最初に「何を実現すべきか」を“仕様”として明文化し、それを唯一の基準としてコード生成や検証を進めていく新しい開発スタイル。人間の意図を表した“仕様”が基準となるため、“雰囲気”を重視するバイブコーディングよりも高精度な開発が可能。
仕様駆動開発(Spec-driven development)とは、最初に「仕様(specification)」をAIと共に作成し、その仕様を「信頼できる単一の情報源(source of truth)」、つまり「唯一の基準」としてコードを生成し検証していく、新しいソフトウェア開発スタイルである。従来のバイブコーディングでは「雰囲気」や「あいまいな指示」からコードを作っていくことが中心だったが、仕様駆動開発ではまず「何を実現すべきか」を明確に定義し、その上でコード生成を進めるのが特徴である(図1)。
仕様駆動開発の考え方を広めたのが、2025年7月15日にAWSが発表した開発環境「Kiro」である(参考記事)。Kiroのアプローチでは「要求(requirements)や制約(constraints)といった“仕様”を全て明文化し、それをAIコーディングエージェントの“作業の指針(ガイド)”として用いることで、ムダなコード生成の繰り返しを減らしつつ、高い精度で開発作業を遂行できる」と説明されている。
また、同年9月2日にGitHubが公開したオープンソースのツールキット「Spec Kit」のアプローチでは、開発を「仕様定義(Specify)→ 開発計画(Plan)→ 複数のタスクに分解(Tasks)→ 計画に沿ってタスクごとに実装(Implement)」という4段階の流れに分け、これを実際に使える仕組みとツールの形で提供している(参考記事、ニュース解説記事)。Spec Kitは、GitHub CopilotやClaude Code、Gemini CLIなど、手元のAIコーディングエージェントと組み合わせて手軽に活用できるのも特徴だ。
これらで注目すべきは、「source of truth(信頼できる単一の情報源=唯一の基準)」を「実装されたコード(code)」ではなく「人間の意図(intent)」に置いている点である。つまり、従来の開発では実装された“コード”が絶対的な基準と見なされてきたのに対し、仕様駆動開発では意図を明文化した“仕様”を唯一の基準とし、そこからコードを作成していくことを重視している。この考え方こそが、仕様駆動開発の核心である。
仕様駆動開発には以下のような特徴がある。
1. “仕様”が「生きたドキュメント」となる
“仕様”は静的な紙の要件書ではなく、プロジェクトと共に更新される中心的な情報源である。
2. 段階的な開発プロセス
Spec Kitが示すように「仕様化 → 計画 → タスク → 実装」という流れを経るため、一発勝負のバイブコーディングではなく、検証と修正を繰り返す。
3. 意図と制約の統合
“仕様”に目的(whatとwhy)と技術的制約(howの条件)を盛り込むことで、生成されるコードは意図に沿ったものになる。
4. 再現性と透明性
“仕様”に基づくため、同じ仕様からは同じようなコードが得られる可能性が高まり、そのコード生成に至る経緯も明確に追跡できる。
仕様駆動開発は、次のような場面で特に効果を発揮する。
一方で、仕様駆動開発には次のような課題もある。
仕様駆動開発は、バイブコーディングの自由度とスピード感を取り込みながら、コード生成の精度を高め、生成結果の透明性を補強するアプローチとして、今後さらに発展していくだろう。将来的には、AIと人間が協調して開発を進める時代における「新しい標準」として広く定着していくことが期待される。
Copyright© Digital Advantage Corp. All Rights Reserved.