「バイブコーディング」は、生成AIとインテリジェントなコードアシスタントを活用し、開発者が意図を伝えるだけでソフトウェアを構築できる新たな手法だ。生産性向上や人材の多様化といった利点が期待される一方、コード品質やセキュリティといったリスクも指摘されている。
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開発者がコードを1行1行丹念に記述するのではなく、高度なAIに意図を伝えて面倒なコード記述を代行させ、適宜手を加えて強力なソフトウェアソリューションを作成する――。それが「バイブコーディング」が約束する世界だが、その実現には課題もある。
バイブコーディングは、生成AIとインテリジェントなコードアシスタントが可能にする、ソフトウェアソリューションの画期的な構築手法だ。期待が高まり、アーリーアダプター(早期導入者)が劇的な生産性向上を示している中、バイブコーディングは、エンタープライズソフトウェア開発の未来を根本から変えようとしている。
Gartnerは2028年までに、新規エンタープライズ向けプロダクションソフトウェアの40%が、バイブコーディングの技術とツールを用いて作成されるようになると予測している。これはソフトウェア開発における新時代の幕開けを告げる大変革だ。生成AIとAIコードアシスタントの進化に支えられているバイブコーディングは、開発者がソースコードの複雑さではなく、成果やユーザーの意図に集中できるようにする。
バイブコーディングで利用される“バイビング”という概念は、開発者がフロー(※)に入り、技術的な詳細やエラーの修正をAIに任せながら、ソフトウェアソリューションを迅速に作成し、反復的に改良する、高度に集中した状態を指している。
バイブコーディングは、以下の一連の原則に従うことで、従来のソフトウェア開発と一線を画している。
バイブコーディングは、単なる新しいツールセットではない。ソフトウェアの構築方法と人材の在り方を根本から再考するものだ。
企業にとってこのアプローチは、プロトタイピングとイノベーションのサイクルを加速させる可能性がある。そうなれば、チームが市場の変化に迅速に適応し、新しいアイデアをこれまでより速く検証できるようになることが期待できる。
バイブコーディングは、開発の複雑さを最小限に抑え、認知的負荷を軽減することで、開発者エクスペリエンスを向上させ、エンジニア人材に対する全体的な従業員価値提案(EVP:Employee Value Proposition)を強化する。
ソフトウェア構築の焦点が、コーディングの深い専門知識・ノウハウから、ビジネスとユーザー中心の問題解決へと移行することで、企業は多様な経歴やスキルセットを持つ個人を迎え入れ、より広範で多様な人材プールを活用できるようになる。
バイブコーディングは、統合とコンポーザビリティ(モジュール化とモジュールの機動的な組み換え)に十分に投資してきた企業で成功すると予想される。利用できるライブラリやコンポーネントの充実したカタログがあれば、バイブコーダーの生産性はさらに向上する。
バイブコーディングが成熟するにつれて、ソフトウェア開発者の役割は大きく進化しそうだ。開発者はプロダクトエンジニア――すなわち、ユーザーの成果やビジネス価値、AIエージェントオーケストレーションによる結果達成に注力するコンポーザーとなる。この変化により、こうした開発担当者の人材候補の範囲が広がり、単に深い技術スキルを持つ人材ではなく、顧客中心のマインドセットや特定分野の専門知識・ノウハウを持つ人材も、その中に含まれるようになる。
採用プロセスもこの変化に適応し、従来のコーディング能力よりも、ビジネスセンスや創造性、コンポーザビリティのスキルを重視するようになる見通しだ。企業は、迅速な学習、実験、イノベーションを支える文化を醸成し、チームがこの新しいパラダイムの中で活躍できるようにする必要がある。
バイブコーディングには大きな可能性がある一方で、重大なリスクもある。現在のツールはまだ未成熟であり、生成するコードの品質、セキュリティ、知的財産に関する懸念が未解決のまま残っている。
また開発者は、AIが生成したコードに過度に依存してしまう可能性があり、そうなれば未検証のエラーや隠れた欠陥、潜在的なコンプライアンス問題につながる。
さらに、バイブコーディングツールによって生成されたコードの出どころが不明な場合、大規模言語モデル(LLM)に付きまとう知的財産権の侵害リスクもある。
これらのリスクを踏まえ、Gartnerは企業に対し、以下のことを強く推奨している。
出典:The Promise and Perils of Vibe Coding(Gartner)
※この記事は、2025年6月に執筆されたものです。
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