Google DeepMindチームとGoogle Quantum AIチームは、量子コンピュータ内部のエラーを高精度で特定するAIベースのデコーダー「AlphaQubit」を公式ブログで紹介した。
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Google DeepMindチームとGoogle Quantum AIチームは2024年11月20日(米国時間)、量子コンピュータ内部のエラーを最先端の精度で特定するAIベースのデコーダー(復号器)「AlphaQubit」を公式ブログで紹介した。
同日公開されたNature誌オンライン版には、AlphaQubitの論文が掲載された。
量子コンピュータは、従来のコンピュータなら何十億年もかかるような問題を数時間で解決でき、創薬や材料設計、基礎物理学などに革命をもたらすと期待されている。
だが、量子コンピュータのプロセッサは従来のプロセッサよりもノイズを受けやすく、量子コンピュータ、特に大規模な量子コンピュータの信頼性を高めるには、量子コンピュータのエラーを正確に特定し、訂正する必要がある。
量子コンピュータは「重ね合わせ」や「量子もつれ(エンタングルメント)」など、量子のユニークな性質を利用し、古典的なコンピュータよりはるかに少ないステップで、特定の種類の複雑な問題を解ける。この技術は量子ビットに依存している。量子ビットは量子干渉を利用して膨大な可能性をふるいにかけ、答えを見つける。
だが、量子ビットの自然な量子状態は壊れやすく、ハードウェアの微細な欠陥、熱、振動、電磁干渉、さらには宇宙線(どこにでもある)など、さまざまな要因により破壊される可能性がある。
量子エラー訂正は、冗長性を利用してこの問題に対処する。すなわち、複数の量子ビットを1つの論理量子ビットにグループ化し、定期的に整合性をチェックする。デコーダーはこの整合性チェックを用いて論理量子ビットのエラーを特定し、訂正することで量子情報を保持する。
AlphaQubitは、今日の大規模言語モデル(LLM)の多くを支えるディープラーニングアーキテクチャ「Transformer」(Googleで開発された)を利用したニューラルネットワークベースのデコーダーだ。AlphaQubitのタスクは、入力として整合性チェックを使用し、実験終了時に測定された論理量子ビットが、準備された状態から反転したかどうかを正しく予測することだ。
Google DeepMindチームとGoogle Quantum AIチーム(以下、両チーム)はまず、量子コンピュータの中央演算ユニットである量子プロセッサ「Sycamore」内にある49個の量子ビットのデータを復号するようにモデルをトレーニングした。AlphaQubitに一般的な復号問題をトレーニングさせるため、量子シミュレーターを使って、さまざまな設定とエラーレベルにわたって数億のサンプルを生成した。その後、AlphaQubitに特定のSycamoreプロセッサの数千の実験サンプルを与えることで、特定の復号タスク用にファインチューニングした。
新しいSycamoreデータでテストしたところ、AlphaQubitはこれまでの主要なデコーダーを上回り、精度の新たな基準を打ち立てた。Sycamoreデータを用いた最大の実験では、AlphaQubitは、テンソルネットワーク法よりも6%エラーが少なかった。テンソルネットワーク法は高精度だが、遅いために実用的ではない復号方法だ。AlphaQubitはまた、相関マッチングよりも30%エラーが少なかった。相関マッチングは、十分高速にスケールできる復号方法だ。
両チームは、AlphaQubitがより大きなデバイス、より低いエラーレベルにどのように適応するかを調べるために、241量子ビット(Sycamoreプラットフォームで利用可能な規模を超えている)までの量子システムのシミュレーションデータを使ってAlphaQubitをトレーニングした。
AlphaQubitは、主要なアルゴリズムによるデコーダーを再び上回った。これは将来的に、AlphaQubitが中規模の量子デバイスに対しても有効に機能することを示唆している。
さらに両チームは、入力と出力の信頼度を受け入れて報告する機能などの高度な機能も実証した。これらの情報豊富なインタフェースは、量子プロセッサの性能を向上させるのに役立つ。
また、AlphaQubitを最大25ラウンドのエラー訂正を含むサンプルでトレーニングしたところ、最大10万ラウンドのシミュレーション実験でも良好な性能を維持し、トレーニングデータ以外のシナリオにも一般化できる能力を示した。
AlphaQubitは、量子エラー訂正に機械学習を用いる上で大きなマイルストーンとなる。だが、速度とスケーラビリティに関しては、まだ大きな課題がある。
例えば、高速の超電導量子プロセッサでは、1秒間に100万回の整合性チェックが行われる。AlphaQubitはエラーを正確に特定することに優れているが、超電導プロセッサのエラーをリアルタイムで修正するにはまだ遅すぎる。
量子コンピューティングが商用に必要な数百万量子ビット規模に拡大すると、AIベースのデコーダーをトレーニングするためのデータ効率の高い方法を見つける必要も出てくる。
両チームは、機械学習と量子エラー訂正の先駆的な進歩を組み合わせることで、これらの課題を克服し、世界で最も複雑な問題に取り組める信頼性の高い量子コンピュータへの道を切り開こうと考えている。
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