするなどのトピックもあった。こちらについては、稿をあらためて詳細を紹介する。本稿では同社が発表したラインアップを象徴するいくつかの製品を紹介しながら、同社のハイブリッドクラウド環境への適応構想の全体像を示したい。
今回の発表の中で最も注目されたのはCloud ONTAPだ。Cloud ONTAPは、Clusterd Data ONTAPのストレージOSをそのままソフトウェアアプライアンスとしてパブリッククラウドサービス上で展開するもの。AWS上のインスタンス上に導入することで、オンプレミス、プライベートクラウド環境のONTAPと同様の管理が可能になる。AWSの従量課金モデルとネットアップによるサブスクリプションモデルのいずれかを選択できる。
Cloud ONTAPでは、従来のClusterd Data ONTAPが提供してきたSnapshotコピー機能を使った任意のポイントへのロールバックや、ダウンタイムなしでのミラーリングも可能だ。SnapShotManagerを利用すれば、稼働中のアプリケーションであってもデータの整合性を損なわずにデータのミラーリングが可能であるため、パブリッククラウド環境でも停止せずにフェイルオーバーを実現する。
現段階では、Amazon EBS管理用インスタンスEC2上で動作するものとして発表されているが、今後同様の取り組みを他のパブリッククラウドサービス事業者らと展開することも視野に入れているという。
この、ストレージ仮想アプライアンスCloud ONTAPの運用と密接に結び付く機能を持つのが、新たに発表されたOnCommand Cloud Managerである。クラウド上のリソース管理やプロビジョニングを効率化する他、Cloud ONTAPインスタンスの一元管理やAWS側のリソースコスト監視機能も持つ。
もちろんストレージOSは共通だが、AWS環境の場合は仮想化オーバーヘッドなどがある。「パフォーマンスとしては、ネットアップ製品ラインアップとの対比で見れば、エントリモデルとして構成しているFAS2000製品群の下に位置付けられるだろう。まもなく開催されるRe:Invnetでは価格情報などを含めてアナウンスする予定」(同社Data ONTAPの戦略および製品マネジメントのVPであるJohn Frederiksen氏)だという。
同社では、Cloud ONTAP環境は永続的なデータ格納場所としてではなく、あくまでもテスト環境など短期的な利用での利用を想定しているようだ。同社シミュレーションによると「およそ6カ月以内の短期的な利用であれば、伸縮性の高いクラウドサービスを採用するとコストメリットが出やすい」(同氏)という。
NetApp Private Storegeについては、2012年の段階でAWSを利用したサービス提供を開始、2013年には、Windows Azure環境でも同様のサービスを実現してきたが、今回、新たにIBM SoftLayerでも「NetApp Private Storege for SoftLayer」として提供することを発表した。SoftLayerの利用者はNetApp Private StoregeサービスをSoftLayerを介して利用できる。もともと30分程度でベアメタルサーバーを調達できる特徴を持っていたSoftLayerからすると、ストレージ領域のサービス強化としても見ることができる。
同社がストレージOSを単体で切り出して仮想アプライアンスやプライベートクラウドサービスとして提供する目的は、いままで通り、あくまでもデータを一元的に管理し、保全性を担保するためのものと考えられる。単純にハコモノからビジネスモデルを変えたというものではなく、ストレージOSそのものが差別化のポイントであることに立脚したエコシステム構築を目指したものとして、パブリック/プライベートクラウドサービスを展開している点に同社の特徴が現れているといえるだろう。
プレスイベント当日には、これらの発表とは別に、リバーベッドが提供するバックアップアプライアンス製品である「SteelStore」をネットアップが買収したことも明らかにしている。Steel Storeは、利用者側からは仮想テープライブラリのバックアップ装置として見えるが、バックアップデータをローカルディスクではなく、AWSやMicrosoft Azureといったクラウドストレージに保管するクラウドストレージへのゲートウェイとでもいうべき機能を持つ製品だ。この買収も、同社のハイブリッドクラウド環境への対応を強化するものであると見ることができる。
今回の発表で示したパブリック/プライベートクラウド、オンプレミスなどをエンタープライズ要件に即して使い分けができる環境を、ネットアップは「ストレージOS」を軸に全方位に提供し、そのためのエコシステムを拡大する――この考え全体をネットアップでは「Data Fablic」として示している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.