「ソフトウェアの戦い」に不可欠なスキル、組織、技術とは何か?DX全盛時代、求められる企業、頼られるエンジニアとは?(1)

人々の価値観の変化、市場環境変化のスピード、そして人工知能、プロックチェーンなど新技術も生かしたX-Techのようなデジタルトランスフォーメーション(DX)のトレンドは、ビジネス、企業、人に、どのような変革を促しているのだろうか?

» 2017年08月10日 05時00分 公開
[編集部,@IT]

従来型企業に迫る、業種の壁を超えた「ソフトウェアの戦い」

 IoT、人工知能、ブロックチェーンなど、各種テクノロジーを使ったX-Techに代表されるデジタルトランスフォーメーションのトレンドが急速に進展している。“ITの力を使った新しい価値や利便性”が人々の支持を獲得し、既存の商流や業界構造をも破壊しかねない状況になっていることも、今や社会に広く認知されている。

 注目すべきは、よく引き合いに出される「音楽業界におけるApple」「自動車業界におけるGoogle」が象徴するように、ハードウェアの戦いが主軸であった市場競争が、「ソフトウェアの戦い」に変容していることだろう。そしてソフトウェアの戦いである以上、業種の壁を超えて展開され、競合と目していなかった企業がある日突然、同じ土俵に上がってくる可能性も大幅に増している。まさしく「全ての企業はソフトウェア企業になる」と言われてきたように、ビジネスや業界構造そのものにゲームチェンジが起こっているのだ。

 グローバルで加速するこのトレンドに、今、多くの日本企業が危機感を抱いている。実際に行動に乗り出すケースもここ数年で急速に増え、金融、流通・小売り、製造業におけるIoTやX-Techの取り組みが目立っているのは周知の通りだ。中でも、三菱UFJフィナンシャル・グループのFinTechの取り組みは象徴的だ。2016年3月に「金融×ITによる新たな利便性」を追求し合うハッカソン「Fintech Challenge」を開催した他、2017年3月には銀行機能の一部をAPIとして開放すると発表。オープンAPIを介して他社サービスと連携することで新たな市場を創出し顧客を囲い込む「API経済圏」の醸成にも取り組んでいる。

参考リンク:本格普及期に入ったFinTechのAPIエコノミー(@IT)

 金融という、全業種の中でも最もミッションクリティカルかつ伝統的な企業が、デジタルトランスフォーメーションの取り組みに乗り出していることは、多くの企業に多大なインパクトを与えたといえるだろう。もはやX-Techは一部のスタートアップや新興企業だけのものではなく、従来型の一般企業こそ取り組まなければ生き残れないことを、あらためて印象付けたからだ。

システム開発・提供の仕組みに抜本的変革を促す「人々の価値観」

 こうした動きを受けて、ITサービス開発・提供の在り方にあらためて多大な関心が寄せられている。その1つがITサービスのスピーディな開発・改善に欠かせないDevOpsのアプローチだ。

 事業部門と開発者が共にサービスを企画・立案・開発する例が増えつつある他、技術面では、基盤を選ばず開発成果物をデプロイできるDockerなどのコンテナ技術、ニーズの変化に応じたアプリケーションの機能追加・改修を容易にするマイクロサービスアーキテクチャ化などが注目されている。ChefやAnsibleなどサーバ構築自動化ツールを使ってデプロイ先を自動的に用意したり、「Kubernetes」などのコンテナオーケストレーションフレームワークを利用して、コンテナイメージの配信を自動化したりする方法も多くの企業の関心を集めている。

参考リンク:デジタルビジネス時代、エンジニアとして「求められ続ける」ために必要なこと(@IT)

 というのも、競合が多くニーズの変化も激しい中では、サービス企画も陳腐化するスピードが速い。リリース後も二番手、三番手のライバルが新たな付加価値を載せてサービスを出してくる中では「スピード」こそが差別化の要件となるためだ。このためには、CI(継続的インテグレーション)によりビルド・テストを自動化して“速く作る”だけではなく、各種自動化によってCI/CD(継続的デプロイメント)のパイプラインを構築し、「速く作り、速く届ける仕組み」が求められる。以上のような技術をいかに選び、組み合わせてこの「仕組み」を作るかが、勝負の1つのカギとなっているのだ。

 だが「速く作り、速く届ける」ことは、あくまで競争参加の前提にすぎない。ITサービスという“体験価値の競争”に勝つためには、より新しく、より優れた付加価値を常に追求し続けることが求められる。このためには大きく2つが課題になるとされている。

 1つは前述の三菱UFJフィナンシャル・グループの例のような、API経済圏の醸成だ。新たな価値を追求する上で、自社の力だけではどうしてもサービスの付加価値も限定的になる。よって、他社のITサービスと掛け合わせることがサービスの価値を高め、ビジネスの可能性を広げる上で欠かせないものとなるためだ。このためには複数企業とのアライアンスと、それを支えるAPIマネジメントがカギを握るとされている。

 もう1つは既存システムのモダナイゼーションだ。ITサービスの利便性を高める上では、販売データ、在庫データなど、既存システムが持つデータを生かすことも1つの要件となる。場合によっては、ITサービスの利便性を高めるために、既存のビジネスプロセスそのものを変える必要も生じる。

 例えばモバイルアプリによる振り込みサービスを実現した結果、それまで銀行の支店で行ってきた処理手続きのフローが変わるといったことも起こり得る。つまり、より優れた付加価値を追求するためには、顧客接点となるITサービス開発だけに注力すれば良いわけではなく、“一度作ったら変わらない、変えられない”ことが一般的だったバックオフィスの既存システムについても、一定の変化対応力を備えることが求められるのだ。

 ここには当然、サービスをスモールスタートし、成長の状況に応じて最適なインフラを使い分けるハイブリッドクラウドの活用や、既存システムのクラウド移行といった問題も絡んでくる。

ビジネス、システム、エンジニア――全てにモダナイゼーションが必要

 昨今の状況を俯瞰すると、市場環境変化のスピードに合わせて、既存のビジネスモデル、ビジネスプロセスそのものをモダナイズする必要に迫られていることが、あらためてうかがえる。

 従来も「変化に対するスピード」は重視されてきたが、例えば「開発部門の一部でDevOpsを実践する」など、局所的な取り組みにとどまるケースがほとんどだった(しかもDevOpsは「開発部門、あるいは運用部門の効率化を図るもの」といった誤解も多く、「成果を出すまでのリードタイムを短縮する取り組み、すなわち経営課題に応えるもの」といった正しい認識が広がり始めたのはまだ最近のことだ)。だがソフトウェアの戦いに勝つためには、全社的な取り組みが不可欠となる。

 このためには、言うまでもなく、ITの重要性に対する経営層の理解が必要だ。「より良いものを速く作り、速く届ける」ためのボトムアップの活動も大切だが、サービスの付加価値を高めるためには事業部門の協力が必要な以上、トップダウンによる現場の支援やリードが不可欠となる。昨今、既存の情報システム部門とは別に、新規領域を担う専門チームを作ったり、小規模な機能変更でも多大な時間とコストが掛かる外注文化を見直し、内製化やそれに近い体制を検討したりする動きもあるが、これらにしてもITに対するトップの理解やIT投資に対する考え方、“エンジニアの重要性”に対する認識が変わらなければ実現は難しい。だが市場環境が変わっている以上、従来のままではもはや企業として立ちゆかなくなるのは明白だ。

参考リンク:「経営層のITに対する認識」はどこまで変わったか?

 開発・運用エンジニアの役割、スキルセットにも変革が促されている。ITとビジネスが直結している以上、社内向け/社外向けのシステム問わず、開発者ならより良い成果を出すための仕組みを考え、自ら提案していくクリエーターとしての役割が、運用者なら「ITサービスを速く快適に届け続ける」ための仕組みを整備するサービサーとしての役割が求められる。

 このためには一定のビジネス理解の下、新技術をキャッチアップしながら、目的に応じて取捨選択して組み合わせ、「最終的なビジネスの成果」に落とし込む知見・スキルが必要だ。市場環境や人々の価値観の変化は、ビジネスや経営の在り方、それを支えるシステムの在り方、開発・運用するエンジニアの在り方、全てにモダナイゼーションを求めているといえるだろう。

 では、これからの時代を生き残る上で、具体的には企業や人にどのような変革が求められるのだろうか? “今のビジネス”を支える「仕組み」や、「仕組み」を実現できるスキルとはどのようなものなのか?――本特集では今持つべき「ビジネス/システム」の仕組みと、エンジニアが持つべきスキル・役割を明確化。デジタル時代を勝ち残る、企業と人の在り方を事例を通じて深掘りする。ぜひ参考にしてほしい。

特集:DX全盛時代、求められる企業、頼られるエンジニアとは?

市場環境変化のスピードと人々の価値観の変容が、今、企業にDX(デジタルトランスフォーメーション)の実践を強く促している。では、これからの時代を生き残れる企業の具体像とはどのようなものなのか?

“今のビジネス”を支える「仕組み」や、「仕組み」を実現できるスキルとはどのようなものなのか?――本特集では今持つべき「ビジネス/システム」の仕組みと、エンジニアが持つべきスキル・役割を明確化。デジタル時代を勝ち残る、企業と人の在り方を事例を通じて深掘りする。



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