仕様駆動開発(Spec-driven development)とは?AI・機械学習の用語辞典

最初に「何を実現すべきか」を“仕様”として明文化し、それを唯一の基準としてコード生成や検証を進めていく新しい開発スタイル。人間の意図を表した“仕様”が基準となるため、“雰囲気”を重視するバイブコーディングよりも高精度な開発が可能。

» 2025年10月07日 05時00分 公開
[一色政彦デジタルアドバンテージ]
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連載目次

用語解説

 仕様駆動開発Spec-driven development)とは、最初に「仕様(specification)」をAIと共に作成し、その仕様を「信頼できる単一の情報源(source of truth)」、つまり「唯一の基準」としてコードを生成し検証していく、新しいソフトウェア開発スタイルである。従来のバイブコーディングでは「雰囲気」や「あいまいな指示」からコードを作っていくことが中心だったが、仕様駆動開発ではまず「何を実現すべきか」を明確に定義し、その上でコード生成を進めるのが特徴である(図1)。

図1 仕様駆動開発(スペックドリブン開発)のイメージ 図1 仕様駆動開発(スペックドリブン開発)のイメージ

 仕様駆動開発の考え方を広めたのが、2025年7月15日にAWSが発表した開発環境「Kiro」である(参考記事)。Kiroのアプローチでは「要求(requirements)や制約(constraints)といった“仕様”を全て明文化し、それをAIコーディングエージェントの“作業の指針(ガイド)”として用いることで、ムダなコード生成の繰り返しを減らしつつ、高い精度で開発作業を遂行できる」と説明されている。

 また、同年9月2日にGitHubが公開したオープンソースのツールキット「Spec Kit」のアプローチでは、開発を「仕様定義(Specify)→ 開発計画(Plan)→ 複数のタスクに分解(Tasks)→ 計画に沿ってタスクごとに実装(Implement)」という4段階の流れに分け、これを実際に使える仕組みとツールの形で提供している(参考記事ニュース解説記事)。Spec Kitは、GitHub CopilotやClaude Code、Gemini CLIなど、手元のAIコーディングエージェントと組み合わせて手軽に活用できるのも特徴だ。

 これらで注目すべきは、「source of truth(信頼できる単一の情報源=唯一の基準)」を「実装されたコード(code)」ではなく「人間の意図(intent)」に置いている点である。つまり、従来の開発では実装された“コード”が絶対的な基準と見なされてきたのに対し、仕様駆動開発では意図を明文化した“仕様”を唯一の基準とし、そこからコードを作成していくことを重視している。この考え方こそが、仕様駆動開発の核心である。

4つの特徴

 仕様駆動開発には以下のような特徴がある。

1. “仕様”が「生きたドキュメント」となる

 “仕様”は静的な紙の要件書ではなく、プロジェクトと共に更新される中心的な情報源である。

2. 段階的な開発プロセス

 Spec Kitが示すように「仕様化 → 計画 → タスク → 実装」という流れを経るため、一発勝負のバイブコーディングではなく、検証と修正を繰り返す。

3. 意図と制約の統合

 “仕様”に目的(whatとwhy)と技術的制約(howの条件)を盛り込むことで、生成されるコードは意図に沿ったものになる。

4. 再現性と透明性

 “仕様”に基づくため、同じ仕様からは同じようなコードが得られる可能性が高まり、そのコード生成に至る経緯も明確に追跡できる。

メリット

 仕様駆動開発は、次のような場面で特に効果を発揮する。

  • 大規模ソフトウェア開発: “仕様”を基準にするため再現性と透明性が高く、複数の人間やAIが関わるプロジェクトでも進行がブレにくい。
  • AIコーディングの補完: バイブコーディングの即興性を生かしつつ、“仕様”によって誤解や再現性不足を補正できる。
  • 学習・教育: 「仕様書を書く」作業を通じて、要件定義からコード生成までの一連の流れを学びやすい。
  • テスト生成と検証の自動化: “仕様”が明文化されているため、AIによるテスト生成や自動検証に直結させやすい。

課題

 一方で、仕様駆動開発には次のような課題もある。

  • 小規模開発へのオーバーヘッド: 単純なバグ修正や小規模な機能追加では、“仕様”作成がかえって負担になる。
  • “仕様”の質への依存: あいまいな“仕様”や不完全な“仕様”では、開発の方向性が誤ってしまう可能性がある。
  • 既存コードとの統合の難しさ: レガシーシステムに対しては、“仕様”をどう定義し直すかが大きな課題となる。
  • ツールの未成熟さ: KiroやSpec Kitは公開されたばかりであり、機能や運用ノウハウはこれから蓄積されていく段階にある。

今後の方向性

 仕様駆動開発は、バイブコーディングの自由度とスピード感を取り込みながら、コード生成の精度を高め、生成結果の透明性を補強するアプローチとして、今後さらに発展していくだろう。将来的には、AIと人間が協調して開発を進める時代における「新しい標準」として広く定着していくことが期待される。

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