SLMとは、LLMよりも軽量で、特定のタスクに特化させたAIモデルのことだ。本記事では、このSLMとは何か、LLMとはどう違うのかといった基本的な知識から、具体的なメリット、デメリット、ビジネスでの活用例までを分かりやすく解説する。
近年、生成AI(人工知能)の進化はとどまることを知らず、特に企業の現場では、より効率的でコストを抑えたAIソリューションが求められている。その中で注目を集めているのが「SLM」(Small Language Model:小規模言語モデル)だ。
本記事では、LLM(Large Language Model:大規模言語モデル)との違いや導入の具体的なメリット、デメリット、そして現場で役立つ活用例までを網羅的に解説する。
SLMとは、LLMよりもパラメーター数が少なく、小規模なデータセットでトレーニングされた言語モデルのことだ。自然言語コンテンツの処理、理解、生成が可能という基本的な機能はLLMと同様だが、モデルのサイズが数百万から数十億パラメーターの範囲に収まる点が大きな特徴だ。SLMはLLMに比べて必要な計算リソースやメモリが少なく、スマートフォンなどのエッジデバイスや、オフライン環境での動作に適している。
SLMは、サイズを抑え、少ない計算リソースで動くことを狙って設計された言語モデルだ。省メモリ、低コスト、低レイテンシを目的としており、モデルの大きさや設計方針を表している。一方でローカルLLMは、クラウドではなく端末や社内サーバでモデルを実行するものを指す。実務ではローカルで運用しやすいようSLMが選ばれることがある。
しかし、SLMをクラウドで運用することもあれば、強力なマシンがあれば大きめのモデルをローカルで稼働させることもあるため、SLMとローカルLLMは必ずしも同義ではない点に注意が必要だ。
SLMの導入は、多くのメリットをもたらす。ここでは主要な3つのメリットを解説する。
SLMはLLMと比較してモデルサイズが小さいため、トレーニングや運用に必要な計算リソースが少なく済む。これにより、高性能なGPU(Graphics Processing Unit)サーバへの多額な投資を抑えられ、開発、インフラ、運用にかかるコストを削減できる。また、オープンソースとして提供されているモデルも多く、研究者や個人開発者でも手軽に利用を開始できる点も魅力といえる。
パラメーター数が少ないSLMは、推論(ユーザーの要求に応答を生成するプロセス)にかかる時間が短く、高速な応答が可能だ。この特性は、リアルタイム性が求められるチャットbotや、対話型AIアプリケーションにおいて大きな強みとなる。さらに、モデルをデバイス上で直接実行すれば、インターネット接続のないオフライン環境でも利用できる。
SLMはオンプレミス環境やプライベートクラウド、さらには個別のデバイス内にデプロイ(展開)できる。これにより、機密性の高いデータを外部のサーバに送信することなく処理できるため、データ保護を強化し、サイバーセキュリティのリスクを低減できる。これは、金融や医療といった特に高度なプライバシーが求められる業界において極めて重要なメリットだ。
多くのメリットがある一方で、SLMには幾つかのデメリットも存在する。導入を検討する際は、これらの点も理解しておく必要がある。
SLMは特定のタスクやドメインに特化してファインチューニングされることが多いため、広範な知識や複雑な推論を必要とするタスクは不得手な傾向にある。
LLMが膨大なデータセットから学習し、幅広いトピックに対応できるのに対し、SLMは学習データが限定的であるため、知識ベースの広さでは劣る。そのため、未知のタスクや専門外の領域に対する汎用的な応答能力には限界がある。
SLMもLLMと同様に、トレーニングデータに含まれるバイアスを学習してしまう可能性がある。また、事実に基づかない情報を生成する「ハルシネーション」のリスクも存在する。そのため、SLMが生成した内容が事実として正しいかどうかを検証するプロセスは不可欠である。
SLMはその特性を生かし、さまざまな分野での活用が進んでいる。
Googleの「Gemini Nano」のように、スマートフォン上で動作するAIモデルが実用化されている。これにより、録音データの要約や、チャットアプリでの返信文の提案といった機能が、オフラインかつ高プライバシーな環境で実現できる。
低遅延という特性を生かし、顧客からの問い合わせにリアルタイムで応答するカスタマーサービス用チャットbotに活用されている。ユーザーの要求に応じて自律的にタスクを実行するAIエージェントの基盤としても機能する。
特定のプログラミング言語や社内文書でファインチューニングすることにより、専門的なコード生成や高精度なテキスト要約ツールとして利用できる。
SLMを効果的に活用するためには、以下の3つのポイントが重要となる。
SLMは特定のタスクに特化させることで真価を発揮する。導入目的を明確にし、「テキスト分類」「要約」「コード生成」など、実行させたいタスクを具体的に定義することが成功の鍵だ。
特定のドメインで高い性能を引き出すためには、そのドメインに特化した質の高いデータセットを用いたファインチューニングが不可欠となる。ノイズの少ないデータを用意することが、モデルの精度を大きく左右する。
利用するハードウェアのリソースや、求められる応答速度に応じて、最適なパラメーター数のモデルを選定することが重要だ。例えば、Metaの「Llama」やGoogleの「Gemini」は、複数のサイズが提供されており、用途に応じた選択が可能となっている。
さまざまな企業から高性能なSLMが多数リリースされている。なお、以下に示す一部のモデルはLLMに分類されるケースもあるが、本記事ではSLMとして扱う。
2025年4月リリース。画像+テキストのネイティブ、マルチモーダル対応と、最大約1000万トークンの長文コンテキストを同時に実現。
テキストの内容に応じて得意分野のトークンごとにエキスパートを自動で使い分ける「Mixture-of-Experts」(MoE)を採用し、精度を保ちつつ計算を節約する工夫がなされている。
(※1)The Llama 4 herd: The beginning of a new era of natively multimodal AI innovation(Meta)
2025年6月リリースの推論特化SLM。Apache-2.0かつオープンウェイトで商用、再配布が可能。
モデルの数字の桁数を落として軽量化、量子化することで、高性能GPU1枚(RTX 4090)、もしくは一般的な開発機のMac(32GB RAM)でも動かせるとうたう。
(※2)Announcing Magistral(Mistral AI)
2025年2月発表の軽量モデル。一度に12万8000個のトークンを入力可能かつ多言語に対応している。MITライセンスを採用し、商用、ファインチューニングに適している。低レイテンシ用途やオンデバイス/ローカル運用を重視して設計されている。
(※3)Phi-4-mini-instruct(Hugging Face)
@ITでは、SLMだけでなくLLMやAIに関する記事も多く掲載しているので、ご参考に。
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