ソフトバンクが日本で5Gサービスを発表して話題になっているが、携帯通信事業者各社は、人へのサービスを超えたマネタイズを図る必要がある。パブリッククラウドはここに事業機会を見出し、5Gネットワークエッジコンピューティングにおける攻勢を強めている。
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ソフトバンクが日本で5Gサービスを発表して話題になっているが、携帯通信事業者各社は、人への通信サービスを超えたマネタイズを図る必要がある。パブリッククラウドはここに事業機会を見出し、5Gネットワークエッジコンピューティングにおける攻勢を強めている。
Google Cloudが、「Mobile World Congress Barcelona 2020」の中止で延期となっていた、5G/エッジに向けた通信事業者に対する取り組みの発表を行った。これで「Amazon Web Services(AWS)」「Microsoft Azure」「Google Cloud Platform(GCP)」という主要パブリッククラウドの5Gネットワークエッジ戦略が、大まかには明らかになった。ただし、ビジネススキームをどう作るかを含め、各社とも複雑な戦いを強いられそうだ。
5Gは、4Gまでと比較して大幅な高速性、多接続、低遅延が特徴だ。ある程度の広さの区域を面としてカバーした上で、こうした通信特性を備えることが新たなアプリケーションにつながると期待されている。特に注目されるのは低遅延を生かしたアプリケーション。目立つのはオンラインゲーミングなどの消費者向けサービスだが、一方で自動車をはじめ、ロボットやドローンといった機器の自動操縦、あるいは高速な機械学習/AI処理を必要とする設備など、社会インフラ/エンタープライズ向けの需要の広がりが考えられる。
パブリッククラウド各社は、こうしたアプリケーションに注目し、自身のクラウドを何らかの形で通信事業者のインフラに張り出そうとしている。
通信事業者にとって、5Gは多大な投資を必要とする「金食い虫」だ。一基地局当たりのカバー範囲が従来と比べてかなり狭いため、人口カバー率を高めるためには多数の基地局を設置する必要がある。さらに、移動する、あるいは普遍的に存在するモノに対するサービスを考えると、人口カバー率だけでは済まなくなってくる。
かといって、接続料金を高く設定すれば、利用が広がらないということにもなる。従って、携帯各社は「DSS(ダイナミックスペクトラムシェアリング)」と呼ばれる5Gと4G/LTEの電波共用を図り、とりあえず“5G”のカバー範囲を広げながら、ニーズを考慮してメリハリの利いた投資をしていかなければならない。
一方で、通信事業者が新たな収益源として取り組まなければならないのは、5Gネットワークのエッジに近い地点でのコンピュートサービス(以下では「5Gネットワークエッジコンピューティング」と呼ぶ)。前述したような広帯域/低遅延サービスのためのIT機能を稼働する基盤をサービスとして提供する事業に力を入れることになる。さらに、必ずしも5Gの特性を必要としないアプリケーションも合わせてホストするといった形での広がりが想像できる。
世界の通信事業者は、これまでもクラウド/データセンターサービスを提供してきた。だが機動的にITを活用できる環境を提供するという点では、パブリッククラウドに対して優位に立っていたとはいえない。そこで5G/モバイルでは、ハイパースケールパブリッククラウドと競合するのではなく、味方につけることが考えられる。
一方、パブリッククラウド各社にとって「遅延」は最大の弱点だ。クラウドのリージョンとユーザー拠点/端末との間で、例えば10ミリ秒レベルのエンドツーエンドでの低遅延を(ベストエフォートではなく)安定的に提供することは、物理的に不可能だ。そこでこうしたアプリケーションを取り込むためには、自社のサービスを5Gネットワークエッジに張り出す必要がある。
MicrosoftのAzureネットワーキング担当プリンシパルプロダクトマネージャー、ガネシュ・スリヴィナサン(Ganesh Srivinasan)氏は、2019年Microsoft Ignite 2019で、Microsoftが考えるAzureと5Gの関係について、次のように話している。
「私たちは10年以上にわたってAzureクラウドを提供してきた。数多くの顧客と、ワークロードのオンプレミスからクラウドへの移行を進めてきた。今後は反対方向の動きが起こる。クリティカルなワークロードがオンプレミスに戻り始めようとしている。一方で(顧客は)クラウドの持つさまざまな特性を必要としている」
もちろんスリヴィナサン氏は、パブリッククラウドの価値がなくなるといっているわけではない。現在のパブリッククラウドのように、大規模データセンターにITリソース/アプリケーションを集中させるアーキテクチャだけでは対応しきれない、重要なシナリオが増えようとしていることをこう表現したのだ。
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