ただ、あらためてフォグコンピューティングは普及するかという観点で、筆者はもう1つ「言葉遣い」として確認しておきたいことがあった。それは、クラウドとデバイスの境界を表す言葉として早くから使われてきた「エッジコンピューティング」とどう違うのかということだ。この点については、今井氏が次のように説明してくれた。
「フォグコンピューティングは、エッジコンピューティングのようにデバイスに近いところで処理を行うだけでなく、その処理のためのコンピューティングリソースを分散化して最適に配置する仕組みだ。その意味では、フォグコンピューティングはエッジコンピューティングも包含している。私たちとしては、フォグコンピューティングはコンピューティングリソースの最適化を図る技術として、SDN(Software-Defind Networking)やネットワークの仮想化をさらに進化させたものと位置付けている。そうした技術の進化から見ても、フォグコンピューティングは広く使われるものになると確信している」
さて、そのフォグコンピューティングの普及促進団体であるOpenFogコンソーシアムだが、2016年7月末時点で9カ国40組織が参画している。活動内容としては、フォグコンピューティングのオープンアーキテクチャである「OpenFog」の定義、ユースケースの開発、テストベッドの運用を通じた実現性と相互運用性の検証、各種標準化団体との連携、フォグコンピューティング認知度向上のための情報提供やイベントなどを行っている。OpenFogアーキテクチャについては2016年9月に発表する予定だが、全体のイメージとしては図3のようになるという。
2016年6月に開かれた記者会見では、同団体のチェアマンで米シスコシステムの幹部でもあるヘルダー・アンチューンズ氏が、「私たちの活動をさらにグローバルなエコシステムとして拡充し、フォグコンピューティングをクラウドコンピューティングと同じレベルの存在に育て上げていきたい」と力を込めて語った。
また、会見では同団体の地域支部が初めて日本に設立されたことも発表。日本支部の先導役を担う今井氏によると、日本では東芝、さくらインターネット、富士通、NTTコミュニケーションズなど8社が参画しており、同団体で一大勢力を形成しているという。そうした勢いもあってか、2016年11月にはIEEE(米電気電子学会)とOpenFog Consortiumの共催によって、アジア地域で初めてとなる国際イベントを日本で開催する計画だ。
最後に、濱田氏にユーザー企業のIT担当者や開発者へのメッセージをお願いしたところ、次のように語ってくれた。
「IoTが産業を問わずデジタル変革の根幹になることは、もはや疑いがない。そのIoTを実現する仕組みとして、フォグコンピューティングはスタンダードになり得ると確信している。IT担当者や開発者の多くの方々が関わることになると思うので、ぜひOpenFogの活動などに参加して技術を修得していただきたい」
ちなみに、クラウドコンピューティングという言葉が世の中に定着するまでに、おおよそ10年掛かった。フォグコンピューティングはクラウドの延長線上にあるので、数年で定着する可能性もありそうだ。ただ、企業にとって最も重要なのはIoTを何にどう活用するかだ。フォグコンピューティングはあくまでそれを実現するための手段である。その意味では、OpenFog Consortiumの今後の活動において、さまざまな導入事例が示されることにも大いに期待しておきたい。
ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。Facebook
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