人的エラーや自然災害などによるさまざまな混乱が、商品やサービス、消費などに影響を及ぼす。エンタープライズアプリケーションも例外ではなく、企業は、アプリケーションの運用を維持して乗り切る仕組みを整えて、事業を継続する必要がある。
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グローバル化が進む世界では、さまざまな混乱が(人的要因によるものか、自然災害によるものかを問わず)、商品やサービスの提供、サポート、消費に影響を及ぼす。エンタープライズアプリケーションも例外ではない。
企業は、ますます複雑化するアプリケーションのエコシステムに依存しているため、アプリケーションにレジリエンス(回復力)を組み込み、事業継続性を確保する必要がある。これは、混乱が生じても、アプリケーションの運用を適切に維持して乗り切る仕組みを整えることで実現できる。
技術的な問題による混乱だけでなく、さまざまな混乱を考慮することが重要だ。それらは複雑な場合が多く、多面的な影響を及ぼし、総合的な対応を必要とする。
世界のほぼ全てのデータが数百本の海底ケーブルで伝送されているため、自然災害は世界のインターネットインフラに大きなリスクをもたらす。サイクロン(インド洋で発生する熱帯性低気圧)、海底地滑り、海底火山の噴火、地震などは特にそうだ。また、海底ケーブルの破壊のような人間の非合理的な活動も同様だ。これらの結果、地域全体がインターネットにつながらなくなったり、孤立したりする恐れがある。
ケーブルの損傷や破壊のリスクは、物理的なセキュリティの強化や衛星インターネット、国際協力によって軽減できる。だが、AIによるディープフェイクや、インターネットベースの主要サービスの障害によってインターネットの信頼性に傷がつくと、共有インフラへの信頼が損なわれ、インターネットの分断につながりかねない。企業は、ディープフェイクを防止するサイバーセキュリティ技術への投資と、それらの技術の既存のアプリケーションエコシステムへの統合を、優先事項に据えなければならない。
さらに、現在のITインフラは高度に相互接続されているため、著しく脆弱性が高まっている。2024年7月にCrowdStrikeが引き起こした世界的な大規模障害は、システムへの人々の信頼を維持するには、エコシステム全体がサービス提供について、最高レベルの保証を提供しなければならないことを示している。
アプリケーションの冗長性や保護を適切に確保していない企業は、障害が発生した場合に復旧に苦労する。Gartnerは、2028年までに企業の70%がこうした観点から、地域的に分散したサプライチェーンモデルを採用し、世界的な混乱が続く中でネットワークのレジリエンス向上を図るだろうと予測している。
制限的な政府規制(地域に焦点を当てたものが多い)は、多国籍企業のビジネスを混乱させている。これらの企業にはデータや技術、人材の国境を越えた自由な移動に依存するテクノロジーベンダーも含まれる。こうした規制による混乱は、テクノロジーベンダーの競争力と、アプリケーションの全ラインアップを提供する能力に悪影響を及ぼすだろう。
また、技術の開発、利用、移転、販売に関する政府規制も着実に強化されている。中でも、データのローカライゼーションに関しては、より厳格な規制が一般化してきている。その背景には、他国に対する不信感の増大、大手テクノロジープロバイダーの対応意欲、新しい技術が社会や地球に及ぼす予期せぬ影響に対する懸念の高まりがある。
多国籍企業はこうした政府規制の強化に対応し、グローバルなエンタープライズアプリケーション戦略の見直しやグローバルなアプリケーション提供の再検討を通じて、よりローカライズされたモデルへの転換が必要になる、地域別体制の連合体としての組織構造を選ぶかもしれない。
また企業は、AI、プライバシー、ローカライゼーションや自社の規定の順守をサードパーティーベンダーに義務付けるポリシーを策定し、自主ルールを徹底することで、国から事細かに指図されるリスクに対処できる。
このところ、インフレや経済の逆風に世界的に注目が集まり、持続可能性への具体的な取り組みが停滞気味だ。だが、2つの重要なトレンドにより、企業は持続可能性を真剣に受け止めざるを得なくなるだろう。
第一のトレンドは、AIのような技術の導入など、ITの電力消費を著しく増加させることになる変革の動きだ。AIを活用する企業は、環境への影響を相殺し、ESG(環境、社会、ガバナンス)目標を達成するために、現在よりはるかに多くのことをしなければならなくなる。
もう一つは、ITソフトウェアやサービスを「as a Service」(サービスとして)モデルで利用する割合が増える中、企業がベンダーを通じて間接的に温室効果ガス(GHG)排出量に責任を負っていることだ。Gartnerの調査は、ベンダーのGHG排出量の管理に関して、企業には「言行不一致」があることを示している。つまり、企業は管理すると言いながらも、実態が伴っていない。
この利用ベースのモデルへの移行に伴い、企業のIT部門はGHG排出量を推計できなくなっている。これでは、企業が持続可能性目標――特に、GHG排出量に関連する目標の達成は難しい。
企業は今後、アプリケーションの決定、調達プロセスにおいて、ビジネスコストやパフォーマンス、環境目標に沿うために、追加のデューデリジェンス(精査)を実施する必要性が高まりそうだ。デューデリジェンスでは、ESGをベンダー評価の必須の基準とするか、あるいはその基準としての比重を高めるとともに、持続可能性目標に対するベンダーの継続的な実績を詳しく調べることが重要だ。
全体として、企業はベンダーを巻き込み、合意した環境持続可能性の目標とKPIを達成するよう、インセンティブを与える必要がある。そして前に進み続ける道しるべとなるマイルストーンを設定し、目標達成に向けた進捗(しんちょく)を管理する。
出典:Preparing for disruptions to enterprise application ecosystems(Gartner)
※この記事は、2024年10月に執筆されたものです。
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