データを分析、活用し、ビジネスを成長させようとするとき「現場で利用されない」という壁にぶつかる企業は少なくない。現場で使われるデータ分析を実現するためにはどのようなアプローチが有効なのだろうか。
データ分析の需要は高まっており、さまざまな分析ツールや学習プラットフォームが登場している。だが、データ分析ツールを導入しても「現場で利用されない」「思ったような効果が出ない」といった悩みを抱える企業は少なくない。
2020年11月にオンラインで開催された「一般社団法人データサイエンティスト協会 7thシンポジウム 〜データサイエンスの最前線〜」で三井住友海上火災保険の木田浩理氏(デジタル戦略部 プリンシパルデータサイエンティスト)は「ビジネスに役立つデータ分析人材になる方法」と題し、データ分析と企業のビジネスをつなげる方法について講演した。
木田氏が日本IBMでソフトウェアの営業をしていたころ、データ分析の担当者が作った予測モデルがなかなか現場で使われないという課題があった。原因は「現場担当者とデータ分析者のギャップ」だ。
どうしたらこのギャップを解消できるか考えていた木田氏は「実際の現場のことをもっとよく知る必要がある」と百貨店に転職する。
「一日中、エスカレーター前や売り場に張り付き、現場を観察したところ『ギャップの本質』が見えてきた。売り場は接客をしなければならず、データを集めたり、データを参照したりする時間がない。そもそも『データを見る』という習慣がないのでデータ活用のイメージがない。一方で、顧客のことはもっと知りたいと考えている」
改善する意志があるのに、多忙で時間を割けない現場担当者の状況を理解した木田氏は「最小限の負担で、現場担当者にデータ活用のイメージを持ってもらう方法」を考えることにした。そのためにはまずは現場担当者の声をすくい上げる必要がある。
木田氏は売り場業務を棚卸しし、「試着」と「裾上げ」の間にわずかな隙間時間があることを発見。その隙間時間に「どのような顧客に」「どのような商品を販売したか」という情報を調査票に記入してもらった。
「POSデータを見れば『何がいつどれくらい売れたか』は分かる。だが『なぜ売れたのか』は分からない。そこで売り場で働く人が得た知見を集め、テキストマイニングで可視化した」
売り場は自分たちの手で集めた情報なので関心を持ち、顧客ニーズの先読みもできるようになった。成果が出たことで、売り場はデータ分析に協力的になったという。
「現場で利用されるデータ分析の仕組みを構築する場合、『なぜ』に注目する必要がある」と木田氏は語る。
同じアイテムでも顧客により利用目的が異なるため、データ分析の担当者は「顧客のなぜ」を知る必要があるという。木田氏はこの作業を「顧客の『ジョブ』を可視化する」と呼ぶ。ここでいうジョブとは「特定の状況で顧客が成し遂げたいこと」を指す。
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