AI技術を使った推論アプリケーションの拡大で、企業のストレージ選定に変化が生じている。調査会社TrendForceによるとHDDの価格優位が薄れつつあり、「ニアラインSSD」への移行が加速する可能性がある。
調査会社TrendForceの最新調査によると、AI(人工知能)技術を使った推論アプリケーションが増加し、企業のストレージは「大容量ニアラインSSD」への移行が加速する可能性がある。
HDDは熱アシスト磁気記録(HAMR)方式への移行期にある中で、生産に関連するコストが製品価格に転嫁され、より多くのデータをより安価に保管できるというコスト優位性が薄れつつあるという。その一方でHDDよりも速いペースで容量増加の技術進化を成し遂げているのがSSDだ。
容量増加はAIの推論アプリケーションでも重要になるニアラインSSDのコスト効率の良さにつながり、企業のストレージ選定にも影響を与える。
HDDの供給不足が懸念される中で、NAND型フラッシュメモリのベンダーは技術革新を加速させている。各社は容量100TBを超えるクラスの大容量SSDを相次いで発表しており、TrendForceはこうした動きがストレージ需要に対する長期的な不安を和らげつつあると分析する。
HAMRの量産化が進めばHDDのコストは一定程度下がる可能性があるが、それはNAND型フラッシュメモリとSSDのコスト低下の優勢を揺るがすものではないと同社はみている。
SSDベンダーはより高密度で大容量のSSDを提供するために、高密度化の技術進化を重視し、1つのメモリセルに4bitを格納するQLC(クアッドレベルセル)などの技術を採用する製品へのシフトを図っている。
メモリセルを縦方向に幾層にも積み重ねる3D(3次元)技術の進化も、SSDの容量増加を支える要素の一つとなっている。
AIの推論処理では、多数の小さなファイルを何度も、素早く読み取ることが求められる。その処理はストレージの読み込み速度に左右される。その性能面ではSSDはHDDよりも一般的に優れている。
HDDが内部にあるディスクを物理的に回転させながらデータの読み出しをするのに対し、SSDはそうした回転の機構がなく、より高速にデータにアクセスできる。電力や冷却にかかるコスト、ラックスペースを節約できるといった点でも、SSDにコストメリットが見込めるという。
HDDは安価で大容量という理由から、バックアップやアーカイブ用途を中心に企業システムを支えてきた。AIアプリケーションの利用が広がる中で、容量だけではなく性能を含めた選定がより重要になっている。さらにはSSDのAI向け進化を受け、SSDとHDD双方のコスト効率の良さに対する見方も変わりつつある状況だと言える。
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