金融大手のAmerican Expressは、コンテナ環境上で多数のアプリケーションが稼働するだけでは満足していない。社内の開発・運用体制をさらに変えていくために新たなプロジェクトを進めつつある。このプロジェクトでは何をやろうとしているのか。
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金融機関や通信会社といった規制業種における、Kubernetesの採用が進んでいる。American Expressは現在、Kubernetes環境で数百のアプリケーションを稼働しているといい、コンテナの採用に関しては既に最初のハードルを越えている。
同社は今、次の段階に向け、新たなプロジェクトを進行中だ。現在のコンテナ環境をさらに「クラウドネイティブ化」することを目指している。この取り組みのため、オープンソースコミュニティーへの積極的な参加と貢献が不可欠だという。
American Expressのクラウドプラットフォームエンジニアで、クラウドネイティブに関連する複数のオープンソースプロジェクトでも活動するケイティ・ガマンジ(Katie Gamanji)氏が、2020年8月に開催されたCloud Native Computing Foundation(CNCF)によるイベント「KubeCon+CloudNativeCon 2020 Virtual」で、同社の進めるプロジェクトを説明した。ガマンジ氏は、CNCFの最高機関といえる技術統括委員会(TOC:Technical Oversight Committee)にもエンドユーザー代表として選出され、参加している。
American Expressでは現在、数千ノード規模でコンテナを稼働し、数百のアプリケーションを動かしている。一方で同社は「One Infrastructure」と名付けられた別のプロジェクトを推進している。2020年2月にKubernetesのヘビーユーザーである出版大手のConde Nastから同社に転職したガマンジ氏は、このプロジェクトに属しているという。
「現在利用しているコンテナ基盤は堅牢で、当社における現時点でのあらゆるアプリケーションを走らせるのに適している。だが、私たちのチームでは未来を見据えて、これを創造的に破壊し、再構築しようとしている。Kubernetesをよりクラウドネイティブに使い、さらにクラスタの構築についても、もっとクラウドネイティブな形でできるようにすることが目的だ。このため、100%オープンソースソフトウェア(OSS)によるインフラを作り上げようとしている」(ガマンジ氏、以下同)
One Infrastructureの目標は、開発チームがアイデアを形にし、デプロイするプロセスを高速化することにある。同様な目標は、テクノロジー企業をはじめとした多くの企業が掲げ、Kubernetesの利用で実行に移している。
「(前職の)Conde Nastでは、いいユースケースがあった。コンテンツを世界中のユーザーへ最低の遅延で届けなければならなかった。コンテンツは世界中に分散配置した基盤でタイムリーに更新され、パーソナライズした上でいつでもユーザーが利用できる必要があった。この配信基盤は一から構築することができ、その過程ではOSSにおける最善のツールを自由に選択できた」
だが、規制業種に属する大規模なエンタープライズ企業では、大きな壁があると、ガマンジ氏は説明した。
「コンプライアンスに気を付けなければならない。採用するソフトウェアとその理由について、注意深く考慮することが求められる。さらに重要なこととして、利用するツールのセキュリティを確保し、顧客にとっての安心につなげる必要がある」
American Expressのような企業で実践を進めるため、明確なユースケースを積み重ねていくつもりだと、ガマンジ氏は説明した。
ガマンジ氏たちは、新たに構築する基盤で、具体的には何を実現しようとしているのか。同氏はGitOpsとマルチクラスタ/マルチクラウドについて説明した。
「私は今、社内でGitOpsを推進しようとしているところで、本番採用に向けたメソドロジーを見極めようとしている」
GitOpsとは、Gitベースのバージョン管理システムを中核に据え、ここでアプリケーションコードと(Kubernetesなどの)アプリケーション構成定義を結び付けて、コードを継続デリバリなどに直結させる動きを指す。
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