MITのNANDAプロジェクトは、生成AI導入の実態や、生成AI活用を成功に導くポイントをまとめたレポート「State of AI in Business Report 2025」を公開した。
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ITエンジニアに限らず、生成AI(人工知能)の活用が社会全体で進展しつつある。特に大企業では「全社的な生成AI活用」が経営戦略と位置付けられ、生成AIを収益向上やビジネス価値の向上につなげようとする動きが盛んとなっている。
では、生成AIを導入した企業は、どこまでビジネスメリットを享受できているのか。
マサチューセッツ工科大学(MIT)の「NANDA」(Networked Agents and Decentralized AI)プロジェクトが公開したレポート「State of AI in Business Report 2025」によると、「生成AIを活用する95%の組織が利益を生み出せていない」と分析している。
同レポートは153人の企業リーダーへのアンケート調査、52の企業インタビュー、300件以上の公開事例を調査、分析した結果に基づくものだ。
NANDAプロジェクトは、生成AIによるディスラプション(創造的破壊)の状態を定量評価するため、以下の5つの指標に基づいた「AI市場ディスラプション指数」(AI Market Disruption Index)で、9つの主要セクターを評価した。
その結果、9つの主要セクターの内、ディスラプションの兆候があるのはテクノロジー業界やメディア業界の2つにとどまるとした。「その他7つのセクターでも生成AIの試験的導入の動きが見られるものの、ディスラプションのような変化はほとんど、あるいは全く起きていない」と分析している。
ChatGPTやCopilotのような汎用(はんよう)AIツールが企業の間で広く普及している。レポートによると、80%を超える組織が検討または試験的導入を行い、40%の組織が導入を報告している。一方、特定タスクに特化した企業向けのAIツールは、60%の組織が検討した一方、試験的な導入は20%、本番稼働を成功させているのは5%にとどまった。
従業員が個人のChatGPTアカウント、Claudeのサブスクリプション、その他のツールを使用して、非公式に業務を自動化している。
「LLM(大規模言語モデル)をサブスクリプションで購入している」と回答した企業は40%だった一方、調査対象企業の90%以上の従業員が、業務に生成AIを定期的に使用していると回答した。シャドーAIの利用者が所属する企業の生成AI導入は、公式には試験的導入の段階だったという。
メールの作成や基本的な分析といった簡単な作業では、ユーザーの70%がAIを好んで使用していた。一方、長期にわたるプロジェクトや、複雑タスクでは、人間が90%の割合で優位に立っていた。
自社のシステムに統合されたカスタムAIツールよりも、ChatGPTやCopilotのような汎用LLMインタフェースをユーザーは高く評価していた。汎用ツールは、その柔軟性、使い慣れた操作性、そして即座に役立つ実用性が評価の理由となっている。
一方で、カスタムAIツールやベンダーから提供されたAIツールに対しては、多くのユーザーが懐疑的だ。ユーザーはこれらのツールを「過剰に設計されている」「実際のワークフローと合っていない」と評していた。
「たとえ両者が同じ生成AIモデルを活用していても、ユーザーにとっての使いやすさや満足度という点で、カスタマイズされた高価なシステムより、月20ドルの汎用ツールの方が評価されることがある」と分析している。
NANDAプロジェクトはこれらの調査結果や、企業リーダーへのインタビュー結果を通じて、「生成AIがコンテキストを忘れ、フィードバックから学習せず、時間とともに進化しないという課題が、複雑でミッションクリティカルな業務において、ユーザーが生成AIを信頼できない主な理由となっている。つまり、生成AIの成否を分ける条件が、単なる『知能』ではなく『記憶力』『適応性』『学習能力』にある」と分析。企業が採用すべき生成AIの導入戦略を次のように考察している。
社内での自社開発(内製)は失敗する可能性が2倍高い。成功する組織は、外部ベンダーとの戦略的パートナーシップを通じて、特定のワークフローに合わせて深くカスタマイズされたツールを導入している。
中央のAI研究部門に頼るのではなく、現場のマネジャーやAI活用を個人で推進するパワーユーザーに生成AIを主導させることが重要だとした。
永続的な記憶を持ち、ユーザーのフィードバックから学習し、時間とともに改善する「エージェンティックAI」のようなツールに投資することが重要だとした。
従業員が非公式に生成AIを活用する「シャドーAI」は、単なるセキュリティリスクではなく、現場が自発的に業務効率化を追求しているというポジティブな側面があることを同レポートは示している。経営層は、この取り組みを抑え込むのではなく、戦略として取り込む視点が求められる。例えば、企業で生成AIツールを導入する際には、シャドーAIを利用していた従業員を巻き込んで要件定義を進めることで、現場のニーズに即した「使えるツール」の選定が可能になる。現場の声を拾い上げながら、企業としての統制を効かせる戦略が、全社的な生成AI活用や、エージェンティックAIのような高度な取り組みの第一歩につながるのではないだろうか。
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