量子ネットワーク用チップのプロトタイプ開発を公表していたCisco Systemsが、分散型量子コンピューティングを可能にするソフトウェア群のプロトタイプを発表した。
Cisco Systemsは2025年9月25日(現地時間)、分散型量子コンピューティングを実現する3つのソフトウェアプロトタイプを発表した。同社によれば、現実世界の問題解決には数百万量子ビットが必要になるとの見方がある中で、それをはるかに下回る量子ビットで停滞しているのが現状。
同社が今回発表したのは、量子プロセッサ同士をネットワークで連携させることでその制約を突破するアプローチだ。2025年5月に明らかにしていた量子ネットワーク用チップのプロトタイプ開発に続く取り組みとなる。
分散型量子コンピューティングを実現するソフトウェアプロトタイプとしてCisco Systemsが発表したのは次の3つ。量子コンピュータが単独ではなく、連携して動作するためのインフラになる。
複数の量子プロセッサにまたがって量子アルゴリズムを実行できるコンパイラ。量子計算中に発生するエラーに対して、複数の量子ビットを用いた符号化によって情報を復元可能にする「分散量子エラー訂正」を実現。
量子力学の原理を応用した盗聴検知機能。エンタングルメント(量子もつれ)された光子にわずかな干渉があれば即座に検出し、通信が盗聴されていないことを証明できるセキュリティを実現する。
量子もつれを利用し、分散システム同士がメッセージを送信せずに相関性のある意思決定を行えるようにする技術。金融取引など、瞬時の意思決定が求められる場面での応用が期待される。
今回発表されたソフトウェアプロトタイプの独自性の一つは、量子プロセッサ同士をつなぐ仕組みを考慮しながら、分散コンピューティング環境での量子エラー訂正を可能にしている点。通常のコンパイラが単一のコンピュータ向けの回路(量子回路)のみを対象としているのに対し、Quantum Compilerはデータセンター内の複数の量子プロセッサに分散して実行できる。
今回の発表に先立ち、Cisco Systemsは2025年5月、量子ネットワークの構築に向けて重要なマイルストーンとなる取り組みを明らかにしていた。その一つが、量子プロセッサ間のエンタングルメントを実現するチップのプロトタイプ開発だ。
量子もつれは離れた量子同士が互いの状態を即座に反映し合う現象で、これを安定的に生成して伝送できることが、遠隔地の量子プロセッサを一体的に動作させる量子ネットワークの実現には不可欠とされる。Cisco Systemsのチップは、量子もつれ状態の光子ペアを生成し、その状態を即時に伝送する「量子テレポーテーション」を実現するものとなる。
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