Gartnerは、2026年の戦略的テクノロジーのトップトレンドを発表した。AIネイティブ開発、先制的サイバーセキュリティなど10項目を挙げた。
調査会社Gartnerは、2026年に企業や組織にとって重要な影響を及ぼすと見込まれる「戦略的テクノロジーのトップトレンド」を発表した。2025年10月28〜30日にガートナージャパンが開催した「Gartner IT Symposium/Xpo 2025」で明かされたものだ。Gartnerのバイスプレジデントアナリスト、池田武史氏が解説したトップトレンド10項目は次の通り。
生成AIを活用して、より迅速かつ簡易なソフトウェア開発を可能にするのが「AIネイティブ開発プラットフォーム」だ。エンジニアが領域専門家と連携しながらアプリケーションを開発し、AIと人間が協働することで、従来と同じ人員でも開発効率を大幅に向上できる。セキュリティやガバナンスに配慮した上で非IT部門が開発を担うケースも増えている。
2030年までに企業の8割が大規模な開発チームを、AIで強化された機敏な小規模チームへと転換させるとGartnerは予測する。
CPU、GPU、ASICのAI専用チップ、さらには人間の脳を模倣する「ニューロモルフィックコンピューティング」などを組み合わせることで、組織は複雑なタスクのオーケストレーションやデータ集約型の処理を実現する他、効率性やイノベーションを新たなレベルへ引き上げられるようになる。
例えば、これまで数年単位の時間がかかっていた新薬のモデル化は数週間で実行できるようになっている。2028年までに企業の4割がこのようなコンピューティングのアーキテクチャを業務に導入するとGartnerはみている。
複数のAIエージェントが相互に連携して業務を進めるマルチエージェントシステム(MAS:Multiagent Systems)は、人とAIの新たな協業の在り方を実現する。特に、専門タスクを担うモジュール型のエージェントがワークフロー全体で連携することで、生産性の向上やリスクの低減、変化への迅速な対応が可能になる。
業界ごとのニーズに応じたデータで学習、ファインチューニングされたドメイン特化言語モデル(DSLM)は、汎用(はんよう)の大規模言語モデル(LLM)に比べて高い正確性や信頼性を実現する。特定領域の知識を持つAIエージェントを支える基盤として注目される。
Gartnerは、2028年までに企業のAIモデルの過半数がDSLMになると予測している。
ロボットやドローン、スマートデバイスといった物理的なデバイスにAIを組み込む「フィジカルAI」は、自律的な行動や安全性の向上が求められる分野で成果を上げている。
導入にはITとエンジニアリングを橋渡しする新たなスキルが必要になり、組織の人材育成や業務体制にも影響を与える。
AIで強化されたセキュリティ運用を活用し、プログラムで脅威を阻止、妨害し、攻撃者を欺くことで、攻撃される前に先制的に防御するのが「先制的サイバーセキュリティ」だ。受け身の対策から攻撃を予測、回避する能動的なアプローチへの転換が進んでおり、Gartnerによれば2030年にはセキュリティ投資の半分以上がこの分野に向けられる見通し。
ソフトウェアやデータの出所や真正性を証明する「デジタル属性」は、信頼性の高い開発や運用を支える鍵となる。SBOM(ソフトウェア部品表)やデジタルウオーターマークなどを用い、サプライチェーン全体でのトレーサビリティー確保が進む。適切な管理を怠ると、巨額の制裁リスクもあるとGartnerは警鐘を鳴らす。
データやアプリケーションを、グローバル展開するクラウドから地域に根差したソブリンクラウドや自社インフラへ移設するのが「ジオパトリエーション」。地政学リスクの高まりを受け、地域や国のルールが変更されることが背景にある。金融機関や政府機関に限定されていたソブリンクラウドは、世界情勢の不安定化に伴って幅広い組織に影響を及ぼし始めている。
Gartnerによれば、欧州・中東では、2030年までに75%以上の企業がジオパトリエーションを採用する見通し。
プロンプトインジェクションや不正操作、データ漏えいなどAI特有のリスクに対処するため、統合的に保護・監視するAIセキュリティプラットフォームが必要とされている。CIO(最高情報責任者)はこうしたプラットフォームによって、全社的なAI運用に一貫性と安全性を確保できるようになる。2028年までに、企業の50%以上がAI投資を保護するためにAIセキュリティプラットフォームを使用するようになるとGartnerは予測している。
ハードウェアベースの信頼できる実行環境(TEE:Trusted Execution Environment)でアプリケーションの処理を実行することで、機密性を維持するのがコンフィデンシャルコンピューティング。2029年までに、信頼されていないインフラで処理されるオペレーションの75%以上が、コンフィデンシャルコンピューティングによって保護されるようになるとGartnerではみている。
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