5Gにおける通信事業者のマネタイズ支援で、攻勢を強めるパブリッククラウド各社3社のアプローチの違いはどこにあるか(2/2 ページ)

» 2020年03月10日 05時00分 公開
[三木泉@IT]
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クラウド3社は、5Gエッジにハイブリッドクラウドと同一の手法でアプローチ

 AWS、Azure、Google Cloud Platform(GCP)はいずれも、5Gネットワークエッジコンピューティングにハイブリッドクラウドと同一の手法でアプローチしようとしている。

 AWSはハイブリッドクラウドへの取り組みとして、自社のクラウド基盤を、企業のオンプレミスに張り出す「AWS Outpost」というサービスを2019年12月に正式リリースした。これはラック単位でオンプレミスにサーバを設置して「マイクロデータセンター」を構成、最も近いAWSリージョンからこれを管理するというもの。サーバのアップデートを含め、プラットフォーム/サービスの運用はAWSが担当する。ユーザー拠点におけるOutpostは、親リージョンにおけるVPCに属することのできるゾーンという位置付けになる。

 Azureの場合も、Azureが運用するサーバである「Azure Stack Edge」をオンプレミスに設置し、Azureがこれを運用する。そしてAzureと連携した形で利用する。顧客による利用・管理は、Azureの管理ポータルから行える。

 2社がハードウェア込みのハイブリッドクラウド戦略をとっているのに対し、Google Cloudはコンテナによるソフトウェアオンリーの戦略を採用している。

 Google Cloudが提供するハイブリッドクラウドソリューションの「Anthos(アンソス)」は、GCPにおけるKubernetesベースのコンテナ基盤サービスである「Google Kubernetes Engine(GKE)」をオンプレミスに導入し、GCP上のGKEと連携して使えるようにしたもの。Kubernetes自体の運用はマネージドサービスとしてGoogle Cloudが行うため、企業はオンプレミスで、コンテナアプリケーションの構築と運用に専念できる。

「『ハードウェア込み』対Kubernetesの戦い」だけではない

 主要パブリッククラウド三社は、こうしたオンプレミスへの自社クラウドの展開方法を、5Gエッジコンピューティングにも持ち込んでいる。従って、それぞれの大まかなメリット、デメリットはオンプレミスの場合と同じだ。

 AWSとAzureの場合はハードウェアを通信事業者の適切な拠点に設置することになる。ハードウェア込みであることはコスト高になる可能性があるが、その代わりインフラ(ハードウェアとソフトウェアを含む)運用の全てをAWS、あるいはAzureに任せることができる。

 その上で、ユーザー側はAWS、Azureの管理コンソールやAPIをそのまま使い、親リージョンとまたがるVPCを構成して、親リージョンと通信事業者の拠点で役割分担をする形で、単一のアプリケーションを構築・稼働することが可能だ(通信事業者の拠点に閉じたアプリケーションでもよい)。

 GCPの場合は、コンテナオーケストレーションのオープンソースソフトウェア(OSS)であるKubernetesによるコンテナ基盤のみを通信事業者の拠点に導入すればいい。ハードウェアからOSまでを含まないという点では軽量で、既に通信事業者が運用しているインフラをそのまま活用できる。だが、逆にハードウェアおよびサーバ仮想化レベルのインフラ管理は通信事業者側がやる必要がある。その上で、Kubernetesの運用はGoogle Cloudが行うため、ユーザー側はコンテナ環境でアプリケーションを構築・運用することに専念すればよい。

 Google Cloudエンジニアリング担当バイスプレジデント、エイヤル・マナー(Eyal Manor)氏によると、同社のAnthosがAWS、Azureの5Gネットワークエッジソリューションに比べて優れている点は、オープンなAPIとマルチクラウドにあるという。通信事業者の間で、コンテナおよびKubernetesに対する関心が大きな高まりを見せている点も指摘する。

 「クラウド間を移行するたびに、APIを変えなくてはいけないのでは、マルチクラウド構成が実現できない。AnthosではマネージドKubernetes環境の『Anthos GKE』、Istioによるサービスメッシュ、サーバレスを実現する『Cloud Run』などにより、マルチクラウドにまたがった一貫した可視化と管理ができる」

 だが、Kubernetesを5Gネットワークエッジに提供できるのはGoogle Cloudだけではない。AWSはAWS Outpostsで、マネージドKubernetesサービスのAmazon EKSを、独自コンテナオーケストレーションサービスAmazon ECSと共に提供している。Azureも例えばAzure Stack Edgeで、Kubernetes環境を提供している。さらにAWSとAzureは、コンテナに加え、仮想マシンレベルのインフラもネットワークエッジで提供できる。

 Anthosは、ビジョンとしては、異なるインフラ環境にKubernetesクラスタを展開し、統合的に利用できることが最大の特徴となっている。だが、Kubernetes自体はさまざまなITインフラ/クラウド上で動くものの、Anthosというプロダクトは、現在のところGCPとVMware vSphere環境のみをサポートしている。

 これは、vSphereが多数の通信事業者に使われていることから、既に導入しているITインフラで利用できることをきっかけとしたいのだと考えられる。

 ただし、VMwareもNFV(Network Function Virtualization:ネットワーク機能仮想化)などで活用されていることをベースに、通信事業者のさまざまなニーズに応える取り組みを進めている。同社はvSphereに加え、これと統合された形でKubernetes環境を提供できる製品を開発しており、通信事業者の今後に向けたコンテナ/Kubernetesニーズを取り込もうとしている。

 一方、OpenStack、vSphereおよびパブリッククラウド上で稼働する「Red Hat OpenShift Container Platform」の存在もある。OpenShiftもNFVなどで、通信事業者の支持を獲得しつつある。

 AWS、Azure、GCPはvSphereやOpenShiftに対し、いずれも、機械学習/AIや統合データ管理をはじめとした、クラウド上の機能を統合的に活用したアプリケーションを構築・運用できることを武器に、5Gネットワークエッジコンピューティングの世界へ切り込もうとしている。ちなみに、これら3社は、NFVをはじめ、通信事業者自体のシステムについてもクラウド/クラウドネイティブへのシフトの動きをつかもうとしている。

誰が5Gネットワークエッジアプリケーションを構築するかによる?

 では、通信事業者は5Gネットワークエッジコンピューティングのためのインフラについて、単一のクラウドあるいはプラットフォームを選ぶのだろうか? そうはならない可能性が高い。

 理由は、だれがどういう目的で、それぞれの5Gネットワークエッジアプリケーションを構築するかによって、便利だと考えるプラットフォームが異なるからだ。

 5Gネットワークエッジアプリケーションは、通信事業者が提供するものもあれば、他の企業が生み出すものもある。システムインテグレーターが顧客のために構築するものもあれば、企業が自社のためのみにつくるものもある。“開発者ファースト”で考えれば、それぞれの開発チームがそれぞれの経験や目的に基づき、使いやすいプラットフォームを選べるようにしていく必要がある。

 また、各クラウド事業者が、通信事業者のマネタイズをプラットフォーム以外でどのように支援できるかが、通信事業者による採用を左右することも考えられる。料金あるいは利益配分をどのように設定することになるのだろうか。また、例えばGoogle Cloudがクラウドゲーミングサービスの「Stadia」で、5Gオペレーターにどのような話を持ち掛けようとしているのかが、注目される。

5Gネットワークエッジコンピューティングを超えた取り組み

 上記では5Gネットワークエッジコンピューティングに限定したが、バブリッククラウド3社は、2つのテーマでより大きな取り組みを進めようとしている。

 まず、各社は5Gネットワークエッジに限られない、エッジ/IoTのさまざまなシナリオに対応しようとしている。

 パブリッククラウド各社の間では、ローカル5G、あるいは5Gを必要としないものを含めたIoTアプリケーションの構築が進むことへの期待も大きい。前述の、「クリティカルなワークロードがオンプレミスに戻り始めようとしている」というMicrosoftのスリヴィナサン氏によるコメントでは、「オンプレミス」という言葉で5Gネットワークエッジと、企業の敷地内の双方を表現している。

 エッジ/IoTは複雑な市場だ。企業のオンプレミスに配置されるアプリケーションに対して、パブリッククラウド各社はそれぞれのハイブリッドクラウドソリューションでアプローチする。さらに、企業のオンプレミスと通信事業者の5Gネットワークエッジ(、およびパブリッククラウドデータセンター)を連携したアプリケーションも考えられる。

 だからこそ、パブリッククラウド各社は5Gネットワークエッジに、自社のオンプレミス向けソリューションをマルチテナント対応させたものを持ち込もうとしている。

 もう1つのテーマは、携帯通信事業者の「ITサービス企業化」への対応だ。楽天モバイルの「完全仮想化ネットワーク」でも示されているように、通信事業者は5Gに向け、専用機器/設備から、汎用サーバハードウェアとソフトウェアへの移行を進めている。前述の通り、VMwareやRed HatはNFVなどで通信事業者のITインフラプラットフォームとなるべく努力してきたが、パブリッククラウド各社はこうした市場も狙っている。その上で、金融機関などと同様に、社内システムを一部でも、パブリッククラウドのデータセンターに移行する動きを促進したいと考えている。

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