Windows 10、クラウド、モバイル、IoT、そしてHoloLens──全方位で逆襲するマイクロソフトde:code 2015基調講演(1/3 ページ)

日本マイクロソフトは2015年5月26〜27日にエンジニア向けイベント「de:code」を開催した。本稿では、近年のマイクロソフトを取り巻く市場環境と二つの大きな戦略を見ながら、de:code 2015の基調講演の模様を凝縮してお伝えする。

» 2015年06月15日 05時00分 公開
[星暁雄ITジャーナリスト]

 日本マイクロソフトが主催するエンジニア向けイベント「de:code」(2015年5月26〜27日に開催)の基調講演は、エンジニアに向けて大量の情報と、そして「熱」を送り込む場だった。

 サティア・ナデラ氏が米マイクロソフトのCEOに就任してから1年弱が経つ。同社は過去とは全く異なるメッセージを放つようになった。de:code 2015もまた、エンジニアたちに向かって大量の情報と熱量を送り込み、何らかの「化学反応」が生じることを期待しているかのような場だった。

「もう一度リーダーになりたい」、マイクロソフトの逆襲

 de:codeは日本マイクロソフトのITエンジニア向けイベントであり、2014年に第1回目を開催、今回は2回目になる。従来の「TechEd」「Build」という2種類のイベントのコンテンツを包含した内容となっている。

 昨年のde:code 2014の基調講演は、変化しつつある同社の姿勢を「理と情」の2段構えで伝える内容で、聞く人の感情に訴えかける要素も多く取り入れていた(関連記事「de:code 2014まとめリポート:マルチデバイス&クラウドの時代、開発者が進む道を「理と情」で語る──そしてアーキテクトは新しい課題に直面する」)。

日本マイクロソフト 代表執行役 副社長 平野拓也氏

 今回2015年は、昨年を上回る情報量で同社の取り組みを伝える場となった。

 マイクロソフトにとって、近年の市場環境はあまり快適なものではない。同社の最大のビジネスであるPC市場は、モバイルデバイスの台頭により縮小フェーズに入った。個人向けコンピューティングで重要な市場であるモバイルデバイスの分野ではiOSとAndroidがシェアを競い、マイクロソフトの存在感は小さくなった。エンタープライズ向けで重要なクラウドサービスではAWS(Amazon Web Services)が「一強」の座を占めている。

 同社はこうした不利な状況を覆したいと考えている。de:code 2015の基調講演の演台に立った日本マイクロソフト 代表執行役 副社長の平野拓也氏は「モビリティとクラウドの世界でリーダーになりたい。チャレンジャーとしてがんばっているのが今のマイクロソフト」だと述べていた。なお平野氏は、この7月からは日本マイクロソフトの次期社長となる予定。次期社長となることが発表された後、最初のメジャーイベントが、このde:code 2015となった。

全方位で「とんがった」製品/サービスを展開する

 逆襲のためにマイクロソフトが取った行動は、一つは全方位で「とんがった」製品/サービスを展開することだ。モバイル分野、エンタープライズ活用事例、個人向け製品と、基調講演では多くの分野にまたがる先鋭的な話題を用意した。

 例えば「最近、目が覚めるようなイノベーションがないな」と思っていた人々のためには、HMD(ヘッドマウントディスプレー)型コンピューターによりVR(バーチャルリアリティ)やAR(拡張現実)の新たなステージを想像させる「HoloLens」がある。HoloLensは、いわゆるウェアラブル端末という見方もできるし、Windows 10が動くコンピューターの一種でもある。

 クラウドサービスMicrosoft Azure(以下、Azure)は全世界19リージョンに展開し、各国のセキュリティ基準を満たす。オンプレミスにもAzureと同等の環境を構築し、ハイブリッドクラウドのニーズにも対応する。エンタープライズ向けクラウドサービスとしてのサービスメニューを拡充しつつある。

 2014年の世界販売台数1位の自動車メーカーであるトヨタ自動車のCIOが、全国を走る「接続された自動車(Connected Car)」の情報をAzureのクラウドに集め、リアルタイムに可視化して見せる。スクウェア・エニックスは、4K解像度──実写以上といえる迫真度のCG映像をDirectX 12を活用しリアルタイムで生成するデモンストレーションを見せる。

 これらのうち、HoloLensのデモ動画や、DirectX 12を活用したスクウェア・エニックスのデモ(関連記事「スクウェア・エニックス、DirectX 12で超高精細なリアルタイム3DCGを披露」)は、先日米国で開催されたBuild 2015でも大きな反響を呼んだものだ。

 以上のように、いわば「全方位」に向けて情報を発信した。しかも、それぞれの分野で先鋭的なテクノロジを、同社の製品/サービスの組み合わせとして見せた。

オープンソースとクロスプラットフォームを重視する

 そしてもう一つの行動は、「オープンソースとクロスプラットフォームを重視する」という強いメッセージを打ち出したことだ。これは同社の以前の文化からは考えられなかった。

 Azureは「マイクロソフト発」のWindowsと.NETテクノロジにとどまらず、例えばLinux、PHP、Java、MongoDB、MySQL、Dockerなどオープンソースのテクノロジもターゲットして取り入れる。開発環境で創業した同社のいわば「虎の子」といえる統合開発環境Visual Studioは、今やMac OS XやUbuntuの上でコードエディター「Visual Studio Code」として動く。

 そしてWindows 10は多種多様なコンピューター──超小型ボードコンピューターRaspberry Pi 2、スマートフォン、タブレット、PC、HoloLens上で動作する。iOSアプリ、AndroidアプリなどをWindows上に「持ってくる」ための移行ツール「Bridge」も用意する。

 この基調講演は、日本のエンジニアに向けて、マイクロソフトという巨大企業全体が命がけで変わろうとしている姿を伝えようとしていた場だった。マイクロソフトがIT業界のトップベンダーであり続けるには、同社は変わらなければならない。さもなければ、PC市場の縮小と、他社のクラウドサービスやモバイルデバイスの台頭という激変に巻き込まれてしまう。

 以降は、140分の基調講演の模様をもう少し詳細に時系列で見ていこう。

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