フリーランスエンジニアは、インボイス制度とどう向き合えばいいのか導入直前、徹底解説

インボイス制度が2023年10月に導入されます。いままで免税事業者であったフリーランスエンジニアにはどのような影響があるのか、今後どのように対応したらよいのか、分かりやすく解説します。現在フリーランスで活躍しているエンジニアの皆さん、今後フリーランスになることを視野に入れている皆さん、そしてフリーランスエンジニアとビジネスを行う可能性のある皆さん必読です。

» 2023年08月09日 05時00分 公開

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 2023年10月に導入される消費税を正確に納付するための新しい制度、通称「インボイス制度」。気が付けば、導入タイミングがもう目前です。

 これまで「免税事業者」だったフリーランスエンジニアはインボイス制度が始まることで大きな影響を受けるといわれています。情報収集もいよいよ終盤となり、そろそろ決断を下すときではないでしょうか。

 フリーランスエンジニアの案件参画を支援する「ギークス」の方針は、「インボイス制度施行後も当面は課税事業者、免税事業者問わず取引します」です。免税事業者にも当面は「消費税相当額(10%)を月額単価に上乗せしてお支払いする」ため、提携するフリーランスエンジニアは、これまでと変わらない金額が受け取れます。しかし、フリーランスエンジニアとビジネスを行っている全ての組織がわれわれと同じ方針を打ち出しているわけではありません。各社さまざまな対応を予定しているため、フリーランスエンジニアの皆さんもどのような対策を採ればいいのか、不安になっていることと思います。

※本稿は、2023年8月9日時点の法令、事業方針などに基づいて作成しています。

インボイスセミナーを開催して分かった、エンジニアの悩みごと

 はじめまして、安竹と申します。ギークスでキャリアサポートとして、フリーランスエンジニアが安心して長く仕事を続けられるよう、悩みや不安を払拭(ふっしょく)したり、今後のキャリアプランを提案したりしています。

 インボイス制度の導入が決まったときは、私たちの現場にも大きなざわつきがありました。「インボイス制度って何ですか?」「どういった影響があり、どのような対応をしたらいいですか?」という質問がエンジニアから多く上がってきましたし、フリーランスを続けるべきか否かという今後のキャリアを左右するような相談を持ちかけられたこともありました。

 私たちは2023年の年初よりオンラインでフリーランスエンジニア向けのインボイスセミナーを5回実施し、計400人以上の方々に参加いただきました。

 参加者の多くが気になっていたことは「結局、どういう選択が自分にとっていいのか?」ということです。

 本稿では、その悩みを解消するための情報として、「インボイス制度の概要」「『免税事業者』と『課税事業者』の違い」「仕入税額控除とは」「『本則課税』と『簡易課税』の違い」「3年間の限定的な緩和措置『2割特例』とは」を、エージェント視点で分かりやすく解説します。

インボイス制度とは

 インボイス制度とは何でしょうか。

 多くの方がもうご存じだと思いますが、2023年10月から導入される、消費税を正確に納税するための制度です。制度導入後は、請求書を発行する際に、消費税法で定められた項目に沿った「適格請求書(インボイス)」の発行が必須になります。

登録番号とは

 適格請求書(インボイス)には、以下の3つを記載しなければなりません。

  • 適格請求書発行事業者の「登録番号」
  • 税率ごとに区分した「適用税率」
  • 税率ごとに区分した「消費税額」
インボイスの書き方

 ここでポイントとなるのが「登録番号」です。

 登録番号は「適格請求書発行事業者」にしか発行されず、適格請求書発行事業者になるためには「課税事業者」でなくてはなりません。従って、適格請求書(インボイス)を発行できるのは課税事業者のみということになります。

 「インボイス制度が開始されると、フリーランスエンジニアは全員課税事業者にならなくてはいけないのでは……?」と、業界がざわつきました。というのも、フリーランスエンジニアの多くが、これまでは「免税事業者」だったからです。

「課税事業者」と「免税事業者」の違い

 課税事業者とは、消費税の納税義務がある事業者のことで、簡単にいえば「課税売上高が年間1000万円を超えている事業者」です。一方の免税事業者は、「課税売上高が1000万円以下で、消費税の納税義務を免除されている事業者」です。

免税事業者が課税事業者になると変わること

 免税事業者が課税事業者になると、今までの「益税(※)」というメリットを享受できなくなります。

※益税(えきぜい):消費者が支払った消費税が、事業者の手元に合法的に残ること。課税売上高が1000万円以下の事業者の消費税を免除する「事業者免税点制度」も益税の一つ

免税事業者のままでいたら、どうなる?

 逆に、企業(エージェント含む)が外部事業者へ発注する場合、適格請求書(インボイス)がないと発注企業は「仕入税額控除」ができなくなるため、免税事業者は案件獲得で不利益となる可能性があることも語られています。

仕入税額控除とは

3種類の納税額算出方法とメリット/デメリット

 インボイス制度が導入されたら、フリーランスエンジニアは全員課税事業者にならなければいけないのでしょうか。納税義務が発生して益税がなくなり、利益が減少してしまうのに……。

納税額の算出方法

 ここで知っておきたいのが、消費税納税額の算出方法です。

 「課税事業者」になったからといって受け取った消費税を全て納税しなければならない訳ではありません。納税額の算出方法は、「本則課税」と「簡易課税」の2種類があり、さらに、期間限定で「2割特例」もあります。

本則課税(実額計算)

 実際に行われた仕入取引額を基に仕入税額控除を行う税額計算方法。「売り上げにかかった消費税」から「仕入れにかかった消費税」を差し引き、残った金額が納税額となる。

簡易課税

 売り上げの税額に対し、業種ごとに定められた「みなし仕入率(=フリーランスエンジニアはサービス業に当たるため5割)」をかけ、税額計算を行う方法。「売り上げにかかった消費税」の半分が納税額となります。

2割特例

 インボイス制度開始に伴い「課税事業者」となった方に限り、「売り上げにかかった消費税」の2割が納税額となる(2023年10月から2026年9月までの3年間の限定的な緩和措置)。

税額計算におけるシミュレーション

 緩和措置である「2割特例」による益税効果を考えると、「課税事業者」も選びやすくなるかもしれません。

本則課税、簡易課税、2割特例 それぞれのメリット/デメリット

結局、どういう選択がいいの?

 インボイス制度の説明や、課税事業者を選択した場合の納税額などを解説しましたが、結局のところ、フリーランスエンジニアはどういう選択をすればいいのでしょうか。

 この問題は一概に答えがあるものではなく、私はご自身の仕事状況や発注元の方針を考慮して判断すべきだと考えます。

 「課税事業者」でなければ発注しない、「免税事業者」の場合は税額負担を考慮し、消費税分は支払わない(もしくは減額要求する)など、発注元の対応はさまざまです。

 私たちは「働き方の『新しい』当たり前をつくる」という事業ミッションの下、フリーランスエンジニアの方々の働き方を支援してきました。インボイス制度の影響で、皆さんが不利な立場になってはならないと考えています。考える時間に猶予を作ることは、私たちだからこそできることだと思います。

 フリーランスエンジニアを支援するサービスは群雄割拠で、私たち以外にもたくさんの企業が事業展開しています。それぞれのエージェントの考え方や方針を見定めつつ、皆さんにとってフィットする企業やサービスを見つけていただけたらと思います。

 本稿が、悩めるフリーランスエンジニアの一助となれば幸いです。

安竹優太

ギークス IT人材事業本部 CS部 リーダー

案件に参画するフリーランスエンジニアのサポートを行う傍ら、インボイス制度や確定申告に関するセミナーの企画・運営をしている。


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