AIガバナンスの重要性が高まる中、データとアナリティクスのリーダーは従来のデータ統括を超え、AIライフサイクル全体にわたるリスク管理に直面している。組織の目標や規制要件に沿ってリスク指標(KRI)を定義・監視することは、責任あるAIを実現し、信頼と成果を確保する鍵となる。
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データとアナリティクスのリーダーがAI(人工知能)ガバナンスにおいてより広範な責任を担う中、指標を効果的に用いてリスクをモニタリング、管理することに難しさを感じるリーダーが多くなっている。
従来のデータ統括から包括的なAIガバナンスへと業務が拡大すると、新たな複雑さに直面するからだ。特に、AIライフサイクル全体にわたるリスクの追跡に関してはそうだ。AIへの取り組みを組織の目標やステークホルダーの期待に沿って進めていくには、どのようにリスク指標を測定、解釈し、それに基づいて行動すべきかを理解することが不可欠だ。
効果的なAIガバナンスには、適切に定義された明確なリスク選好が欠かせない。リスク選好とは、リスクに対する組織の全体的な姿勢を表し、ビジネス目標を追求する上で許容可能なリスクの上限を設定するものだ。
データとアナリティクス(D&A)のリーダーは、企業リスク管理や法務、コンプライアンス、サイバーセキュリティの各チームと緊密に協力する必要がある。この部門横断的な連携により、リスク選好が、関連する他の要素から独立して決定されるのではなく、組織全体の優先事項や規制上の義務を反映したものになる。
リスク選好は質的なものであり、組織が利益を期待してリスクを取る意欲を表す。これに対し、リスク許容度は、リスク選好を個々のAIプロジェクトごとに具体的なしきい値に変換したものであり、より粒度が細かく定量的だ。
リスク選好とリスク許容度を、責任あるAIの5つの中核原則(人間中心で社会的に有益、安全で安心、公平、説明可能で透明、説明責任を果たせる)に結び付けることで、意思決定の一貫した枠組みが得られる。
これらの原則に照らしてAIのパフォーマンスを測定することで、組織はプロジェクトが許容可能なリスクの範囲内にとどまっているかをモニタリングし、しきい値に近づいたり超えたりした場合にタイムリーに対応できる。
リスクの枠組みが確立されたら、次のステップは、AIのパフォーマンスとリスクエクスポージャ(リスクにさらされている度合い)に関する有意義な洞察を提供する主要リスク指標(KRI)を特定し、実装することだ。
KRIは、主要業績評価指標(KPI)の特殊なサブセットであり、リスク許容度が変化していることを知らせ、リーダーがタイムリーに対応できるようにする。動的でなければならず、各AIプロジェクトの特定の段階やコンテキストに合わせて調整する必要がある。例えば、バイアス(偏り)に関する苦情の発生率を追跡することは、AIソリューションが本番環境に展開された後に初めて意味を持つ。
最も効果的なKRIは、以下のような重要な特徴を共有している。
KRIの信頼性と実用性を確保するために、D&Aリーダーは堅牢(けんろう)なデータ収集プロセスを定義する必要がある。このプロセスには、技術スタック全体で自動モニタリングツールを活用することに加え、ステークホルダーエンゲージメントやユーザー調査を通じて定性的なフィードバックを収集することが含まれる。
また、データサイエンス、機械学習、D&Aガバナンス、AI TRiSM(AIのトラスト/リスク/セキュリティマネジメント)のソリューションにより、継続的なリアルタイムの洞察が得られる。
直接的なコミュニケーション、観測、ネットプロモータースコア(ユーザーの継続利用意向の指標)の利用といった代替手法も、自動化ツールが見逃す可能性のある新たなリスクを捉えるのに利用できる。
以上をまとめると、KRIを慎重に選択し、モニタリングすることが、効果的なリスク管理戦略の根幹をなす。KRIは、早期検知とタイムリーな対応を可能にし、組織がプロジェクトのライフサイクルを通じて、AIリスクを制御し、責任あるAIの原則を維持するのに役立つ。
出典:Building Effective Risk Monitoring in AI Governance Programs(Gartner)
※この記事は、2025年7月に執筆されたものです。
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