IT用語の基礎の基礎を、初学者や非エンジニアにも分かりやすく解説する本連載、第33回は「バイブコーディング」です。ITエンジニアの学習、エンジニアと協業する業務部門の仲間や経営層への解説にご活用ください。
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バイブコーディング(Vibe Coding)は、生成AI(人工知能)に自然言語で指示を与え、プログラムやアプリケーションを作っていく開発スタイルです。
従来のプログラミングは、専門的なプログラミング言語を学び、正確な文法でコードを書く必要がありました。しかしバイブコーディングでは、日本語や英語といった自然言語で作成したい処理を伝えると、AIが必要なプログラムを提示してくれます。
英語の「Vibe」には「感覚的に、雰囲気で」といったニュアンスがあります。従来はITエンジニアだけが扱えた領域に、AIの助けを借りて非エンジニアが感覚的に入っていける点がバイブコーディングの大きな特徴といえます。
バイブコーディングが登場した背景には、「ChatGPT」をはじめとする生成AIの普及があります。AIが自然言語を理解し、コードを生成できるようになったことで、プログラミングのハードルが劇的に下がりました。
昨今、ローコード開発(※1)やノーコード開発(※2)と呼ばれる開発手法が注目されてきましたが、バイブコーディングはより自由度の高い開発を実現します。
完全に専門知識なしでも可能というわけではなく、プログラミングの基礎は理解しておくべきですが、従来と比べてアプリケーション開発がより身近になったといえます。
バイブコーディングでは、ユーザーとAIが会話するようにコードを作成します。ユーザーが自然言語で要望を伝えると、AIがその要望に対応するコードを提示します。必要に応じて修正や追加指示を出していくと、おおよそ必要なプログラムが出来上がります。
例えば「Microsoft Excelで売り上げデータを月ごとにまとめるマクロを作りたい」と指示すると、AIがコードを生成します。動かしてみて改善が必要なら「金額を降順で並べ替えて」などのように伝えると修正してくれます。このように、まるで人に相談しながら進めるように開発できるのが特徴です。
また、従来のプログラマーにとっても便利な点があります。例えば、CRUD処理(データの登録、更新、削除、参照)のような定型的なコードをAIに任せれば、自分は設計や高度なロジックに集中でき、コーディング工数の削減やより高度な開発に時間を充てられます。
バイブコーディングは、さまざまな職種の人が有効に活用できます。
営業部門で日次報告をまとめるExcel作業や、経理部門で請求書データを整理する業務などを自動化するプログラムを、非エンジニアでも簡単に作成できます。これにより、数時間かかっていた単純作業を、短時間で終えられるようになります。
社内で使う簡易的な入力フォームや、情報共有用のWebツールを短期間で試作できます。PoC(※3)や小規模な業務改善の取り組みに適しています。
既存システムのコードをAIに読み込ませ、「もっと見やすく整理して」「冗長な部分を短く」などと指示することで、自動的に改善案を得られます。開発者にとっては、開発スピードや保守性の向上、品質改善の助けになります。
バイブコーディングはこのように、組織全体で多様な形で活用できる可能性があります。
バイブコーディングには多くのメリットがある一方で、以下のような課題も存在します。
バイブコーディングを支えるサービスは、多くの新興企業や新規参入プレイヤーが提供しています。誰でも簡単に使えることが魅力である一方で、企業の業務や顧客データを扱うとなると、セキュリティやプライバシー保護の観点への注意が不可欠です。
生成AI活用における一般的な課題と同様に、機密性の高い情報をそのままAIに入力してしまえば、外部のサーバにデータが保存されるリスクがあります。また、サービス提供者によっては暗号化やアクセス制御が十分でない場合もあります。
「便利に使える」ことと「安心して使える」ことは別です。ビジネスの現場で本格的に利用するには、信頼できるプラットフォームの選定と、情報の取り扱いルールを徹底する必要があります。
バイブコーディングで生成されたコードは、動作そのものは問題ないように見えても、長期的に利用する際には「誰がどのように修正するのか」が不明瞭になりがちです。
AIが生成したコードは独特の書き方をしていることがあり、他のエンジニアが後から読み解くのに時間がかかるケースもあります。また、テストが十分に行われないまま運用に入ると、不具合が潜んでいても気付かないまま使われ続けるリスクがあります。結果的に「早く作れたが、後から修正コストが膨らむ」という事態になりかねません。
業務でバイブコーディングする場合は、コードレビューやテスト体制をどう組むのか、事前に検討することが重要です。
バイブコーディングは短時間で新しいものを作り出せるため、「直すより新しく作った方が早い」という発想に陥りやすい側面があります。
試作品や小規模なツールであれば問題にならないかもしれませんが、本番環境や長期的に使うシステムで同じ姿勢を取ると、大きなリスクになります。既存資産やノウハウが引き継がれず、組織としての開発知見が蓄積されにくくなります。
結果として、短期的なスピード感と引き換えに、中長期的な安定性やコスト効率を損なう可能性があります。バイブコーディングのスピードを生かしつつ、既存資産をうまく活用するバランス感覚を持つことが必要です。
バイブコーディングには「非エンジニアでも業務改善に取り組める」「従来のプログラマーにとっても効率化につながる」といった大きなメリットがある一方で、信頼性やセキュリティ、メンテナンス性といった課題も存在します。このような背景から、活用の仕方によって効果が大きく変わる技術だといえます。
効果的に活用するためには、用途や規模に応じて適切に使い分ける姿勢が求められます。例えば、アイデアを素早く形にしたり試作品を作ったりする段階では、バイブコーディングのスピード感が大きな武器になるでしょう。一方、本番環境で長期的に運用するシステムには、従来型の堅牢(けんろう)な開発手法やセキュアなインフラを組み合わせることが不可欠です。
バイブコーディングのメリットを生かしながらも、信頼性を確保するためのガバナンスや開発プロセスをどう設計するかが重要です。スピードと安定性のバランスを取り、組織全体としてうまく取り込めれば、バイブコーディングによって生産性を劇的に向上できる可能性があります。
BFT インフラエンジニア
主に金融系、公共系情報システムの設計、構築、運用、チームマネジメントを経験。
現在はこれまでのエンジニア経験を生かし、ITインフラ教育サービス「BFT道場」を運営。
「現場で使える技術」をテーマに、インフラエンジニアの育成に力を注いでいる。
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