Microsoftは2020年10月末、Windows 10 バージョン1903以降に関する既知の問題に、更新管理ツールやソフトウェア配布ツールを使用する企業に影響する可能性がある「証明書消失問題」を追加しました。Windows UpdateやWindows 10のダウンロードサイトからのアップグレードには影響しませんが、個人でもインターネットに接続しない状態でアップグレードを実施した場合は影響を受ける可能性があります。
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2020年10月に「Windows 10 バージョン20H2(October 2020 Update)」が正式リリースされましたが、Microsoftは同10月末、このバージョンを含むWindows 10 バージョン1903以降へのアップグレード(バージョン更新)で証明書が消失する可能性について、各バージョンに関するリリース情報の「既知の問題」に追加しました(以下のリンクはWindows 10 バージョン20H2の既知の問題)。
この問題は、2020年9月の品質更新プログラムがインストールされた以下のバージョンを、2020年10月以前に入手したインストールメディア(ISOイメージ)でアップグレードした場合に、コンピュータおよびユーザーの証明書が失われる可能性があるというものです。
これは、2020年10月以降の品質更新プログラムが統合されたインストールメディアを使用することで回避できます(更新されたメディアは現在準備中で、今後数週間のうちに提供される予定)。Windows Updateや「Windows Update for Business(WUfB)」によるアップグレードでは、アップグレード中に対象となるバージョン向けの最新の品質更新プログラムがダウンロードされて適用されるため、この問題は発生しません。
この問題の影響を受ける可能性が高いのは、「Windows Server Update Services(WSUS)」や更新管理ツール、ソフトウェア配布ツールでWindows 10の更新管理を行っている場合です。最新の「Dynamic Update(DU)」パッケージとともに配布することで、影響を回避できる可能性はありますが、根本的な問題の解消には2020年10月以降の品質更新プログラムが統合されたインストールメディアを待つのが確実です。
2020年11月10日のWindows 10 バージョン1809(Proエディション)サポート終了、12月8日のバージョン1903(全エディション)サポート終了への対応のため、現在、更新管理ツールやソフトウェア配布ツールで後継バージョンへの移行を進めている企業は、いったんストップし、配布パッケージに問題がないかどうかを確認することをお勧めします。個人でも、手元にダウンロード済みのインストールメディアがある場合、ネットワーク接続なしでアップグレードを実行するということはあり得るでしょう。その場合は、この問題の影響を受けることになります。
この問題の影響を受けてしまい、コンピュータやユーザーの証明書が証明書ストアから消失してしまった場合は、アプリケーションやサービスが起動しないなど、想定外の問題が発生する可能性があります。例えば、「コンピューター証明書」や「ユーザー証明書」に依存する認証や接続(VPN接続、SSH接続など)に影響する可能性があります。
問題の影響を解消するには、「設定」アプリにある「セキュリティと更新」の「回復」から「前のバージョンのWindowsに戻す」を実行し、以前のバージョンにロールバックします(画面1)。ただし、ロールバック可能な期間は既定で「10日まで」という制限があります。「DISM」コマンドを実行してこの期間を延長することもできますが、既に10日が過ぎてしまい、ロールバック用のファイルが削除されてしまってからでは手遅れです。
なお、アップグレード前にシステムのフルバックアップを取得済みであれば、バックアップからシステムを復旧するのが確実です。
筆者は、2020年10月までの品質更新プログラムをインストール済みのWindows 10 バージョン1809(OSビルド17763.1554)で、この問題を再現してみました。今回はWindows 10 バージョン20H2にアップグレードしますが、この問題はWindows 10 バージョン20H2だけの問題ではなく、Windows 10 バージョン1903以降の全バージョンで現在入手可能な(2020年10月以前の)インストールメディアに存在します。
証明書消失の影響を確認するために、ローカルのHTTPSサイトとしてホストされる「Windows Admin Center(WAC)2009」をインストールしました。WACのインストールにより、「証明書 - ローカルコンピューター」の「個人」と「信頼されたルート証明機関」の証明書ストアに、発行先と発行者が「Windows Admin Center」という名前の自己署名証明書がインストールされます(画面2)。
WACが正常に機能することを確認した上で、Windows 10 バージョン20H2のリリース時に入手したインストールメディアでアップグレードします。このとき、インターネットにアクセス可能なネットワークに接続した状態と、切断した状態の両方でアップグレードしました(画面3)。
インターネットにアクセス可能なネットワークに接続した状態でアップグレードした場合、証明書消失問題は発生しませんでした。これは、アップグレード中にWindows Updateから最新の品質更新プログラムがダウンロードされ、適用されたためと考えられます(画面4)。
一方、ネットワークから切断した状態でアップグレードした場合、完了後に「証明書 - ローカルコンピューター」の「個人」と「信頼されたルート証明機関」の証明書ストアにWACの自己署名証明書は存在しません。証明書がないため、WACのサービスは起動できず、利用できなくなります(画面5)。WACだけなら、再インストール(または修復)することで問題を解消できますが、WAC以外にも重要な証明書が失われ、影響が生じている可能性もあります。
影響を受けたPCで「前のバージョンのWindowsに戻す」を実行し、Windows 10 バージョン1809に戻したところ、WACの自己証明書は復活し、利用可能になりました(画面6)。
この問題を解消した10月の品質更新プログラムの内容が統合され、リフレッシュされた機能更新プログラムがWSUSに対して11月(リリース日:2020年11月10日)に提供されました。対象はWindows 10 バージョン1909、2004、20H2の機能更新プログラムです。Windows 10 バージョン1903については、2020年12月8日にサポートが終了となるため、更新された機能更新プログラムは提供されません。
なお、この問題はWindows 10 バージョン1909および20H2の機能更新プログラム(有効化パッケージを使用)には影響しないため、更新版は提供されません。MicrosoftボリュームライセンスセンターおよびVisual Studioサブスクリプションでは、11月にWindows 10 バージョン1909および2004の更新されたISOメディア(update Nov 2020)が提供されました。Windows 10 バージョン20H2のISOメディアについては、別の既知の問題の修正を含めた上で、数週間以内に提供される予定です。
Windows 10 バージョン20H2のISOメディアが、Visual Studioサブスクリプションで2020年12月3日に、Microsoftボリュームライセンスセンターで2020年12月7日に利用可能になりました。ただし、ビルトインローカルアカウントの名前を変更している場合に発生する問題については未解決です。
岩手県花巻市在住。Microsoft MVP:Cloud and Datacenter Management(2019-2020)。SIer、IT出版社、中堅企業のシステム管理者を経て、フリーのテクニカルライターに。Microsoft製品、テクノロジーを中心に、IT雑誌、Webサイトへの記事の寄稿、ドキュメント作成、事例取材などを手掛ける。個人ブログは『山市良のえぬなんとかわーるど』。近著は『Windows版Docker&Windowsコンテナーテクノロジ入門』(日経BP社)、『ITプロフェッショナル向けWindowsトラブル解決 コマンド&テクニック集』(日経BP社)。
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