クラウド移行が進む一方で、老朽化したデータセンターの廃止は多くの企業にとって避けられない課題となっている。だが、そのプロセスは単なる設備撤去ではなく、リスク評価、データ消去、規制対応、人材不足といった複雑な要素が絡み合う。安全かつ効率的に廃止を進めるには、部門横断的な計画と高度な専門スキルが不可欠だ。
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企業がITインフラの最適化と技術的負債の削減に取り組む中、データセンターの廃止が重要な優先事項となっている。クラウドコンピューティングやコロケーションサービスの導入が急速に進んだことで、多くの企業は、もはや戦略的目標をサポートしない老朽化した、あるいは冗長なデータセンターを抱えている。
データセンター戦略の変革はコスト削減と運用効率化に不可欠だが、変革のプロセスでは複雑さや財務リスク、風評懸念、データ漏えいの危険に直面することになる。これらのファクターは過小評価されがちだ。
Gartnerは2030年までに、新設されるデータセンターの2倍の数のエンタープライズデータセンターが廃止されると予測している。データセンターの統合、陳腐化、ワークロードのクラウドやコロケーションサービスへの移行がその原因だ。だが、データセンターの廃止には技術的な課題がある。しかも、専門的な人材の不足が、リスクをさらに増大させる。法務および環境コンプライアンス分野では特にそうだ。規制要件に従わないと、深刻な法的、財務的影響をもたらす場合がある。
データセンターの廃止を成功させるために、プラットフォームリーダーは、重要なポイントになるリスク軽減、規制順守、高度な実行、事業継続、ESG(環境、社会、ガバナンス)/持続可能性に注力する必要がある。これらの分野に取り組むことは、廃止のプロセス全体を通じて機密情報を保護し、運用の安定性を確保し、責任あるリソース管理を促進するために不可欠だ。
包括的なリスク評価の実施は、データセンターを廃止する取り組みの重要な第一歩になる。企業は廃止の目標を経営層が求める成果と結び付けることが多い。だが、発生し得るリスク、影響、法務上またはコンプライアンス上の課題を完全に洗い出すことに苦労するかもしれない。
堅牢(けんろう)なリスク評価により、物理的およびデジタルな脆弱(ぜいじゃく)性が明らかになり、これらのリスクへの対処に必要なリソースと労力に関する透明性のある意思決定が可能になる。これが特に重要なのは、データセンターは重要な情報と業務システムを収容しているため、いかなる侵害も重大な業務中断につながることがあるからだ。
企業は脆弱性を体系的に洗い出すことで、緊急対応が必要な分野を優先し、リソースを効果的に配分して、潜在的な脅威を軽減できる。脆弱性を特定したら、機密情報の安全を確保し、事業継続を維持するための保護対策を講じる必要がある。
すなわち、オフサイトやクラウドベースの選択肢を含む強力なバックアップソリューションを確立することで、予期せぬ中断に直面しても、データの完全性と可用性を確保できる。
最終的に、徹底したリスク評価は機密データを保護するだけでなく、廃止プロセス全体を通じて企業のレジリエンス(回復力)を高めることにもなる。
データセンターの廃止は非常に複雑なプロセスであり、既存の大半のITチームにはない専門知識・ノウハウを必要とする。主な知識分野には、IT資産の処分とデータサニタイゼーションが含まれる。また、認定された消去ツール、デガウサー(磁気データ消去装置)、物理破壊装置に関する実務経験も要求される。完全なデータ消去を保証するには、CoC(Chain-of-Custody:管理の連鎖)管理とフォレンジック検証に精通している必要もある。
規制とコンプライアンスに関する専門知識・ノウハウも同様に重要だ。担当者は、GDPR(一般データ保護規則)、WEEE(電気電子廃棄物)指令など、広範な基準や法律を理解しなければならない。この専門知識・ノウハウには、契約上のSLA(サービスレベル保証)を解釈し、プロセス全体にコンプライアンスチェックを組み込み、監査や規制当局のレビューに備えて詳細な文書を作成する能力が含まれる。
さらに、効果的なプロジェクト管理とチェンジマネジメントのスキルも必要だ。データセンターの廃止には、慎重な計画や多分野にわたるチーム間の調整、各段階で目標をすり合わせ、承認を得るための強力なステークホルダー管理が求められるからだ。
また、インフラとネットワークの廃止には、データセンターの電源、冷却、ケーブル配線、ネットワークエンジニアリングに関する深い知識が必要になる。サービスの停止やセキュリティホールを発生させることなく、安全にシステムを解体し、ネットワークコンポーネントのプロビジョニングを解除するためだ。
環境対応と有害物質の取り扱いに関する専門知識・ノウハウも、地域の規制や持続可能性基準に沿って電子廃棄物、バッテリー、冷却材を、コンプライアンスに従って処分する上で重要だ。
これらの専門スキルが不足していると、多大なコストのかかるミス、遅延、業務の中断につながることがある。この問題に対処するため、企業は的を絞ったトレーニングプログラムに投資するか、経験豊富なコンサルタントを起用し、廃止プロセスに関するガイダンスを得なければならない。
企業が継続的学習の文化を醸成し、スタッフに認定資格取得や業界イベントへの参加を奨励することは、進化する要件をいち早く把握し、競争力の維持につなげるのに役立つ。
データ保護や環境規制の状況は、地域や業界によって複雑かつ多様だ。そのため、データセンターの廃止プロセス全体を通じて、規制順守は中心的な課題だ。法的に罰せられたり、評判に傷がついたりしないために、常に情報を入手し、コンプライアンスを維持する必要がある。
これらの責務を効果的に果たすため、企業は専任のコンプライアンスタスクフォースを設立すべきだ。このタスクフォースは法務アドバイザーと協力し、全ての規制要件を監督する役割を担う。包括的なチェックリストを作成し、定期的な監査を実施し、コンプライアンスが守られていない分野を積極的に是正する必要がある。
法務専門家との戦略的協働は、法的リスクの軽減に役立つだけでなく、倫理的で責任あるビジネス慣行への強いコミットメントを示すことにもなる。
日本のデータセンター市場は拡大を続けている。ハイパースケーラーのAIなどのクラウドサービスがけん引役だ。だが、Gartnerの日本での年次調査によると、依然として企業・組織の約7割がマシンルームを含む自社のデータセンターを運用しており、その多くは老朽化している。そのため、データセンターの廃止は、差し迫った課題となっている。
だが、日本でもデータセンターの廃止は単純なプロセスではなく、複雑性を伴い、しばしば過小評価されている。データセンター資産は膨大であり、多くの内部ステークホルダーが関わっているため、IT部門が単独で意思決定するのは難しい。
さらに多くの企業――特にユーザー企業は、IT担当者不足に直面している。こうした規制の厳しい大規模プロジェクトを効果的に進めるのに必要な、専門スキルを持った人材や、人員の絶対数が不足している場合が多い。
データセンターの廃止に効果的に対処するには、関連するステークホルダーで構成される部門横断型のタスクフォースを設立し、段階的なプロジェクト計画に基づく堅牢なガバナンスフレームワークを導入する必要がある。準備と実行のどちらの段階においても、綿密な検討が求められる。
準備段階では、IT資産の包括的な棚卸しが極めて重要になる。ハードウェア、ソフトウェア(自社で開発したソリューションを含む)など、多様なIT資産とそれらの相互依存関係を明確に理解することが肝心だ。この取り組みは、技術的負債の削減にも大きく貢献する。
実行段階では、情報セキュリティ(ISO 27001)、環境マネジメント(ISO 14001)、データ消去(ADEC)などのコンプライアンス基準に厳格に準拠する必要がある。
出典:Data Center Decommissioning: Key Risks and Best Practices(Gartner)
※この記事は、2025年7月に執筆されたものです。
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