クラスタの各種設定に関しては、VMwareのベストプラクティスに基づいてあらかじめ設定されており、顧客がこれを変更することはできない。仮想マシンの可用性を確保する「vSphere HA」と物理ホストの負荷に応じて仮想マシンを分散配置する「vSphere Distributed Resource Scheduler(DRS)」はデフォルトで有効にされており、ESXiと同様にそれぞれの構成は参照できるものの変更することはできない。vSphere HAおよびvSphere DRSの設定の代表的な値は以下の通りである。
vSphere HA
設定項目 | 設定値 |
---|---|
ホスト監視の有効化 | チェック |
ホストのフェイルオーバーキャパシティの定義基準 | クラスタリソースの割合(%) |
クラスタで許容するホスト障害 | 1 |
仮想マシンの監視 | 仮想マシンとアプリケーションの監視 |
ホスト隔離への対応 | 仮想マシンをパワーオフして再起動 |
vSphere DRS
設定項目 | 設定値 |
---|---|
移行の閾値 | 優先順位3 |
電源管理(DPM) | オフ |
また、1つ目のクラスタは特別なクラスタで、管理コンポーネントを全て収容する。管理コンポーネントは以下となる。
コンピュートポリシーを使用すると、vSphere DRSが有効なクラスタ内における仮想マシンの配置を制御できる。コンピュートポリシーの対象となる物理ホストや仮想マシンは、vCenterのタグを用いて指定される。コンピュートポリシーで適用できるポリシーの種類は以下の通りである。
仮想マシンとホスト間のアフィニティポリシーを用いると、ポリシーで指定したタグを持つ仮想マシンを、同じくポリシーで指定したタグを持つ物理ホストでのみ配置させることができる。物理ホスト単位でライセンスされるアプリケーションを稼働する仮想マシンを、ライセンスが付与された物理ホストのみに配置を限定する用途に利用される。
仮想マシンとホスト間のアンチアフィニティポリシーを用いると、ポリシーで指定したタグを持つ仮想マシンを、同じくポリシーで指定したタグを持つ物理ホストに配置させないようにできる。仮想マシンとホスト間のアフィニティポリシーを適用した場合と比べると、配置先が逆転するだけなので用途としても差異はない。
仮想マシン間のアフィニティポリシーを用いると、ポリシーで指定したタグを持つ仮想マシンを、同一の物理ホストに配置させることができる。2つの仮想マシンが密に通信を行う場合、同一物理ホストに配置することで物理ホストをまたいだ通信が発生するのを防ぐことができる。これによりシステムの性能向上が期待できる。
仮想マシン間のアンチアフィニティポリシーを用いると、ポリシーで指定したタグを持つ仮想マシンを、同一の物理ホストに配置させないようにできる。ロードバランサー配下の仮想マシンの分散配置や、「Windows Failover Server Cluster(WFSC)」などの高可用性クラスタを構成する仮想マシンの分散配置に用いられる。必要なポリシーが多すぎる場合には、クラスタを2つ用意し、同一の物理ホストに配置させたくない仮想マシンをそれぞれのクラスタに配置することも検討すべきだろう。vSphere DRSはクラスタの境界を超えて配置することはないため、アンチアフィニティと同様の効果を得ることができる。
DRS vMotionの無効化ポリシーを用いると、ポリシーで指定したタグを持つ仮想マシンがvSphere DRSによりvMotionされることを防ぐことができる。別の言い方をすれば、仮想マシンを物理ホストに固定することができる。これは、vMotionのプロセスの中で生じるわずかなスイッチオーバータイムが性能に影響を与えてしまうアプリケーションが稼働する仮想マシンに適用される。ただし、「SDDCのソフトウェアのアップデートプロセスの中で行われるESXiのローリングアップデートの際にはvMotionされる」ということには注意したい。
コンピュートポリシーは、オンプレミスでも利用されるアフィニティルールと似ているが、次の点で異なる。まず、アフィニティルールが適用される範囲はクラスタだが、コンピュートポリシーが適用される範囲はSDDC全体である。次に、アフィニティルールはクラスタ毎に仮想マシンと物理ホストを指定して設定されるが、コンピュートポリシーは仮想マシンと物理ホストに付けられたタグの組み合わせによって定義され、クラスタを超えて適用される。最後に、コンピュートポリシーでは、ポリシーの適用よりも仮想マシンの稼働、すなわちパワーオンを優先する。オンプレミスのvSphere DRSでは、アフィニティルールを満たせない場合、仮想マシンを起動させない強制的なルールを作成できるが、VMware Cloud on AWSのvSphere DRSではこのような強制的なポリシーがないためである。
クラスタのリソースは、標準で2つのリソースプールに分割されている。一つは「vCenter Server」や「NSX Manager/Controller」といった、VMwareによって管理される管理コンポーネントを収容するリソースプールである。このリソースプールは「Management-ResourcePool」という名前を持ち、ユーザーは変更することができない。アドオンサービスであるVMware Site RecoveryやVMware HCXを有効にするとVMwareによって管理されるアプライアンスもこのリソースプールに展開される。
もう一つは顧客のワークロードを収容するリソースプールである。顧客のワークロードとなる仮想マシンはすべてのこのリソースプール配下に配置される。顧客のワークロードでリソースプールの分割が必要な場合は、「Workload-ResourcePool」配下に、さらにリソースプールを作成する。
ストレッチクラスタは、複数アベイラビリティゾーン(AZ)の可用性をVMware Cloud on AWSにもたらす高可用性ソリューションである。vSANストレッチクラスタで構成されており、既存のアプリケーションを一切変えることなく複数AZ対応させることが可能である。物理ホストを2つのAZに配置し、Witnessアプライアンスを3つ目のAZに配置することで、vSANストレッチクラスタをAWS上で構成することができる。詳細についてはストレージの回で説明する。
次回は、ハードウェアの活用および関連機能を説明し、さらにオンプレミスとVMware Cloud on AWSのハイブリッド管理について解説する。
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