これまで毎年4月にリリースされてきた春の機能アップデートが、2019年は延期されて5月末に提供される予定だ。こうした機能アップデートの評価期間や提供期間の変更の影には、春と秋の機能アップデート自体の位置付けの変更があるのではないだろうか?
「Windows 10」の次期機能アップデートの正式名称は、「Windows 10 May 2019 Update」となり、2019年5月末の配布が予定されている。候補となるビルドは18362で、すでに2回アップデートが配布されており、ビルド18362.53となっている。これは、Windows 10バージョン1903となる予定だ。従来なら、配布は4月となるところだが、今回から配布パターンが変更になった。
2018年秋のWindows 10 October 2018 Update(バージョン1809)では、正式配布にもかかわらずファイルを失うという重大なエラーが発生し、その対策に追われた(Windows 10 The Latest「Windows 10 October 2018 Updateはなぜ一時配布停止となったのか」参照)。
その反省のためか、Microsoftは、リリース前のWindows Insider ProgramやOEM、ISVの評価期間を長くする方向を打ち出した。具体的には、ビルドがRelease Preview Ringに公開されてから、配布開始までの時間を長くとるという。
これまでは、完成ビルドがプレビューとして配布された翌月には一般配布を開始していた。例えば、Windows 10 October 2018 Update(バージョン1809)では、2018年9月中に配布ビルドがプレビューに登場し、10月初旬に配布を開始しており、評価期間(最終プレビュー期間)は1週間程度だった。Fall Creators Update(バージョン1709)のときも1週間程度である。April 2018 Update(バージョン1803)のときは18日と長くなっているのは、正式公開前の段階でエラーが発見されたためである。
バージョン | ビルド | コード名 | Fast Ring | Slow Ring(最終) | Release Preview(最終) | 配布開始(SAC-T) | 最終プレビュー期間 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
1709 | 16299 | RS3 | 2017年10月2日 | 2017年10月4日 | 2017年10月10日 | 2017年10月17日 | 7日 |
1803 | 17134 | RS4 | 2018年4月16日 | 2018年4月20日 | 2018年4月20日 | 2018年5月8日 | 18日 |
1809 | 17763 | RS5 | 2018年9月18日 | 2018年9月20日 | 2018年10月2日 | 2018年10月9日 | 7日 |
1903 | 18362.3 | 19H1 | 2019年4月4日 | 2019年4月4日 | 2019年4月8日 | 2019年5月末(予定) | 54日 |
Windows 10の各バージョンと評価期間の関係 |
今回のビルド18362は、4月8日にRelease Preview Ringでのビルド18362.30として配布が開始された。翌9日には、アップデートであるビルド18362.53がRelease Preview Ringに登場している。一般向け配布開始が5月末となっていて、仮に5月31日だとすると、最大で54日間となり、約2カ月弱程度にまで伸びる。
同時にMay 2019 Update(バージョン1903)でWindows Updateの改良が予定されている。最大の改良点は、Homeを含む全てのエディションで最大35日間、機能アップデート、品質アップデートを「一時停止」できるようになる。
これまでHomeユーザーは、機能アップデートが配布されると、問答無用でアップデートが強いられていたが、今後はHomeであっても最大35日間の延期が可能になる。ただし、最大日数に達すると、一回アップデートを行わない限り、延期ができなくなる。これは、October 2018 Update(バージョン1809)までのPro以上のエディションが持っている「Windows Updateの一時停止」機能とほぼ同じだが、May 2019 Update(バージョン1903)では1〜35日の範囲で日数を選択できるようになった。
また、「Download and install now(今すぐダウンロードしてインストール)」機能も提供され、ユーザーは、自分が望むタイミングでアップデートを開始できるようになる。なお、この「Download and install now」機能は、May 2019 Update(バージョン1903)だけでなく、April 2018 Update以降でも5月末には利用可能になる予定だという。
もう1つの機能としては、「アクティブ時間」を自動で設定する機能が搭載される。これは、これまでの利用履歴からユーザーがPCを使っている時間(アクティブ時間)を自動で設定するオプションだ。
Microsoftによれば、多くのユーザーは、アクティブ時間をデフォルト(午前8時から午後5時)にしたままだという。このため、Windows 10側でユーザーの利用パターンからアクティブ時間を推測し、自動的な再起動はその時間を避けるようになる、とのことだ。
May 2019 Update(バージョン1903)のプレビュー版を見る限り、この動作がデフォルトになっているようだ。現在、何も設定していないユーザーでも、自分の利用パターンに応じて使っていない時間帯に再起動されるようになる。
Windows Insider Programのプレビュー版には、Skip Aheadというリングがある。これは、現在のプレビュー版よりもさらに先の機能アップデートのプレビューだ。従来は、1つ次、例えばOctober 2018 Update(バージョン1809)のプレビュー時にはMay 2019 Update(バージョン1903)のプレビューがSkip Aheadで開始されていた。
しかし、今回May 2019 Update(バージョン1903)のプレビュー中のSkip Aheadは、20H1であり、2つも先の機能アップデートとなる。また、本来ならすでに開始されているはずの19H2(Windows 10バージョン1909)のプレビューはまだ始まっていない。
これは、Windows 10の機能アップデートの方式が変わるということを意味する。なぜなら、これまでのWindows 10のプレビュー版には約10カ月の評価期間があった。しかし、2019年秋に出荷予定の19H2(バージョン1909)のプレビューはまだ始まっていない。仮にMay 2019 Update(バージョン1903)の配布開始後に始まるとすると、その評価期間は、半年以下に短縮されてしまう。
前述の通り、Microsoftは現行バージョンであるOctober 2018 Update(バージョン1809)の公開時に重大なトラブルを引き起こしたことを反省して、次のバージョンでRelease Preview Ringでの公開開始から配布開始までを延長した。それにもかかわらず、さらにその次のバージョンでプレビュー期間全体を短縮するのは、それなりの理由がなければならない。
逆に、2020年春に配布開始予定の20H1は2019年2月にプレビューが開始されており、1年以上の評価期間がある。少し整理しよう。下表は、18H1〜20H1のプレビュー期間を示すものだ。すでに、19H1については2019年5月末のリリースであることが告知されており、さらに20H1のプレビューが開始されている。しかし、19H2については、19H1の後、春の終わり頃から開始とされており、19H1の公開後の5月末以降が想定される。
コード名 | バージョン | プレビュー開始 | 配布開始 | プレビュー期間 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
RS4 | 1803 | 2017年8月23日 | 2018年4月30日 | 8カ月 | 通常の長さ。Skip Aheadによる先行+6カ月 |
RS5 | 1809 | 2018年2月14日 | 2018年10月9日 | 8カ月 | 同上 |
19H1 | 1903 | 2018年7月1日 | 2019年5月末(告知済み) | 10カ月 | プレビュー期間を延長した |
19H2 | 1909 | 2019年5月末(予測) | 2019年11月(予測) | 5カ月 | 通常の長さ以下 |
20H1 | 2003 | 2019年2月1日 | 2020年5月(予測) | 15カ月 | 通常の2倍近い長さ |
Windows 10バージョン1803〜2003のプレビュー期間の比較 |
これまでは、年2回の機能アップデートはどちらも同等だったが、今後は、春のアップデートと秋のアップデートには、差がつけられる可能性が高い。評価期間を長くするのは、変更点が多く、ユーザーやサードパーティー側での検証、評価に時間をかける必要があるということだ。逆に、短縮するのは、変更点が少なく、評価などを短期間で済ませることが可能だとMicrosoftが考えているからだろう。
ソフトウェアのバージョンアップを2段階に分けるやり方は、多くのオープンソースソフトウェアのプロジェクトなどではすでに行われている。仕様変更や機能追加のある「開発版」と、仕様を一定にした「安定版」を交互に別のバージョンとして出す方法などだ。実用などを重視するユーザーは、安定版を使い、開発目的や新機能が必要な場合には開発版を使う。開発版で大規模な変更を行っても、安定版の利用者には影響が出ず、バグフィックスも、安定版向け、開発版向けを同じものにする必要がないため、お互いの影響を抑えることもできる。
おそらく、このような感じで、春のバージョンアップは、内部的な大規模改修を含む大きな改良を中心とし、プレビュー期間を1年以上とすることで、十分な検証を行うようにするのではないか。秋のバージョンアップは、半年間の品質アップデートが行われた春のバージョンをベースに小規模な改良(独立した部分の差し替えなど)に留めることで、プレビュー期間を短縮するのであろう。あるいは、秋のバージョンに取り込まれる改良点の一部は、Windowsシステムとの依存関係が少なければ、先行して始まる来春バージョンのプレビューで先に行っておくこともできるだろう。
さすがに毎年2回の改良では、開発チームも疲労したのか、あるいは、改良点に対して、検証や品質チェックの期間が短すぎたのか、Microsoftは、Windows 10の開発体制を変更し、大規模改良は一回のみとして、長い時間をかけることにしたのではないか。
秋のバージョンアップが「安定版」になる半面、春のバージョンアップには、大規模改良の影響が出やすいともいえる。これまで問答無用でバージョンアップが行われてきたHomeでも、バージョンアップの延期が可能になるのは、このあたりを考慮して、ユーザーに「自衛」してもらうという部分もあるのではないかと思う。
こうした体制になるのは、Windows 10のサポート期間の変更とも関係する。Windows 10 The Latest「次期Windows 10最新動向:リリース秒読みの『19H1』はこう変わる」でお伝えしたように、Windows 10では、春の機能アップデートのサポート期間は従来通り18カ月であるのに対して、秋のアップデートに対しては、30カ月のサポート期間に変更した。
サポート期間が延長されることにより、秋のバージョンは長期間利用されるようになる。その意味でも秋のバージョンは「安定版」である必要があるだろう。
また、MicrosoftはSAC-TとSACを廃止するとしている。SACは、リリース後の機能アップデートに対して、何回かアップデートを行ったのち、Microsoftが十分安定したと判断したバージョンである。
これは、もともと、新機能よりは安定性を重視する企業ユーザー向けに提供されていた「Windows Update for Business」に由来する。おそらく、秋の機能アップデートは、従来のSACに相当するバージョンなのだと考えることもできる。春の機能アップデートに対して、より安定性を高めたバージョンという扱いだ。
October 2018 Update(バージョン1809)までは、通常のリリース(SAC-T)のあと、何回か品質アップデートを行ったのち、SACがリリースされている。May 2019 Update(バージョン1903)からは、SAC-T/SACという同一バージョンの中での区別がなくなる。このため、October 2018 Update(バージョン1809)に関しては、自動的に60日のバージョンアップ延期が行われるが、19H2以降は、ユーザーの判断に任された状態だった。
しかし、秋のバージョンが「安定版」だとすれば、ユーザーは、Windows Updateで半年以上の延期を行えば、春のバージョンを飛ばして、秋の「安定」バージョンのみをインストールできるようになる。
Microsoftによれば、「19H2は春後半(Later this spring)にプレビューを開始し、近い将来にそれがどのように見えるかについて語る」予定だという(Windows Insider program Blog「Releasing the May 2019 Update to the Release Preview ring」)。
次ページでは、Windows Insider Previewですでにプレビュー版が配布されている、2020年春に提供される予定の機能アップデート「20H1」の現時点で分かっている機能変更について見ていくことにする。
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