SDNプロジェクト「OpenDaylight」がもたらすインパクト、期待できることOpenStack Summit 2015 Tokyo(1/3 ページ)

2013年2月に発足したOpenDaylightプロジェクトは、当初のイメージとは大幅に異なる側面を持つ活動に発展しつつある。OpenStack Summit 2015 Tokyoを機に、OpenDaylightシニアテクニカルディレクターのフィル・ロブ(Phil Robb)氏、およびOpenDaylightアンバサダーである、NEC スマートネットワーク事業部 主席技術主幹の工藤雅司氏に聞いた。

» 2015年12月01日 05時00分 公開
[三木 泉@IT]

 オープンソースのSDN(Software Defined Networking)コントローラーを開発する「OpenDaylight」プロジェクトは、現実世界でどのようなインパクトをもたらしつつあるのか。また、同プロジェクトに、今後何を期待できるのか――。@ITでは、2015年10月下旬に開催された「OpenStack Summit 2015 Tokyo」で、OpenDaylightシニアテクニカルディレクターのフィル・ロブ(Phil Robb)氏、およびOpenDaylightアンバサダーである、NEC スマートネットワーク事業部 主席技術主幹の工藤雅司氏にインタビューした。

 インタビューは、ロブ氏がOpenStack Summit Tokyoで行ったプレゼンテーションを踏まえて行っている。このプレゼンテーションの内容を要約すると、次のようになる。


 OpenDaylightは、メンバー数52、プロジェクト数58という大規模なプロジェクトに育った。これまで8カ月おきにリリースを出してきている。3番目のリリースである2015年6月の「Lithium」には、502のコントリビューターが参加した。

 ユーザーとしては、AT&TがNFV(Network Function Virtualization)で、豪TelstraがWANサービスで、中Tencentがデータセンター接続コントローラーで、加ケベック州のグリーンクラウドEquation Projectがレイヤー2仮想化で、中China Mobileがサービスチェイニングで、それぞれ使っている例がある。

 発足以来、OpenDaylight Projectで起こった最大の変化は、アーキテクチャの刷新だ。コントローラーの中核部分であるサービス抽象化レイヤー(SAL:Service Abstraction Layer)は、基本的にAPIを固定化した「AD-SAL(API Driven SAL)」から、モデルに基づく「MD-SAL(Model Driven SAL)」への移行が進んでいる。

OpenDaylightは、モデリングに基づくアーキテクチャに進化している

 MD-SALでは、Southbound(サウスバウンド:制御対象側)、Northbound(ノースバウンド:アプリケーション側)のどちらについても、新たな制御対象やアプリケーションの機能をYANGモデル*で記述することによってAPIを生成、これを自身のみならず、OpenDaylightの他のアプリケーションや制御対象が利用できる構造になった。これにより、OpenDaylightは「マイクロサービス化」し、これまでとは次元の異なる柔軟性を手にすることになった。

YANG(Yet Another Next Generation) ネットワーク設定のための記述言語。RFC6020。「人間が理解しやすい記述」であるYANGで定義を行い、YANGを基に実際のネットワーク設定プロトコルが動作する。



「OpenStack Summit 2015 Tokyo」におけるロブ氏の講演

 以降では、このプレゼンテーションの内容を踏まえてインタビューを行っている。

あらためて、OpenDaylightとOpenStackの棲み分けは?

――今回のOpenStack Summitの基調講演では、ネットワークプロジェクト「Neutron」の活動がクローズアップされ、「SDN」というキーワードも出されました。さらにレイヤー3以上のエージェントを統合する新たなサブプロジェクト「Astara」も登場しています。あらためて、OpenStackとOpenDaylightの棲み分けについて、どう考えていますか。

ロブ氏 (OpenDaylightのように、)物理的なアンダーレイの管理もできるフル機能のSDNコントローラーの良さは、Neutronが管理するオーバーレイを、物理的なアンダーレイに対してインテリジェントにマッピングできることにあります。これはNeutronがまだ対応していない部分です。もちろんNeutronは今後も多様なネットワーク機能を開発していくことでしょう。狭義のSDNを超えて、ファイアウオールや負荷分散などの機能も追加されてきています。しかし、仮想的なネットワークに加え、物理的なネットワークも管理できることは、データセンター間、アベイラビリティゾーン間の相互接続を実現するカギとなり、一般的なネットワーク管理の点からも重要です。

 物理ネットワークの制御は、Neutronが目的としてきたことではありません。Neutronが生まれた時点では、オープンソースの有力なSDNコントローラーが存在しなかったため、物理的なアンダーレイの制御のために、各社のプラグインを受け入れるしかありませんでした。しかしその後、このやり方に代わることのできるような、オープンソースの代替選択肢が生まれ、物理ネットワークの制御に焦点を当てたグループが登場しました。それがOpenDaylightです。例えば、OpenFlowによる典型的なSDNを、別のプロトコルの併用により従来型のネットワークと連携させるなどのプログラマビリティを、OpenStackから活用できます。これにより、ソリューション全体が、はるかに堅牢なものとなります。

 率直に言って、ある程度の数の人たちが何かをやり出したら、それを止めることは難しいと思います。Neutronに関わる人々は、次々に新たなニーズを見いだし、その解決のために努力し続けるでしょう。ですが、OpenDaylightが機能を強化し続け、高い価値を提供できるシナリオを多数提供できるようになれば、Neutron内で同じようなことをやる理由は減っていくでしょう。

ユーザーニーズがそのまま受け入れられる文化

――各国のキャリアなどで採用されているという話が講演にありましたが、OpenDaylightの導入がこれほど進んでいるというのには驚きました。

ロブ氏 私たちの勢いは、ますます強まってきています。コントリビューションの数、組織の参加メンバーの数についてもそれは裏付けられています。

 オープンソースプロジェクトで起こるべきことが、いまOpenDaylightで起こっています。ベンダーは、より安価な製品をできるだけ早く世に送り出すために、協力し合います。これはLinuxのケースでもうまく機能しました。ただし、オープンソースプロジェクト成功のカギは、「完全にオープンなコミュニティ」で、「あらゆるアイデアが歓迎されるような場として機能すること」にあります。OpenDaylightでは、ユーザー組織が自身の要件を持ち込むと、コミュニティを構成する大部分の人たちにとってメリットが見出せなくとも、害がない限り受け入れられ、歓迎されます。これが最終的にはプロジェクトの価値の一部となります。

 注目すべき面白いポイントは、当初あなたにとって全く価値のないプロジェクトだと思っても、1年半くらい経ったとき、あなたが必要としていることに近いものだったと気付くことがあるという点です。

 今や多数の大規模な組織が、私たちの技術を使っています。それだけでなく、これらユーザー組織自身、あるいはその代理者が、コミュニティに参加し、彼らの必要とする機能の開発を助けています。

――現時点でのOpenDaylightの用途は、「通信事業者のNFVや、ネットワークサービスが大部分を占める」と表現して間違いはないですか。

ロブ氏 そうした用途での人気は高まっていますが、教育機関でも使われ始めています。また、いくつかの都市が、IoT(Internet of Things)やスマートシティを実現するために利用しています。さらに、金融機関が、導入に向けて検討し始めています。私はLinuxへの関わりが長いですが、Linuxが通信事業者から金融機関、そして一般企業へと浸透していったのと非常に似ています。

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