Nutanixは、2018年5月上旬に開催した同社カンファレンス「Nutanix .NEXT 2018」で、「PaaS」への取り組みをアピールした。「オンプレミスのパブリックラウド化」でメリットを感じるべきなのは、開発者だからだ。
Nutanixが、企業向けITインフラプラットフォーム市場でVMwareの後を追い掛けてきたことは明らかだ。だから、同社会長兼CEOのディラージ・パンディ氏にVMwareの社名を出すことなく質問をしていても、自社をVMwareの数年前と比較して答えることが度々ある。
2018年5月に開催のNutanix .NEXT 2018における発表を見て、同社はまだVMwareの後追いを続けているのではないかという印象を持つ人はいるだろう。「Nutanix Beam」と「Nutanix Flow」は、VMwareがやっていることに似ている。同社が2017年のNutanix .NEXTで発表し、2018年夏には限定提供を始めるクラウドサービスの「Xi(ザイ)」も同様だ。
Google Cloud PlatformのデータセンターでNutanixの「Enterprise Cloud OS」を動かすクラウドサービスXiは、VMwareでいえば「VMware Cloud on AWS」であり、マルチクラウド利用管理SaaSのBeamは、「VMware Cloud Services」に近く、SDNのFlowは技術的には違いがあるものの「VMware NSX」に相当する。
これをパンディ氏に指摘すると「『何』をやっているかという点では(VMwareと)同じかもしれないが、『どう』やっているか、『なぜ』やっているかが違う」と答えた。
一方、同社CTOのスニル・ポッティ氏に「VMwareの真似をしていると言われるのでは?」と聞いたところ、「半々だ」と答えた。
「エンタープライズITで、いまやるべきことの大枠は同じだ。だから、真似をしていると言われることもあるだろう。だが、内容は大きく異なる。以前はVMwareのやっていることに追い付こうとして、いろいろな機能を開発してきた。だが、今ではそう考える必要がなくなってきた」(ポッティ氏)
結局、ユーザー組織が、VMwareと比較してNutanixを高く評価するかどうかは、次の2点に依存する。
Nutanixがやっていることの全てに通じる根幹的なコンセプトは、「パブリッククラウドの利用体験をオンプレミスにもたらす」ということだ。そしてこれを象徴するのが「ワンクリック」という言葉。必ずしもあらゆる操作が1クリックでできるわけではない。だが、複雑な作業をウィザード形式で数クリックによって実行できるだけでも、従来と大きく違うと考える人はいるだろう。
とはいえ、従来、この「ワンクリック環境」のメリットを享受できるのは、主にEnterprise Cloud OSを操作するITインフラ運用担当者だった。ユーザー/開発者/アプリケーション運用担当者は、仮想マシンを簡単に立ち上げて操作できるといった程度にとどまっていた。
だが、今回の.NEXTでNutanixは、「PaaS(Platform as a Service)」への取り組みをアピールした。ここでの「PaaS」の意味は、ユーザー/開発者/アプリケーション運用担当者が、アプリケーションを支える環境を、容易に構築・運用できるということだ。
最も分かりやすい例は、別記事で「Amazon RDSライクなサービス」と表現した「Nutanix Era」。Oracle、PostgreSQL、MySQL、SQL Serverからデータベースエンジンを選び、あとは仮想マシンやストレージの容量を設定して、データ保護を設定するだけで、データベースの構築ができる。
Nutanix Eraのように、アプリケーション構築に直結する作業で「ワンクリック」により設定できるものが増えてくると、「ユーザー/開発者が、Nutanix環境を、パブリッククラウドと同様な感覚で使える」と言いやすくなってくる。ちなみにEraでは、運用フェーズでコピーデータ管理機能を使い、本番環境に影響を与えずに、開発などのためのクローンを、高いストレージ効率で作成・活用できる。この機能については、パブリッククラウドと比べてもメリットがある。
言い換えると、IaaSレベルの、特に企業のITインフラ運用担当者を対象としたNutanixの機能では、考え方としてVMwareを「真似」しているものがある。だが、「PaaS」的な取り組みについては、パブリッククラウドを積極的に「真似」していくことになる。
ポッティ氏は、PaaS的な取り組みの目的について、「今後5年間の成長を考えたとき、Nutanixはアプリケーション開発者の支持を獲得していかなければならないからだ」と話す。
「Kubernetesやサービスメッシュのような機能も(『ワンクリック』で) 提供していく。だが、コンテナ環境はプラットフォームであり、差別化につながるものではない。開発者がNutanixを気に入ってくれるようになるには、何からかの『スティッキーな(人が離れにくくなるような)』ものが必要だ。それを見出すことが、私たちにとって最大の課題だ」
「開発者は、エディタやGitHub、CI/CDなどのツールを自在に活用して仕事を進める。これらのツールについては、開発者自身が好みのものを使うケースが多い。だが一方で、開発者は何らかのデータ基盤を必要とする。このデータ基盤の構築が、多くの企業では最も困難な作業の1つになっている。だから、Amazon RDSのような機能に取り組んだ。これは出発点に過ぎない」(ポッティ氏)
例えばAmazon Web Services(AWS)が提供しているおびただしい数のサービスプロダクトを、Nutanixが全てオンプレミスで再現できるわけはない。データベースプロビジョニング以外では何が考えられるのか。
ポッティ氏は、「企業がオンプレミスで動かしたいのは、ステートレスよりもステートフルな環境。このため、ステートフルな機能を優先的に提供していく」と答えた。
「そして最終的には、オープンソースソフトウェアをそのまま動かすのではなく、AWSでいえば「SQS(Simple Queuing Service)のように、サービスをプラットフォームに組み込み、自社の機能として、シンプルなAPIを通じて使ってもらえるようなものを増やしていく」(ポッティ氏)
こうした取り組みはさらに、Nutanix CalmやNutanix Beamを活用したマルチクラウド運用につながってくる。
Nutanix Calmでは、「ブループリント(青写真)」を使って容易にアプリケーションを構築でき、任意のクラウドにデプロイすることができる。Beamでは、マルチクラウドにわたる自由なアプリケーション運用を前提として、セキュリティやコンプライアンスを統合的に管理し、加えて全社的な観点で、コスト最適化を継続的に進められる。
すると、ユーザーの自由と企業としてのコントロールを両立させながら、特定のクラウドに縛られない形でITを活用するという構図が、具体的に描きやすくなってくる。
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